民医連新聞

2022年12月6日

これでばっちりニュースな言葉 小規模事業者が廃業の危機 問題だらけのインボイス制度 こたえる人 全国商工団体連合会 運動政策局次長 小林俊光さん

 これまで、消費税の納税を免除されてきた小規模の事業者に、新たな税負担がのしかかる、インボイス(適格請求書)制度の導入中止を求める声がひろがっています。2023年10月からの実施が迫るにつれて、負担増の影響を受ける人たちの深刻さが浮き彫りになっています。全国商工団体連合会の小林俊光さんの解説です。

 「インボイス制度に登録していない業者は、水道局および下水道室発注の工事などの受注ができなくなります」「(個人タクシーで)インボイス対応車以外はJR駅構内のタクシー乗り場に入構できなくなります」―。インボイス制度の実施が予定される23年10月1日を前に、すでにインボイス非対応者(売上高1000万円以下の消費税免税業者)を取引から排除する動きが出ています。

■取引先停止や値引き強制

 全国商工団体連合会は、日本共産党の小池晃参院議員室の協力も得て関係省庁に問題点をただし、「(入札参加資格を定める法令に照らし)適切ではない」(財務省、総務省)、「(一律の入構制限は)独占禁止法に抵触する恐れがある」(国土交通省)などの回答を引き出し、是正させてきました。
 こうした問題は氷山の一角で、インボイス制度が実施されれば、消費税の負担をめぐって取引先から取引停止や値引きを迫られるなど、小規模事業者やフリーランスは廃業の危機に追い込まれかねない事態が想定されます。以下、インボイス制度の問題点を指摘したいと思います。

■登録すれば納税義務

 消費税は事業者が納税します。売り上げ分の消費税から、仕入れ・経費分の消費税を差し引いて納税額を算出しますが、インボイス制度の実施により、その計算方法が変わります。これまではすべての事業者からの仕入れ税額を引くことができましたが、制度実施後は税務署に登録することで付番される、頭にTという文字が付いた13桁の登録番号が記載されたインボイス(請求書や領収書など)がないと、仕入税額を引くことができなくなります。
 問題なのは、インボイス登録事業者は自動的に消費税の課税業者になってしまうことです。これまで年間売り上げが1000万円以下の小規模な事業者は、消費税の納税が免除されていました。しかし、登録すれば新たに納税義務が発生します。財務省の試算では、インボイス導入で新たに納税者となる事業者の平均年間課税売上は550万円で、平均納税額は15万4000円に上ります。年収300万円のアニメーターの場合で試算した結果、ほぼ1カ月分の所得を失うことになるなど、大きな負担増となります()。声優の有志団体の調べでは、年収300万円以下が7割超を占め、インボイスで2割強が廃業を検討との結果も出ています。

■免税業者は重大な選択

 一方で、免税業者のままでいることを選択した場合、インボイスが出せません。取引相手は仕入などの消費税が引けなくなるため、自身が払う消費税の負担が増えることになります()。免税業者は、取引相手から(1)課税業者になるか、(2)取引をあきらめるか、(3)消費税分を値引きするか―重大な選択を迫られることになります。
 課税業者の場合も、免税業者と取引することで、消費税を自分が肩代わりするか、取引先を見直すか、を迫られます。加えて、インボイスの登録番号が正しいかどうかの確認、課税業者か免税業者かどうかの確認など、膨大な実務負担が押し付けられます。
 インボイスは税率アップなき増税策で、事業者間での消費税負担の押し付け合いを余儀なくします。これまでの信用や技術力、サービスなどで選ばれ成り立ってきた取引関係を分断するものです。15%、20%とさらなる税率引き上げの環境整備でもあります。

■ストップ! インボイス

 冒頭の声のように、インボイスの影響は民間取引だけでなく、自治体の入札や公共調達にもおよびます。自治体の特別会計や企業会計で購入している物品やサービス業務、印刷など、あらゆる業務の取引でインボイスが必要になります。地域に根差した小規模事業者がインボイス登録をしないことで、公共調達から排除されるようになれば地域経済も疲弊します。
 いま、フリーランスや税理士、業者団体など広範な人たちの共同がひろがり、「STOP! インボイス」の声を上げています。
 問題だらけのインボイスは中止するしかありません。

(民医連新聞 第1773号 2022年12月5日・19日合併号)

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