民医連新聞

2023年6月6日

入管法改定案は廃案に 国際基準にもとづき難民認定を

 全日本民医連は4月19日、都内で会見し、「外国人医療に関わる事例調査」の結果を報告しました。医療がまったく保障されていない外国人の実態を告発し、あらためて今国会で審議されている入管法改定案の廃案を訴えました。結果概要と当事者の声を紹介します。(丸山いぶき記者)

 本調査は、入管法改定案の今国会提出が明らかになった段階で緊急に行いました。民医連に加盟する703事業所(病院・診療所・歯科)を対象に、2022年1月1日から12月31日の期間に、外国人の医療費の支払いに困難が生じた事例、医療費に関する相談を受けた事例を集約し、15都府県から139事例が寄せられました。
 報告数では愛知38、東京33、埼玉22、大阪11、群馬10と、都市部に多い傾向でした。国籍別ではイランがもっとも多い16件、トルコとナイジェリアが11件、フィリピン10件と続き、36カ国から。性別は男性が7割超、年齢は50代が最多の28%でした。

仮放免者が7割超

 健康保険の有無では、92%が「無し」(図1)。75%が無料低額診療事業(以下、無低診)を利用していました(図2)。在留資格は84%が「無し」。滞在状況は、75%が仮放免中でした(図3)。安定した住居に住む人は1割未満。職業は無職が約9割。おおよその月収は0円が圧倒的に多く、72%でした。
 入管庁は原則、在留資格を喪失した外国人全員を入管施設に収容しています(全件収容主義)。仮放免とは、その収容を一時停止し、条件付で身柄の拘束を仮に解く制度です。しかし、難民申請中を含む仮放免者は、就労を禁止され、県外移動を制限され、健康保険や生活保護も対象外です。

無低診の限界

 調査では、治療期間が1年以上におよんでいる人が46%にのぼり、糖尿病などの慢性疾患で生涯治療を要する人も少なくありませんでした。医療費の公的保障は、「無し」が91%(図4)、自治体の補てん事業を受けられたのは、わずか1件でした。医療費の支払い状況は、無低診で対応44%、未払い(一部未収含む)33%、民間支援団体5%。なかには、未収金570万円、治療期間1年以上、現在も通院中の事例も。日本語会話能力は、約半数が日常に支障があるほど不十分(図5)。行政の言語サポートを受けた事例は4%でした。
 日本人であれば国民皆保険制度のもと、無低診でも7割は医療機関の収益になります。しかし、無保険外国人の場合は、100%が実施医療機関の持ち出し。無低診での対応は限界を超えており、早急な公的支援が求められます。

改定案の非人道性

 難民申請の状況は、申請中58件、申請予定7件を合わせ、把握できた114人中57%でした。難民申請回数を把握できた38件のうち29%が3回目以上(図6)。今国会で審議中の入管法改定案が成立すれば、強制送還の対象です。
 会見でまとめを報告した全日本民医連理事の久保田直生さんは、「私たちが一生懸命医療を提供している、その外国人を、いのちの危機にさらされる母国へ送り返す今回の入管法改定案は、いのちを守る立場の私たち医療従事者に対する裏切りだ」と強調。国際基準にもとづく難民認定制度と、国際人権法を遵守した入管制度の確立などを訴えました。

「廃案に力を貸してください」
仮放免中のクルド人大学生

 私は小学校3年生の頃に来日して以来、約10年ずっと仮放免で生活する、クルド人大学生です。

クルド人であるが故に

 私は9歳までトルコにあるクルド人だけが生活する小さな村で暮らしていました。村の小学校ではクルド語が禁止され、クルド語で話すと、トルコ政府が派遣した先生から定規で手を叩かれるなどの暴力を受けました。都会ではクルド語を話すだけで、いのちの危険にさらされる状況。トルコのドラマは、トルコ軍を主人公にクルド人を悪役テロリストとして描くものが多く、そんな国だから、差別と迫害はなくなりません。私自身、クルド人=悪い人との意識を植えつけられており、来日当初は在日クルド人コミュニティーから逃げていました。
 父は私が1歳のときに来日。トルコ軍の最前線で、同じクルド人の武装勢力PKKと戦闘させられ、部隊では同僚のトルコ人に鉄くずで鼓膜を破られ、そうした暴力から逃れて来たのです。今その後遺症に苦しんでいます。高い医療費を払えず放置したことが原因で悪化し、脳に支障をきたすまでに至りました。日本の大学病院での手術は片耳だけで116万円。両耳を手術する必要がありますが、「それを払い切るまでもう片方の耳を手術できない」と病院から言われています。
 父にはトルコ政府から逮捕状が出ており、現在3回目の難民申請中。トルコに強制帰国させられたら、拘束されることは確実。その先を、私は考えたくありません。

