民医連新聞

2004年2月16日

インタビュー 反「軍事大国化・構造改革」で手をつなぎ憲法守ろう

一橋大学教授 渡辺 治さん

 第36回総会を前に、情勢を見るポイントは? また、今後の運動と展望について、一橋大学の渡辺治教授にききました。(鐙(あぶみ) 史朗記者)

 九〇年代末から、米国が中心になって世界を支配する動きが強まっています。米国に本拠をおく多国籍企業が自由にふるまえる市場を世界に広げるためには、途上国の国民経済を破壊し、刃向かう国は軍事力でつぶすというやり方です。
 日本も、日本の多国籍企業が自由に活動できる市場を確保するために米国に追随、荷担し、軍事大国化の方向をとってきました。同時に、日本の大企業が世界 的な激しい競争に勝つため、大規模リストラ、労働者・下請けいじめを強化するだけでなく、大企業の法人税を軽くするために福祉や医療、教育を削減し、消費 税を増税し、「規制緩和」と称して農業や都市自営業の保護を廃止しました。これが軍事大国化と構造改革です。この二つが、平和と国民の暮らしに対して大き な脅威となっています。
 そして軍事大国化と構造改革推進の、いずれにとっても、「憲法」が大きな障害物になっています。だから彼らは憲法改悪を早くしたい。その辺がいま焦点になっていると思います。

いらだつ支配層

 米国が起こす戦争に、日本が軍隊を出せない、大きなしばりになってきたのが憲法九条です。
 「解釈改憲で憲法なんか役に立たない」という声がありますがそんなことはありません。自衛隊は今も「普通」の軍隊ではありません。今回も「給水」とか「復興支援」といわざるを得ない。
 小泉首相がイラクへ自衛隊を派遣する口実に憲法前文を読みました。憲法が嫌いなくせになぜ、引用したのか。私たちの「憲法を変えるな」という運動の力を恐れているからです。
 昨年の総選挙の中で、自民党、民主党が改憲を打ち出してきました。軍事大国化を完成させたい衝動と焦りが強まっているのです。
 しかし、イラクの自衛隊派遣に反対する声がますます強くなっていることも、私たちはきちんと見ておかなければいけない。世論調査でも多数の人たちが反対 している。だから、民主党は、イラク派兵は「憲法違反だ」といわざるを得ず、支配層をいらだたせています。運動の綱引きがあるのです。私たちは決して綱を 離しているわけではないので、綱をもっている限りは、彼らにとってはイライラがたまると思います。

両面のたたかいを

 二〇〇二年の通常国会に、小泉政権は、軍事大国化と構造改革の二本の法案を出しました。つまり、有事法制と健保改悪です。
 9・11事件を口実に「テロ特措法」がつくられた教訓から、有事法制反対運動は共産党と社民党がいっしょになって早く立ち上がりました。健保改悪反対の運動も早かったですね。
 二〇〇二年二月、埼玉の一万人が集まった健保改悪反対集会、連合や医師会も署名を集める大きなとりくみでしたね。その盛りあがりの中で、与党は困ったわ けです。強行採決は一つの国会で二つもできない。最終的に小泉さんは予算の関係もあって有事法制の成立を捨て、健保改悪を強行しました。
 あれだけ健保改悪反対の運動をしていなければ、有事法制が通ってしまい自衛隊をイラク戦争に行かせていたかもしれない。健保改悪反対の問題が出ていると きには、民主党は少なくとも政府側につけなかった。これがあの時、有事法制を通さない決定打でした。
 また、イラク攻撃前の昨年二月一五日、世界で同時反戦行動が起きました。ローマで三〇〇万人、ロンドンで二〇〇万人が参加しました。その要因には、「戦 争に反対」とともに、ローマの場合は「年金」、ロンドンの場合は「雇用を守れ」の運動が強くあったのです。ここから得られる教訓は、平和のためのたたかい と構造改革に反対するたたかいは、結合してはじめて大きなたたかいになるということです。

強調したい4つ

 憲法を守る運動では、いままでやったことがないようなひろい共同をつくることが絶対不可欠です。
 国会では自民党と民主党だけで三分の二とれてしまう。カギは、健保改悪反対の運動でやったように、民主党を改憲賛成の立場にまわらせないことです。最後 は国民投票で半数をとらせない。それには、憲法改悪に反対する運動と、構造改革の諸政策に反対する運動で、中心になっている人たちが、まず統一することが 大事です。それを核にして、自民党や民主党の議員を含め、「戦争を繰り返さない」という点で手を組み、「九条改悪反対」の一点で共同して国民の過半数以上 を組織していく必要があります。
 大きな運動をつくるためには、憲法九条が具体的に力になってきたことを訴えることも大切です。私たちは今まで九条とたたかいの力で、戦後ひとりも他国の 人を殺していません。核兵器も持っていないし、武器輸出もしていない。こういう日本を世界に広げていくことが必要です。また憲法を守るだけでなく、憲法を 具体化するたたかいの必要性を訴えなければなりません。とにかく大きな統一、広範な人びとの力を結合していくこと。これが強調したい第一です。
 第二は、構造改革に反対する運動と平和のたたかいを両方やることが非常に大事です。向こうは両面で仕掛けてきているのです。民医連の人たちには、両面でたたかってほしい。

提案型の運動を

 第三は私たちの運動をもう一歩バージョンアップして、単に支配層の攻撃に反対するだけでなく、軍事大国化・構造改革に対置する対案をつくろうではありま せんか。民医連でも学者たちと共同して、「消費税を上げずにどのように医療・福祉の財政をつくるのか」などを提案して下さい。「私たち自身が主人公になる 社会では、こんな風に」と考えていくことが必要ですね。「こういう平和の構想、こういう福祉の構想で」と運動する側がイメージを持てると、もっと元気が出 てくると思います。
 第四は、どうしても政治を変えなければならない。しかし残念ながらいまの選挙制度では、中央の政治をいきなり変えるのは、なかなか難しいですね。一つの 戦略として、地方から運動をつくっていくこと、地方から政治を変えることを提案したい。地方自治体は構造改革の攻撃の正面に立っています。私たちが地方自 治体を民主化し、福祉の実現、医療の改善などの経験を積み、対案をつくる力量を身につけていく。そして中央政治の奪取に迫る。これがカギだと思います。


一橋大学教授 渡辺 治さん
1947年生まれ。専門は政治学・日本政治史。編著書に『講座 戦争と現代1~5』『憲法「改正」は何をめざすか』など多数。

(民医連新聞 第1326号 2004年2月16日)

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