民医連新聞

2023年2月7日

気候危機のリアル ~迫り来るいのち、人権の危機~ ⑥省エネの必要性と便益 文:気候ネットワーク

 日本国内での気候変動対策で、再生可能エネルギーの普及とともに必要なのが省エネです。日本は1970年代に起こった石油危機を契機に技術開発をすすめ、世界トップクラスの省エネを達成してきました。そのため、産業界を中心に「省エネはやり尽くし、もうやれることはない」という考えがひろがり、省エネは自主的なとりくみに任されてきました。結果、日本の省エネ技術は1990年代以降に停滞。一方、欧米諸国では、気候変動対策として省エネ技術の開発がすすみ、近年ではイギリスやドイツがすでに日本を上回っています。
 日本は現在、設備の老朽化やメンテナンス不足によるエネルギーロスが増大し、あらためて省エネが求められる状況になっています。工場設備の省エネ化、生産ラインのスリム化、機械の運転時間の短縮や運用方法を見直すこと、使用する機器・機械を性能の良いものに替えることが必要です。企業にとっても省エネをすすめることで、気候変動対策に熱心な企業として評価の向上も期待できます。
 また日本の建築物の多くは断熱性能が低く、壁や屋根、床、窓などから熱が逃げてしまい、エネルギー効率の低下の原因になっています。日本でも2025年から、新築の建物では一定以上の断熱性能を満たすことが義務化されます。さらに既設建築物の対策についても、すすめていくことが求められます。
 断熱性能の高い住宅に住むことは、長期的なCO2削減につながるだけではありません。日本のヒートショック()による死亡者数は、入浴中の事故だけに絞っても年間1万9000人にものぼると言われています。夏涼しく、冬暖かい家に住むことは、エネルギーコストの削減だけでなく健康被害のリスクを下げることにもつながるのです。住宅の断熱性能向上のためにかかる費用は、エネルギー費用の節約や医療費削減効果をあわせて考えれば、十分に回収可能なものです。加えて断熱リフォームや改修のための工事を、地域の工務店などで行えるようになれば、地域経済にも貢献することになります。
 気候変動対策はCO2削減にとどまらず、コスト削減や健康リスクの低減、地域経済の活性化など、さまざまなメリットや便益をもたらすことが期待できるのです。(豊田陽介)

※ヒートショック 急激な温度変化によって血圧が乱高下したり脈拍が変動する現象


気候ネットワーク

 1998年に設立された環境NGO・NPO。
 ホームページ(https://www.kikonet.org

(民医連新聞 第1776号 2023年2月6日)

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