入管収容=犯罪者扱い

 来日後に通った小学校で同級生がサッカーに誘ってくれて、サッカー選手になることが私の希望になりました。
 しかし、私が小学校4年生のころ、父が入管に収容され、私と母は引っ越すことに。転校先では父が収容されていることが知られ、父は犯罪者扱いで、私は仲間はずれにされました。はっきりした顔立ちを「かわいい」と言ってくれた前の学校の保護者と違い、「あの子と話さないで」と子どもに言う転校先の保護者の声には、ショックを受けました。私は学校に通えなくなりました。登校班から抜けて公園へ行き、下校時間になったら家に帰ることも。父の収容後、よく泣いていた母に負担をかけたくなかったからです。
 3カ月後に父の収容が解かれ、同級生も父が犯罪者ではないと理解してくれましたが、毎回の出頭日が不安になりました(※)。

サッカー選手の夢を奪われ

 その後、前に住んでいた町に戻り楽しい学校生活を取り戻し、中学からサッカー部に入りました。
 高校入学後、入管から初めて出頭を求められました。入管職員からの質問に礼儀正しく答えましたが、「あなたは日本で学校に通っても就職できないし、時間とお金の無駄だから国に帰って。サッカー選手になることは不可能」と言われました。私は成績が良ければ認めてくれると思い込み、必死に勉強と部活を両立。クラスで1・2を争う良い成績票を1年生の終わりの出頭日に持参しましたが、同じ言葉をくり返されました。
 私は絶望し、サッカー選手になる夢をあきらめ退部。退学も考えましたが、周囲の期待を裏切りたくないと思い、通い続けました。

私の人権は…

 高校2年生のある日に授業で人権について学び、人間が生まれながらに持つ、誰からも奪われることのない人権が、自分には保障されていないことに気づきました。仮放免により、就労や県外移動が禁止され、健康保険証や在留カードという日常に欠かせないものを所持できず、常に収容される可能性がある状態は、人権が保障されているとは言えません。
 難民認定されないひとりの難民として、なぜ自分の人権が保障されていないのか学びたいと思い、支援にも恵まれ、私はいま大学に通っています。いまの将来の夢はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で働き、誰もが人権を保障される国際社会になるように貢献することです。
 もう仮放免に将来の夢を奪われたくありません。現在の入管法改定案が通ってしまったら、国籍国から迫害を受けて逃げてきた難民を国籍国に帰すことになり、大勢のいのちが危険にさらされます。私もそのひとり、現在2回目の難民申請中です。人生の半分以上を過ごした第2の母国日本でこれからも暮らし、日本社会に貢献したい。いまの入管法改定案が廃案になるように力を貸してください。
 ※仮放免者は1~3カ月に1回、入管出頭義務がある


緊急スタンディングデモ
名南病院

 【愛知発】当院は2011年から無料低額診療事業を開始。当初は、社会保障制度の狭間にある日本人を想定していました。
 しかし、さまざまな状況下で無保険や無職になってしまった外国人への医療施策が不十分なため、すがるように流れてくる患者が少しずつ増えてきました。22年度の無低診利用者は352人、うち247人が外国籍で、その14%が仮放免や難民申請中です。
 当院の無低診・外国人医療支援のとりくみは、ヤフーニュースや名古屋テレビの情報番組でも紹介され、入管法問題が報道されるたび、不安の声が診察室でも聞かれるようになりました。「参議院で審議に入った入管法改定案を廃案とするため、当事者を診療している病院として、行動する義務がある」。小南重人院長のそんな提案から、5月17日の昼休みに「入管法改悪反対」緊急スタンディングデモを実施。急な呼びかけにもかかわらず20人が参加しました。その様子を病院の公式ツイッターにアップすると、大きな反響があり、TBS系の「報道特集」(5月27日)で放送されました。
 外国人にとっての無低診は、外国人の医療を受ける権利の保障と、背景にある人権問題を知らしめます。“外国人をどう扱うかはその国の人権保障のバロメーター”です。当事者や地域の支援者と力をあわせ、入管法改定案廃案まで、できることをやり続けたいと思います。(吉岡奨、事務)

(民医連新聞 第1784号 2023年6月5日)

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