民医連新聞

2024年1月5日

新春対談 日本国憲法を力に 世界に平和を 室蘭工業大学教授 清末 愛砂さん × 全日本民医連会長 増田 剛さん

 昨年10月から始まったイスラエル軍の攻撃で、パレスチナのガザ地区では、膨大な数の人びとが傷つき、いのちを落としています。私たちにできること、求められる視点は。室蘭工業大学大学院教授の清末愛砂さんと、増田剛会長が語り合いました。(多田重正記者)

人間の尊厳を奪う占領下の現実

 増田 清末さんは、パレスチナを支援する活動をされてきました。ガザをめぐる事態を、どんな視点から見るべきだと考えますか。
 清末 軍事攻撃とその被害はたいへん深刻で、一刻も早い停戦が望まれます。ただ、停戦が実現しても、イスラエルがガザを封鎖している事実は変わらず、問題は解決しません。軍事面だけでなく、「封鎖下で暮らす」ことが何を意味するのか、考えてほしい。
 1967年の第三次中東戦争以降、パレスチナのガザ地区は、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区とともに、イスラエルの占領下に置かれています。
 とくにガザは、2007年以降、イスラエル軍によって封鎖されています。経済発展も、医療や教育へのアクセスも封鎖に決定されている。エネルギーも不足し、衛生状態も悪く、失業率が非常に高くて、半数以上の人たちが、国際機関やNGOの支援がなければ生きていけません。

 増田 重大な人権侵害ですね。
 清末 今回のかつてないほどの大規模攻撃以前から、イスラエル軍は頻繁にガザを攻撃してきました。大規模でなければ国際的に注目を浴びませんが、ガザの人びとへの軍事攻撃は、支配者の力を見せつけるために、イスラエル軍がいつでもなし得るものなのです。
 北海道パレスチナ医療奉仕団は、医療と教育の二つを柱に支援活動をすすめています。私は子どもたちを対象とした絵画教室にとりくんでいます。ガザの子どもたちの多くは、表面的には穏やかな顔ですが、父親を殺された家族の様子、友だちが殺されてサッカーができなくなったこと、有刺鉄線など、封鎖の現状を反映した絵を描いてくれたこともあります。ガザの16歳未満の子どもたちは封鎖の現状しか知りません。心も傷つき、自由を渇望しています。

 増田 人間の尊厳が奪われている。「天井のない監獄」と呼ばれる理由が伝わってきます。子どもの成長には、安心・安全が何よりよりも大切なのに。

憲法に掲げられた平和的生存権を指針に

 増田 清末さんは緊急出版した『平和に生きる権利は国境を超える』でパレスチナの現状を、平和的生存権の視点からとらえて行動する重要性も強調していますね。
 清末 日本国憲法前文は「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」としています。つまり、私も日本人として「パレスチナ、ガザの人たちにも平和的生存権がある」と確認しているはずです。
 では、自分に何ができるか。私は憲法研究者ですから、パレスチナが占領されている不当性を法的に分析し明らかにする。そしてとくにガザの人たちは「自分たちの現状を世界の人たちは知らないのでは」という孤立感を持っていますから、北海道から毎年支援に行くことが「あなたたちのことを忘れていない」との意思を伝えることになると思って活動しています。
 日本政府に対し、憲法にもとづいて、全世界の人びとの平和的生存権を守るために動くように言っていくことも重要です。
 増田 日本政府は「イスラエルにも自衛権がある」と言っています。
 清末 それならパレスチナ人にも民族自決権にもとづく抵抗権がある。国連憲章第51条の自衛権も「国対国」を想定したもので、国でないものに対して自衛権が主張できるのかという問題があります。
 メディアは「ガザを実効支配するハマス(武装勢力)」と言いますが、ガザを支配しているのはイスラエルです。自衛権を持ち出して占領している側が占領されている側を攻撃したら、圧倒的な力の差があるため、すさまじい暴力が使われ、何でも正当化されてしまいます。

