声明・見解

2023年10月25日

【要望書2023.10.20】入院時食事療養費改定に関する要望書

2023年10月20日

厚生労働省大臣 武見敬三 殿

全日本民主医療機関連合会会長 増田 剛
〃 栄養委員会委員長 島崎智子

入院時食事療養費改定に関する要望書

1.要望内容について
・物価上昇が続く中、入院時食事療養費は 30年近く据え置いたままの状態が続いています。病院給食の質を維持するためにも、入院時食事療養費に必要な費用について、適正な額に改正するよう強く要望いたします。また、適切な治療を行うためにも食事は不可欠です。治療拒否とならないよう、これ以上患者負担額の増えることのないように強く要望いたします。
・食数に関わらず、人件費および調理に必要な水光熱費を含めた固定費が発生します。この固定費については入院患者1人 1日あたりの報酬として支払われるように制度を変更することを要望いたします。

2.要望の理由
(1)病院給食のこれまでの経過病院給食は 1950年に完全給食制度が開始され、 1958年、基準給食制度に入院時基本診療料の一部として評価され、給食加算として 30点が付きました。
 1972年、入院時基本診療料の一部としての評価(給食加算: 30点)だったものが廃止され、入院基本診療料とは別に給食量: 40点と基準給食加算: 15点が新設され、診療費と同様に医療費として賄われるようになりました。
 1978年、給食料: 100点へとアップ、基準給食加算: 31点となり、医療食加算: 10点が新設され、より必要栄養量確保に重点を置いた食事提供に評価がつくようになりました。
 1994年、基準給食制度が現在の「入院時食事療養費」に改定されました。基準給食制度は食事が医療の一環として捉えられていたものが、「食事は入院関係なしに摂取する・・・すなわち自宅では自己負担なのに入院時だけ保険給付がつくのはおかしい」と、食事は医療ではないということで、保険点数ではない入院時食事療養費(単価/日)となりました。
入院時食事療養費 1900円について
もともとの基準給食制度の給食料: 143点+基準給食加算 47点= 190点
 ※1点 10円、190点×10円=1900円とそのまま置き換えられたものです。 1998年には、 1997年に施行された消費税増税( 3%→5%)の措置として 20円引き上げがあり、 1920円となりましたが、 2014年(5%→8%)、2018年(一部 10%)の増税に対しては何の措置もないままとなっています。
 2006年 1日算定だった食事療養費を 1食単位( 640円/食)に算定と変更になりました。
 640円の内訳
 2016年          患者自己負担 260円+保険給付 380円=640円
 2018年 3月まで      患者自己負担 360円+保険給付 280円=640円
 2018年 4月以降現在まで  患者自己負担 460円+保険給付 180円=640円
 ※難病患者や低所得者などに対しては証明書などの提出により自己負担 100円~260円になるよう軽減措置がありますが、患者の多くは 460円の自己負担です。
 1987年以降給食部門の外部委託化が認められ、様々な競争と共に急激にアウトソーシングが進みました。給食部門は一部委託や完全直営は赤字経営となりました。委託は人件費を最小限に抑え、 2004年あたりまでは利益が出て企業としては成り立っていたのだと思います。いかに人件費を最低限に抑え、事業所として赤字にしないことが、その事業所に配置されている職員の評価となっていました。ですが、 2017年の時点では全面委託でも最低賃金や経費が上がり以降赤字構造になっています。
 そもそも給食部門はなぜ赤字構造なのでしょうか。それは 1日 1920円では到底材料費、人件費、経費を賄いきれないからです。 300床規模の病院で年間 4000万ほどの赤字となっていました。 1食提供するたびに赤字が膨らんでいくのです。そのような中でも今までは病院の他の部門の収益でぎりぎり補えていたということですが、 2023年現在は昨年からのすべての物価高騰の影響でどうにもならない状況です。一般の飲食業界も同じく非常に厳しい状況は承知しています。それでも一般の飲食店は値上げができます。多くの客が価格を含め、店・料理などの選択ができます。ですが患者は提供されるものを選ぶことはできません。疾病に合わせた食事を治療の一つとして提供されるからです。
 入院中の食事は、生きるためだけではなく、病気を治療する上で必要であり、薬と同じ役割を果たしています。また、高齢化や疾患などに伴い摂食嚥下機能が低下した場合は、食べやすく工夫する必要があります。そうしなければ誤嚥や窒息につながるおそれがあるためです。摂食嚥下機能に合わせた食事形態にするためには、それなりの知識と技術を要します。治療のために必要な食事は管理栄養士により作られた献立のもと、調理師により安心で安全な食事形態へと調理され患者のもとに提供されています。またそこにはおいしさを追求する必要もあります。しかしながら、物価上昇だけでなく、水光熱費の上昇や、人件費削減による人材不足などにより、おいしくて栄養のある食事を提供しつづけることはすでに限界となってきています。自宅と一緒でよいはずがないものを無理やり改悪して、さらにそのまま放置しているのが現状です。
 さらに、社会保障が削減される中、私たち給食部門の話題が上がることはほとんどないと思います。医療法施行規則では、「給食施設は入院患者のすべてに給食のできる施設とする」とされており、それらを守るべく努力をしていますが、制度はこの法に反した動きをしているとしか思えません。

(2)病院、介護施設の給食部門の実態調査からの報告
 全日本民主医療機関連合会に加盟する病院、介護施設の給食部門において 2019年から 2022年までの食料費と食数の経過について調査を行い、以下のような実態が浮かび上がっていることを確認いたしました。下の表は、1食あたりの食材費の平均金額を表しています。各年度の平均金額は、2019年度が 249円、2020年度は 254.4円、2021年度は 255.1円、2022年度は 269.0円と、上昇傾向にあることが明らかとなっています。

以下の表は平均食数となります。2019年度は 13,621食、2020年度は 12,988食、2021年度は 12,755食、2022年度は 12,508食と、減少傾向に転じています。給食部門における最大の収入である入院時食事療養費は食数が減少することでさらなる赤字に追い込まれることが容易に想像できます。

 左側のグラフは委託給食会社が入っている事業所について、 2023年以降、契約している食材料費や給食委託費の動向を確認したものになりますが、 66.7%が「値上がりした」「値上がり予定」と回答しています。1食あたりの値上げ幅は、 7円~70円、平均すると約 20円の値上げとなっています。それに加えて、委託管理料が 5~10万円/月上がるという事業所も見受けられました。中には 1食あたりの食事代が、入院時食事療養費の 640円/食を超えている事業所もありました。
 先ほども記載しましたが、委託給食会社も利益を出すために、人件費を抑えて努力はしているものの値上げせざるを得ない状況となっています。事業所側としては、食数の減少により収入が減っている中、患者の栄養量確保のためには苦渋の決断を迫られています。
 給食部門としては、各年齢区分に見合った栄養量や治療に必要な栄養量を供給し、充足できるように確保しなければなりません。そのためには患者さんにもしっかりと食べてもらえるような工夫もしなければならず、患者満足度を上げる努力も必要です。しかしながら、努力だけでは賄いきれない現状となってきています。このままでは、必要な栄養量を確保することができなくなってしまいます。現場は逼迫しています。何卒、ご理解ください。

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