民医連事業所のある風景 静岡 三島共立病院 事業所のなりたち
三島共立病院の新病院建設に向けた議論が始まったのは、今から8年前にさかのぼる。当時、法人は約3億円もの累積赤字を抱え、また病院はスプリンクラー未設置という重大な課題に直面していた。法令上、スプリンクラーの設置が必須であり、このままでは地域医療の灯が消える危機にあった。地域の医療を守るという強い使命のもと、新病院建設を柱とした再生計画が立ち上がり、6年におよぶとりくみが本格的に始まった。
その過程で、当院は医師会からの要請で「救護医院」の役割も担うこととなり、災害対応力の強化は病院づくりの重要な柱となった。災害時に玄関前で迅速にトリアージが行えるよう、軒下を大きく張り出し、雨天でも患者が濡れずに対応できるスペースを確保した。待合室の椅子はベッドとして転用できる設計とし、緊急時の収容力を高めている。また、井戸水を引き込み、断水時でも最低限の水源を確保できるよう整備したほか、玄関前の柱には災害時用の屋外コンセントを設置し、停電下でも発電機と連動して医療機器の使用や携帯電話の充電が可能となっている。これらは「災害に強い病院」を実際の形として示すものであり、地域の安心につながるとりくみである。
コロナ禍では「断らない医療」という理念が真価を発揮した。地域で発熱外来が次々と縮小するなか、救急車が行き場を失い、医療崩壊の危機が目前に迫った。当院はすべての救急搬送のトリアージを担い、保健所と連携しながら自宅療養者への電話支援やPCR検査体制の拡充にとりくんだ。また、コロナワクチンは延べ2万回を超える接種を実施し、感染拡大防止に大きく貢献した。さらに、5床のコロナ特例増床が認められ、ひっ迫する入院需要に応えた。これらのとりくみは地域から高い信頼を得るとともに、病院経営の改善にもつながった。新病院ではコロナ禍の教訓を生かし、感染症対応の陰圧室も8床備えている。
救急医療の面でも大きな飛躍があった。かつて月10台程度にとどまっていた救急搬送受け入れは、現在では年間700台に達し、地域の救急医療を支える重要な拠点となっている。救急隊からの信頼や期待も一層厚いものとなった。
在宅医療・福祉との連携も強化されている。訪問診療や施設支援は700件に広がり、地域の高齢者が慣れ親しんだ暮らしが続けられるように支援体制を整えている。また、嘱託医としてかかわる施設も5施設となり、住み慣れた地域で安心して生活できる環境づくりに寄与している。
8年前の危機から始まった歩みは、地域の人々や友の会の方々とともに課題を乗り越えてきた歴史そのものである。6年の歳月をかけた新病院建設はその象徴であり、現在の三島共立病院は地域医療を守る揺るぎない基盤として新たなステージに立っている。これからも「誰ひとり取り残さない医療」「断らない医療」を掲げ、地域とともに歩みを続けていく。
(三島共立病院 事務長 浅利直美)
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