声明・見解

2023年7月24日

【要請書2023.07.21】介護保険制度の改善等を求める要請書

内閣総理大臣 岸田 文雄 殿
厚生労働大臣  加藤 勝信 殿  

2023年7月21日
全日本民主医療機関連合会
会 長 増田 剛

 貴職の日頃のご奮闘に敬意を表します。
 現在2024年度予算編成に向けた本格的な作業が進められています。必要な時に必要な介護が保障されるよう、社会保障関係予算全体を大幅に増やすことをまず最初に強く求めるものです。
  介護関係では、「年末までに結論を出す」とされている利用料2割負担の対象拡大等の制度見直し、2024年度介護報酬改定、介護職員の処遇改善等が予算編成の中で検討されていくことになります。
 このうち利用料については、昨年来の物価高騰のもとで高齢者の経済状況は今までになく悪化しており、これ以上引き上げる環境にはありません。私たち民医連の調査(2022年11月実施)では、1割負担が2割負担となった場合、在宅サービス利用者(回答1,097人)の3分の1強が「利用を減らす」もしくは「利用を中止する」と回答しています。また、「今は負担が可能」と答えた利用者の多くが、今後サービスの利用が増えた際、利用料を払い続けることができるのか強い不安を抱いています。そもそも現在実施されている利用料2割負担は、法案審議の段階で示されていたモデル世帯のデータがその不備を指摘されて撤回された経緯があり、負担が可能かどうかの具体的な論拠が曖昧なまま導入されたものです。利用料2割負担の対象拡大を検討する前に、現在の利用料2割負担の利用者が経済的な支障なくサービスを利用できているのかどうか、まずその検証こそ必要と考えます。
 介護事業所は2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大による利用控えやクラスターによる大幅な減収に加え、昨年からは物価高騰が直撃し、かつてない経営的な危機に直面しています。こうした経営困難をつくりだしている最大の要因が介護保険創設以来、低く据え置かれ続けてきた介護報酬です。介護報酬の改定は、経営の安定性・継続性の担保、介護の質の維持・向上、働き続けられる労働環境の確保・維持、感染症・自然災害等への適切な対処等が可能となるよう、人件費をはじめとする必要経費を補償する観点から是非検討頂きたいと思います。
 介護従事者の処遇改善も待ったなしの課題です。処遇改善加算等により給与は徐々に改善されていますが、全産業平均水準からは7万円以上の開きがあります。介護事業所の人手不足は年々深刻化しており、今般のコロナ感染症はそれにいっそう拍車をかけています。人手不足の打開策として、テクノロジー機器の導入を要件とする人員配置基準の緩和が検討されていますが、人を機械に置き換えても人手不足は根本的に解消されません。有料職業紹介業者に支払う法外な紹介手数料が介護事業所の経営を圧迫しています。紹介手数料に上限を設けるなど、紹介業者に対する社会的規制が必要です。
 現在、新型コロナウイルス感染症が拡大の兆候をみせており、高齢者施設等でクラスターが散発しています。第7波・第8波では、医療体制が逼迫する中、入院できずに施設内療養を強いられ(いわゆる「留め置き」)、必要な治療を受けられないまま多くの高齢者が亡くなりました。在宅においても、重症化しても入院出来ないまま多くの命が失われました。感染が急拡大する過酷な状況のもとで、施設の職員や訪問介護員をはじめとする在宅事業所のスタッフは必死で介護にあたりました。5月8日から「5類相当」に切り替わりましたが、医療機関に対する支援策が大幅に縮小され、医療体制の整備等が専ら都道府県任せにされており、このままでは、高齢者施設、在宅において入院困難、治療困難の事態が再来することになりかねません。政府としてこれまでの感染対策に対する検証、総括を行い、今後の拡大に備え、医療・介護提供体制の確保・整備など必要な対策を早急に講じることを強く求めます。
 マイナンバーカードとの一元化による医療保険証の廃止は、受療権の重大な侵害につながるとともに、日常の諸対応のため利用者からカードを預からざるを得なくなる介護事業所やケアマネジャーに、カードの管理に係る重大なリスク、負担を負わせるものです。現場からは強い反対の声が挙がっています。

 以下、7点について要請します。

1 「年末までに結論を得る」(骨太方針)とされている利用料、介護保険料の見直しについて
 (1) 利用料2割負担の対象拡大を行わないこと。現在利用料2割負担となっている利用者が経済的な支障なくサービスを利用できているか実態の把握を行うこと
 (2) 介護保険料の引き上げを実施しないこと。低所得者を対象とする介護保険料の軽減措置を強化すること

2 令和6(2024)年度介護報酬改定について
 (1) 基本報酬(基本サービス費)の底上げを行うこと
 (2) 施設多床室の室料徴収の対象を老健施設等特養ホーム以外の施設に拡大しないこと
 (3) 福祉用具貸与利用のみのケアプランの報酬引き下げを行わないこと

3 介護従事者の処遇改善について
 (1) 職種・就業場所に関わらず、介護に従事する全ての職員の給与を早急に全産業平均水準まで引き上げること
 (2) 現行の処遇改善加算(介護職員処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算)を一本化し、利用料の負担が生じない交付金制度に切り替え、交付率を引き上げること
 (3) 申請等の手続きの簡素化を図ること

4  介護従事者の確保について
 (1) 政府として介護従事者確保対策を抜本的に強化すること
 (2) テクノロジー機器の導入を要件とする人員配置基準の緩和・切り下げを行わないこと
 (3) 有料職業紹介業者の紹介手数料に上限を設けること。「お祝い金」禁止などの指針が順守されるよう紹介業者への指導監督を強化すること。公的な職業紹介事業の機能強化を図ること

5 新型コロナウィルス感染症対策について
 (1) 感染症の拡大時において、定期・集中的な検査の実施、全介護従事者への無条件のワクチン優先接種など介護事業所の感染対策に対する支援を強化すること
 (2) 緊急時の介護人材確保、職場環境の復旧・環境整備に係る費用の助成を継続・拡充すること。
 (3) 施設内療養に要する費用の助成を拡充し、「医療機関の確保」の要件を撤廃すること。陽性者の自宅療養を支える在宅サービス事業者に対しても費用の助成を行うこと
 (4) 入院治療を必要とする高齢陽性者が確実に入院できるよう、医療体制の整備を図ること

6 物価高騰に対して
 (1) 物価高騰、水光熱費高騰に対する介護事業者への財政支援を継続・拡大すること
 (2) その際、新たな利用者負担が生じないよう対応すること

7 マイナンバーカードとの一元化による医療保険証(介護保険証)の廃止案について
 (1) 介護現場に様々な困難、混乱をもたらす医療保険証とマイナンバーカードとの一元化、医療保険証の廃止を実施しないこと
 (2) 介護保険証とマイナンバーカードとの一元化の検討を行わないこと

 以  上

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