民医連新聞

2023年11月7日

ともに生きる仲間として―非正規滞在の移民・難民たち 第15回 「不法」と呼ぶのはもうやめよう 文:大川 昭博

 日本では、在留資格のない移民をさして「不法滞在者」や「不法残留者」という表現がよく使われます。海外では、1975年の国連総会決議にもとづき、「irregular」(非正規)あるいは「undocumented」(無登録、未登録、書類のない)といった表現が一般的です。行政法上の「違反」を「不法」とするのは不正確であり、「非正規滞在」などと表現するのが国際標準です。
 在留資格がないことは、人間を傷つけたり財産を奪ったりするような「犯罪」ではありません。法違反とは特定の行為が法に触れたことをさし、移民の存在自体を「不法」と形容する「不法滞在者」や「不法移民」という呼び方は不正確です。
 そして、特定の移民・難民を「不法」とみなす認識は、彼らが生活者としてこの社会に暮らしている事実を見えなくし、また彼らの尊厳を奪う点で有害です。外見や民族、宗教などが異なる人に対する差別意識を助長し、ヘイトクライムを引き起こし、社会の分断を深めます。
 国際法のもとでは、すべての人が国籍国を出国する権利をもちます。また、国境にたどり着いた人びとは、人権を保障されるべき存在です。国家には在留資格にかかわらず、その管轄下にあるすべての人の人権を保障する義務を負うことが「市民的及び政治的権利に関する国際規約」にも規定されています。在留資格をもたない人に、非常にネガティブなイメージのある「不法」というレッテルを貼ることは、彼らを脆弱(ぜいじゃく)な位置に追いやり、搾取や虐待、人身売買など不当な扱いにさらします。
 2023年6月19日、南日本新聞は、「不法残留容疑でベトナム国籍の男逮捕。身分証明書提示せず、病院が通報」と報道、2023年9月24日のIBC岩手放送は、「『身分証を持たない外国人が来院した』盛岡市内の医療機関の通報で判明。べトナム国籍の男が逮捕」と報道しました。患者を病院が通報するという信じられない事態が日本でも起きています。在留資格のない移民・難民を「不法」と呼ぶことは、もうやめにしましょう。


 おおかわ あきひろ 移住者と連帯する全国ネットワーク理事。『外国人の医療・福祉・社会保障ハンドブック』(2019年、支援者との共著)

(民医連新聞 第1794号 2023年11月6日)

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