声明・見解

2022年10月4日

【声明2022.10.04】医療機関に不団結と分断を持ち込む「看護職員処遇改善評価料」を誰もが納得し良かったと思える内容に抜本的に見直すことを強く求める

2022年10月4日
全日本民主医療機関連合会
会 長 増田 剛

はじめに

 2022年10月からの診療報酬改定において、新型コロナウイルス感染症の対応などで一定の役割を担う病院に勤務する看護職員の処遇改善を目的に「看護職員処遇改善評価料」が新設された。この制度は、昨年11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」に基づき、2022年2月から9月まで対象病院の看護職員の賃金を月額4,000円引き上げる為の補助金が交付され、10月以降は診療報酬への加算で看護職員の賃金を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるとされたものである。補助金も診療報酬の加算も、救急搬送を年200件以上または高度な救急救命医療の提供などの条件を設け、対象医療機関、対象医療従事者を限定するという内容となった。

 今回の処遇改善に向けた制度は、看護師等の賃金の改善という前進面は一定の評価ができるものではあるが、その一方で、多くの医療機関、看護師をはじめとする医療従事者の間で十分な納得を得られるものではなく、医療機関内や地域医療機関に不団結と分断を創り出すなど、合理性を欠く付け焼き刃の施策となっており、医療機関に矛盾と混乱を持ち込むものとなっている。

1.すべての看護師を対象とした処遇改善を

 対象とされた「コロナ医療など一定の役割を果たした医療機関」などの線引きには、納得できる合理的根拠がない。対象とならなかった病院、診療所、訪問看護など、新型コロナウイルス感染症に立ち向かってきた看護職員の現場感覚と大きく乖離している。感染患者急増時に新型コロナ陽性入院患者への対応で特段の奮闘をした看護職員への特別の慰労であれば、本来一時金等の補助金で対応すべきである。また、診療報酬としたことで、本来提供した医療行為に対して支払われるものが、対象病院か否かで患者負担に差が生じるものとなっている。医療費の差を合理的に説明できないものとなっている。

 毎月決まって支払われる賃金の改善は恒常的措置であり、新型コロナウイルス感染症収束後も継続し、賃金格差が固定することになる。対象となる看護職員は約165万人の内、35%程度に限られている。限られた財源ということを前提としたとしても、一人当たりの金額が下がり、3%増に届かなくとも全看護職員を対象とすべきである。その上で、引き続き処遇改善のための財源確保を検討すべきである。
 また、何故対象病院だけなのか、薬剤師等は対象外なのかなど医療従事者の理解と納得のいく合理的な説明は不可能ものとなっている。

2.看護職員をはじめとする医療従事者の処遇改善及び体制充実に向けた診療報酬の引き上げを

 対象となる病院や職種を限定したことで、地域の医療機関間で賃金格差を広げることに加えて、複数以上の事業所を持つ法人では、配置された事業所により実質的に賃金体系に違いが生じることとなる。このことは、法人内の人事異動や採用でなど運営上の障害となる。

 自己財源での対象外の事業所職員や薬剤師などへの賃金改善をおこない矛盾を緩和できるのは、経営の安定している一握りの医療機関等に限られている。コロナ禍以前から、多くの医療機関は低診療報酬により経営は大変厳しい実態である。

 また、コロナ禍で最も困難となった課題は、看護体制の脆弱さである。看護師数の増員をはかれる診療報酬の改善こそが急務である。多くの医療機関が多額の紹介手数料を診療報酬から民間業者に支払い、なんとか看護体制を維持しているのが実態である。看護職員をはじめとする医療従事者の処遇と人員増可能な診療報酬の引き上げを強く求める。

おわりに

 以上のように、「看護職員処遇改善評価料」は、様々な矛盾を含む制度となっている。コロナ禍で奮闘してきた医療機関や医療従事者の実態を真摯に受け止め、現場の意見や要望をよく聞いて設計されたとは到底考えられないものである。

 2022年9月までの補助金を対象医療機関で受けないとの判断をした病院が約1割となっている。10月以降も「看護職員処遇改善評価料」を取得しない判断をせざるを得ない病院も出てくると思われる。とりもなおさず、今回の制度が多くの矛盾を内包していることからの苦渋の決断である。

私たちは、看護師をはじめとする医療従事者の処遇が改善され、医療機関の経営の安定を確保できる処遇改善のあり方について、この制度を漫然と継続させることなく、速やかな見直しを行うことを強く求めるものである。

以 上

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