民医連新聞

2022年6月7日

「憲法カフェ ぷち」特別編 ウクライナ侵攻と憲法9条にまつわるQ&A特集

 「憲法カフェ ぷち」を連載する「明日の自由を守る若手弁護士の会」が、これまでに寄せられた質問や不安の声にお答えします。

Q 中国やロシアが、ウクライナと同じように日本にも侵攻してくるのではないですか?

 ウクライナ侵攻にも経緯がありました。なんの脈絡もなく突然始まったわけではありません。
 元々ウクライナには、ロシアとネオナチを巻き込んだ内戦の存在や、ロシアとNATO諸国に陸続きで挟まれているなど、紛争が激化しやすい環境がありました。そのようななか、軍事同盟であるNATOがじわじわと東方に拡大し、ロシアからすれば周りの国がどんどん敵の軍事同盟に加入して、緊張感が高まる状況でした。このような緊張状態にもかかわらず、アメリカをはじめとしてロシアとの交渉に応じなかった、という対応のミスも重なり、結果としてロシアに西方侵攻のきっかけを与えてしまった、という側面もあります。
 ロシアの行動は明確な国連憲章違反であり、絶対に許されません。しかし、侵攻しなければNATOの拡大を防げないという侵攻の「動機」、内戦への介入という侵攻の「口実」、完全に占領しなくてもウクライナの中立化(または親ロ化)さえ達成できればよいという、達成できそうな「可能性」がそろってしまいました。これにより侵攻がなされてしまった、というのが実際です。
 こうしたウクライナ/ロシアと日本/ロシア・中国とでは条件が全く違いますので、ウクライナが攻められたから日本も攻められる、というのはあまりに短絡的な議論と言えます。

Q ロシアを見ているとやはり、憲法9条では戦争は防げないのではないかと思いました。

 そもそも憲法9条は、日本が戦争を起こさないようにするためのものであり、日本を他国による侵略から守るためのものではありません。
 本連載の第1回に書いたとおり、憲法は国民が自由や人権を守るために、国家権力が暴走しないように縛りをかけている法です。憲法9条は、日本の国家権力が他国を侵略しようと思ってもできないようにしているわけです。
 際限ない軍拡競争は抑止にとどまらず、かならず戦争を起こしてしまいます。そこで、武力のない世界にするためには誰かが真っ先に武器を捨てなければ、そのとりくみは始まらない、という考えのもと、日本は先頭に立って武器を捨てようと9条を掲げており、実際に、戦後77年、日本は他国への侵略を一度もしていません。
 ですから、今回のウクライナ侵攻で得るべき教訓は、「ロシアに憲法9条と同様の定めがあれば侵攻は起こらなかった」という理解であって、「9条は無力だ」というのは9条の趣旨を無視した的外れな議論です。

Q では、すべての国が9条を持つまで、日本はどうすればいいの?

 2通り考えられると思います。(1)まず、国連憲章でも個別的自衛権は肯定されていますので、違法な先制攻撃を受けた場合、いま日本国内にある実力(自衛隊)で反撃する、ということが考えられます。日本は、軍事費が世界第9位で、1機100億円を超える最新鋭のF35戦闘機を100機以上調達しようとしており、極超音速ミサイルなどのミサイル兵器の購入もすすめていて、実力は世界第5位と言われています(https://www.globalfirepower.com/)。従って、日本は軍事力がないからすぐに一方的にやられてしまうに違いない、というのは誤った認識です。
 もっとも、こうした兵器の購入および配備により、かえって他国を刺激している可能性があることには注意せねばなりません。そもそも、他国から攻められないようにするために、軍備を減らして「あなた方のことを攻めないよ」という安心感を与えることを優先してとりくむべきかもしれません。
 (2)また、日本が違法な先制攻撃を受けた場合であっても、戦争の激化による被害の拡大や、57基もある原発が破壊されることを防ぐために、あえて反撃をしないということも考えられます。
 (1)と(2)のいずれを選択すべきかは、そのとき日本が保持している「実力」の程度や、国際世論の状況などによりケース・バイ・ケースとなるでしょう。

Q そうはいっても、軍備を増強しておかないと不安です。

 軍備の増強には、当然ですが財源が必要です。国のお財布は1つですから、軍拡イコールその他の予算を削ることになります。医療、介護、子育て、教育など市民のいのちや尊厳に直結する分野は、すでに危機的なほど予算が足りない状態です。しかし、軍拡となればここからさらに予算を削り、あるいは税金を引き上げたり年金を削ることになります。果たして本当にその方がよいでしょうか。
 それに、仮に軍備を増強したとしても、それを受けて他国もさらに軍備を増強するので、結局どこまで増強しても安心できる状況にはなりません。また、5月13日には、山口原子力防災相は「ミサイルが飛んできてそれを防げる原発はない」「(ミサイルからの原発の防衛は)これからもできない」と明言しました。際限のない軍拡では、いつまでたっても安心・安全を得ることができないことは明らかではないでしょうか。

Q 日本も核を持てば、侵略されないのではないですか?

 仮に日本が核兵器を保有することになれば、「ならばうちも」と対抗して核兵器の開発・保有をすすめる国が続くでしょう。「うちは保有するが他国は持つな」という主張はあまりに自己中心的で受け入れられませんから、もはや世界中の国が連鎖的に核保有国になることを容認するのも同じです。世界中の国が核兵器でけん制し合うことで平和を構築するが、200近い国のどこかで、何かのミスや誤作動で核兵器のボタンが押されてしまったら、一瞬にして世界規模の核戦争の危機が起こる、という状況がずっと続きます。果たして日本が核を持っていない状態よりも、その状態の方が安心だと言えるでしょうか。
 核兵器禁止条約が発効されて1年が経過し、参加国も着々と増えて「核兵器を持つことは異常」というコンセンサスがひろがりつつあります。核保有国ですら核不拡散条約(NPT)の枠組みを堅持しています。この状況下で、まさかの唯一の戦争被爆国・日本が「自分たちも核を」と言い出すことが、どれだけ国際的な批判を浴び信頼を失墜させるか、冷静に考えるべきです。場合によっては日本が国際社会から孤立し、経済制裁などを受けるおそれもあります。

まとめ ウクライナ侵攻のニュースが連日報道されて不安になるのは当然です。
 しかし、日本が軍拡すべきかどうかを考えるに当たっては、9条の正しい理解を土台に、武器を持つことがなにを招き、代わりになにを失うのかという観点からも、総合的に考えることが肝要です。

(民医連新聞 第1761号 2022年6月6日)

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