民医連新聞

2023年1月5日

2023年新春インタビュー 東京都 杉並区長 岸本聡子さん 脱炭素とケアワーク中心社会に地域から政治の優先順位を変える

 昨年6月19日の東京都杉並区長選挙で、4選をねらった現職を破って当選した岸本聡子さん。海外での経験や現在の区政のなかでとりくんでいること、現場で働くケアワーカーについてインタビューしました。(文:長野典右)

 私は約20年、新自由主義や市場原理主義に対抗する公共政策の研究や、“水”などの公共財を守るための、世界的な市民運動と自治体とをつなぐコーディネートなどを、アムステルダムの非営利組織で行ってきました。
 昨春一時帰国した際に、杉並で草の根の活動を続けている団体から区長選への出馬を要請され、当初は固辞していましたが、私のこれまでの経験と知識を、地方政治の場で生かすことができるのではないかと思い直し、立候補することにしました。
 区民の価値観、ニーズは多様化し、求められる公共政策は多岐にわたっています。行政の力だけで課題解決をはかることは困難であり、区民や事業者が主体的に区政にかかわる、参加型の区政運営をすすめることが重要です。

■バルセロナでの市民運動のうねり

 スペインのバルセロナ市では2015年の地方選挙で、市民運動のなかで結成された地域政党が第1党になり、初めての女性市長が誕生しました。その背景には、過剰観光政策やリーマンショックの影響で、住居を追われる市民が多数発生し、また、水道の民営化で水の貧困家庭が続出するなど、コモンズ(公共財、公共サービス)の復活を望む声が勢いを増した社会情勢がありました。
 新市長誕生後は、市民参画で生まれたアイデアが次々に実現します。また、気候非常事態宣言を発し、野心的な政策に着手。その一つが「スーパーブロック」というもので、いくつかの街区を一つの大きな塊(スーパーブロック)としてまとめ、その域内への車の侵入が、あえて困難になるようにデザインをしました。自動車に占められていた公共空間を、市民の生活空間として取り戻すという発想で、道の真ん中に子どもの遊び場や植物、テーブルやベンチを配置したり、高齢者が休める休憩場所をつくったりしました。騒音がなくなり、花が咲き、人と人が出会う場所にまちが変わっていく。ヨーロッパにいると選挙で生活が変わるという体験を持ち得ます。

■区民との対話

 区長選挙以来、私が杉並区政のなかで一貫して掲げているのが「対話」です。区民の話を聞く、区民に話をすることだけでなく、区民が区政を自分事にしていく、主権者としての意識を取り戻していく作業ととらえています。そのためには、対話の結果が実際の区政に生かされる仕組みを確立することが必要です。区民参加型予算や気候区民会議などの実現に向けて、検討を開始したところです。
 地方自治は民主主義の学校と呼ばれます。一人ひとりが経験にもとづく言葉を持っていて、それらは断片的かもしれませんが、集まり、つながることで価値のあるセンテンスになってきます。
 サイレント・マジョリティー(意見を言わない大衆)、ヴォーカル・マイノリティー(声高な少数派)という言葉がありますが、私は言わば“ヴォーカル・マジョリティー(意見を言う大衆)”のまちをめざしています。

■子どもが憧れる職業に

 私は若いころから「気候正義」に関心を持っていました。気候変動や環境破壊による実害を受けるのは常に社会的弱者であり、つまり環境保全はそうした人たちを守るとりくみでもあるのです。
 ケアワークの現場では、職員の非正規化がすすみ、待遇が十分ではない状況が生じています。また、そうしたケアワーカーの多くは女性であり、そこにはジェンダー不平等も内在されています。
 環境や労働、ジェンダーなどの問題は、根底でつながっている今日的な課題なのです。ケアワーカーが大切にされ、子どもが憧れるような、誇りをもって長期的に働ける社会の実現が必要です。そのためには、政治の優先順位を変えなければなりません。
 みなさんも選挙に行き、お住いの自治体で声を上げて、地域から社会を変えていきましょう。

(民医連新聞 第1774号 2023年1月2日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