民医連新聞

2022年10月4日

コロナでなにが ⑩社協の特例貸付1.4兆円 「借金」にした政治の責任 償還免除で「給付」化を

 来年1月から、コロナ禍で社会福祉協議会(以下、社協)の生活福祉資金(緊急小口資金と総合支援資金)の「特例貸付」制度を利用した人の、借入金の償還(返済)が始まります(図)。償還通知が届き、自己破産する人が増えているとの報道も。支援の現場の実態を聞きました(※)。(丸山いぶき記者)

■「特例貸付」の裏側

 生活福祉資金貸付制度は、社会福祉法第2条などを根拠に都道府県社協が、(1)低所得世帯(おおむね住民税非課税程度)、(2)障害者世帯、(3)高齢者世帯を対象に、無利子または低利で実施しています。1955年からある制度で、生活再建ツールのひとつとして活用されてきました。
 特例貸付は、95年の阪神・淡路大震災以降、低所得者に限らず災害などの影響で当座の生活費を必要とする世帯に実施。コロナ禍以前は、東日本大震災の年の約12万件が過去最高件数でした。
 しかし、コロナ禍では2020年3月25日の受付開始からひと月余りで、その過去最高を更新。この2年半で約330万件、貸付総額は1兆4000億円を超えています。リーマンショック時の約54倍、初年度は前年度比200倍と言われる貸付実績のもと、それ以上の申請が全国の社協窓口に殺到。社協職員もまた、過重労働を強いられていました。

■本来の支援が届いていない

 要件緩和で間口がひろがり、生活保護より心理的ハードルが低かったこともあり、緊急に資金が必要な人に迅速に提供できた一面もありました。しかし、そうした緊急避難的な措置を、2年半にわたり10回もの申請期間の延長をくり返して継続。給付ではなく貸付に頼ってきた失策のツケは、支援の現場にも現れています。
 「明らかに返せる見込みのない人にも特例貸付が行われている」と話すのは、群馬・高崎中央病院の富岡真理子さん(SW)。70代の認知症患者Aさんは、かつて自営していた工場の経営不振による借金の返済に、年金と特例貸付のほとんどを充てて、生活困窮に陥っていました。
 社協は本来、ていねいなアセスメントを行った上で貸付の可否を決定し、貸付ができない場合にも家計相談や就労支援、債務整理、生活保護などにつなげてきました。Aさんも本来なら、貸付以外の適切な支援を受けられたはずでした。しかし、コロナ禍の特例貸付では、厚労省より迅速化を最大限優先するよう求められ、手続きを大幅に簡素化。その結果、貸付以外の支援を必要とする人が、支援の網からこぼれ落ちています。

■制度の把握、情報発信を

 富岡さんは、「Aさんをはじめ、民医連の病院で無料低額診療などの相談にたどり着く人の多くは、すでに経済的にかなり厳しい状況に陥っていて、実際には償還免除になるかもしれない。でも、そこに至らないまでも、困っている人が大勢いる。情報発信と幅ひろい支援の強化が必要だと感じる」と話します。
 千葉民主商工会(以下、民商)事務局長の鈴木登久子さんは、中小事業主にも特例貸付を受けている人がいるとしつつ、重ねて問題を指摘します。「休業や時短要請に応じて感染拡大防止協力金を受け取った飲食店は、協力金が収入とされるため課税所得が上がり、国保料などの納税額に跳ね返っている。今、支払い困難の相談が増えている」。そこに来年から、特例貸付の償還も加わるのです。
 「民商では、コロナ禍で実施されている制度やそれを利用した場合の注意点を、学習会やニュースなどで伝えている」と鈴木さん。

* * *

 全国社会福祉協議会(全社協)も、再三にわたり厚労省要請を行ってきました。償還困難な生活困窮者を含む貸付実態や、償還免除要件の拡大、一括免除、申請期間早期終了の必要性を訴え、貸付に留まらない生活支援策の拡充、中長期にわたる公的給付や相談体制の強化などを求めています。
 しかし、政府・厚労省は特例貸付を継続し、償還免除の要件も各貸付の判定年度に住民税が非課税であることなど、厳しいままです。「自助」を押しつける、ぜい弱な社会保障と政治の転換が、ますます求められています。

 ※制度概要や貸付実績、課題などは、生活保護問題対策全国会議などが主催した第13回生活保護問題議員研修会の資料を参照。

(民医連新聞 第1769号 2022年10月3日)

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