 増田 まさに今の事態ですね。
 清末 だから私は、国ではないものに対する国の自衛権は認められないという、国際法の伝統的な立場に立ちます。国際司法裁判所もこの立場です。仮に自衛権があるという立場に立ったとしても、イスラエルの攻撃は自衛権では正当化できないレベルです。

力による支配──占領とDVの共通点

 増田 病院を標的にし、市民を虐殺するなど、明らかな国際人道法違反ですね。血まみれの被害者の姿も報道され、胸が痛みます。
 清末 イスラエルがやっていることは、ドメスティック・バイオレンス(DV)に似ています。殴る蹴る、心理的経済的に追い込むという行為は手段にすぎず、DVの本質は相手を支配すること。イスラエルは、ガザの住民が封鎖に抗議する非暴力のデモをするだけで脚を撃つなど、力を見せつけます。
 しかし暴力による支配は反発しか招きません。今の事態の引き金となった、ハマスのイスラエル市民への攻撃と拉致(らち)(昨年10月)は戦争犯罪で、許されないことです。同時にハマスの攻撃の背景にイスラエルの占領、封鎖があることも明らかです。イスラエルの首相は「ミスター安全保障」を自負しますが、力による支配が何をもたらしたかという教訓を、私たちは学ぶことができると思います。
 日本がすすめる軍拡も、軍事力で他者を圧倒し支配しようとする発想です。こういう発想を国が全面に出すこと自体、力が強い者が優遇される社会を肯定することにつながるし、子どもたちへの影響も大きいと思います。

アイデア次第でいろんなことができる

 増田 アメリカでもユダヤ系の人たちが、「パレスチナに平和を」と声をあげていますね。民医連の仲間も、ロシアのウクライナ侵略や、ガザへの攻撃に対し、抗議のスタンディングを続けています。
 国連総会では、アメリカなどの妨害を受けながらも、イスラエルとハマスの間の休戦を求める決議を採択するなど、人権を大事にしようとする動きがひろがっている。ここに光があると感じます。
 G7など大国の影響力は、明らかに弱くなっている。公正を求める南半球の「グローバルサウス」と呼ばれる国々の発言力も強まっていますね。日本でも自分たちの国に、世界の人びとの平和的生存権を守るために行動するよう、迫っていかなければ。私たちの行動が、SNSなどを通じて、世界の人たち、そしてパレスチナの人たちを励ますことになればうれしい。
 最後に、民医連職員にメッセージをお願いします。

 清末 奉仕団には、医師、看護師、理学療法士、事務など、道民医連の職員も多く参加しています。団長の猫塚義夫さんも、民医連の医師です。現地に行く人もいれば、それをささえる活動をしている人もいる。若い人も多いですし、民医連の患者さんもいますよ。
 奉仕団にかかわらなくても、イベントにWEBで参加してくれるだけでもいい。どんなことが起こっているのか、現実を知って、ひろげてほしいと思います。
 日本にいながらできることも、たくさんあります。一人でスタンディングをしている人が各地にいます。室蘭市では、焼き芋を売ってガザの支援金にあてている人もいるそうです。どこからか話を聞いて焼き芋を買いに行った友人が教えてくれました(笑)。アイデア次第で、いろんなことができると思います。

 増田 私たちはコロナ禍で、医療体制がひっ迫し、何よりも大事ないのちが簡単に失われるという、たいへん悔しい思いをしました。
 そして今、ウクライナやガザではもっと露骨な形でいのちが奪われている。いのちと人間の尊厳を守るために、民医連もさらに活動を発展させたいと思います。
 ありがとうございました。
(対談は昨年12月6日、WEBで実施)
【北海道パレスチナ医療奉仕団ホームページ】https://hms4p.com/


清末 愛砂さん

 きよすえ・あいさ
 室蘭工業大学大学院教授。専門は憲法(特に24条)、ジェンダー法学。北海道パレスチナ医療奉仕団団員。2012年からアフガニスタン女性革命協会(RAWA)と連帯する活動にかかわり、現在「RAWAと連帯する会」共同代表。

(民医連新聞 第1797号 2024年1月1日)

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