第47期第1回評議員会方針(案)
2026年7月18日 全日本民医連第47期第6回定例理事会
第1章 「新しい危機的なフェーズ」が深刻化するなか、平和と民主主義を求め立ち上がる市民の運動
第1節 核保有国による力の支配により大きく揺らぐ国際秩序
第2節 自民・維新連立政権のもとで急速にすすむ戦争する国づくり
第3節 改憲をめぐる危険な情勢
第4節 社会保障費抑制策がもたらす「いのちの危機」
第5節 大きく立ち遅れる日本のジェンダー平等と民医連のとりくみ
第6節 平和と民主主義を求める市民運動のひろがりと地方自治の着実な前進に確信を
第2章 非戦・人権・くらしを掲げ、社会保障を守り発展させるとりくみを共同組織とともに地域から
第1節 平和憲法を生かし、戦争のないいのちと人権が大切にされる社会へ
第2節 いのちとケア、社会保障拡充に予算を使う国への転換を
第3節 「たたかいと対応」を強め、将来展望を切り開く事業体系・戦略を構築しよう
第4節 SDH、包摂の視点で社会問題を捉え、人権を守りぬくとりくみを地域でひろげよう
第5節 共同をひろげ、いのち、健康、くらしが守られるまちづくりをすすめよう
はじめに
岩手の地で開催した47回総会において、私たちは旧沢内村の「生命尊重」の精神を再確認し、憲法の理念が輝く社会の実現と9条を守りぬく決意を固め合いました。総会では『新しい危機的なフェーズ』に入った世界と日本」、という時代認識を共有し、日本国憲法と国民皆保険制度をまもり、住民要求にこたえる事業体系の構築と職員の確保・育成での前進をめざす今期の運動方針を練りあげました。
総会運動方針学習月間は、近年にも増して多くの職員が方針を読了し、「読む」から「対話し、自分たちの実践をふり返り、行動につなげる」へ一歩前進させるための努力と工夫が各地で生まれました。動画、ラジオ、クロスワードクイズなど多彩な学習資材を活用し、「ケアの倫理」を土台に、平和・憲法・社会保障を現場の実践と結びつけて考えるなど、多忙な業務のなかでも参加しやすい仕組みづくりがひろがったことが特徴です。
全国の民医連職員はこの半年間、総会方針の学びを力に、患者・利用者に寄り添い奮闘し、総会方針の実践に力を尽くしてきました。
高市政権による、戦争する国づくりにむけた暴走と社会保障費の削減が一体的に強行されるなか、秋から冬にかけてのたたかいは、平和憲法と社会保障を守る運動を地域から巻き起こすことです。「憲法CaféⅡ」と「9条署名」を手に学習と対話をひろげ、「ミサイルよりケアを」の運動を推進します。人権・倫理の「タイムアウト」にとりくみ、現場の気づきからはじめるソーシャルアクション・社保運動を推進します。11月に開催予定の核兵器禁止条約(TPNW)再検討会議にむけ、日本政府に対し、同条約への署名・批准を求める運動を強化します。こうした活動を共同組織とともにすすめ、第17回共同組織活動交流集会in東京と共同組織拡大強化月間を成功させましょう。
第1回評議員会の任務は、(1)47回総会以降の情勢の変化に見合う次回評議員会までの方針を確立し、(2)半年間の決算報告を承認し、(3)今期の選挙管理委員を選出することです。
第1章 「新しい危機的なフェーズ」が深刻化するなか、平和と民主主義を求め立ち上がる市民の運動
総会方針でしめした「新しい危機的なフェーズ」はさらに深刻化しています。平和と社会保障が戦後最大の危機を迎え、さらに民主主義が根幹から脅かされています。
第1節 核保有国による力の支配により大きく揺らぐ国際秩序
(1)止まらない国連憲章・国際法違反の軍事行動
2026年2月28日、アメリカとイスラエルはイランに対し、一方的かつ国際法違反の攻撃を開始し最高指導者を殺害しました。この空爆でイラン南部の女子小学校で少なくとも175人の児童らのいのちが奪われ、以後も多くの市民が犠牲になっています。ホルムズ海峡封鎖は、世界経済を混乱させ、市民生活へ深刻な影響をおよぼしました。6月17日の戦闘終結にむけた「覚書」後も不安定な状況が続いています。「覚書」は、イランの核問題の結論が事実上先延ばしにされたほか、「主権尊重・内政不干渉」が記され、イランの政権転覆をねらったアメリカの敗北とも言える内容です。アメリカとイスラエルの戦争責任が厳しく問われなければなりません。
ロシアのウクライナ侵攻から4年以上が経過しました。今なお激しい暴力が続き、和平交渉は行き詰まっています。国連は、ウクライナで約1080万人が人道支援の必要な状況に陥っていると指摘しています。
ガザでも、深刻な人道危機が継続しており、2023年10月以降の死者は7万2000人超、4万3000人以上が四肢切断や脊髄損傷、重度熱傷など「人生を変える重傷」を負いました。210万人が生活基盤を喪失し、食料、医療、住居、水などの支援が必要とされています。

平和行進でアピール(愛知・千秋病院)
キューバは長年にわたる米国の経済封鎖に加え、エネルギー供給が遮断され危機的な状況です。10万人が手術を待ち、6万人が放射線治療を受けることができない状況と報道されています。7月7日、国連総会は、米国の封鎖措置をめぐり協議を行いました。「キューバの体制転覆まで」と公然と主張し、民族自決権擁護の原則を否定するトランプ米政権に対して、各国代表から「国連憲章違反」「正当化できない」との批判があいつぎ、制裁の解除を求める決議が165カ国の賛成で採択されました。
国連憲章、国際法は、二度の世界大戦の痛苦の経験から、人類が築きあげてきた国際的な秩序であり、平和を維持するためのルールです。民医連は、暴力と排除による力の論理ではなく、こうした国際規範にもとづき、平和的な外交による解決を求めます。
(2)NPT会議で鮮明になった核軍縮を願う国際世論
第11回核不拡散条約(NPT)再検討会議(2026年4月27日~5月22日)は3回連続で成果文書を発出せず閉会し、核廃絶を求める世界の人びとを落胆させました。原因は核大国の姿勢にあります。しかし、準備された成果文書案には、国連憲章の遵守、非核兵器国への核使用・核威嚇の禁止、核軍縮交渉義務(NPT第6条)の履行などが盛り込まれ、7割を超える締約国がそれを支持し、再検討会議が今後も継続することは重要な意義を持ち、核兵器禁止条約再検討会議への大きなステップとなりました。唯一の戦争被爆国でありながら第6条に触れず、核大国に同調した日本政府の姿勢は許されません。7月2日現在、日本政府に核兵器禁止条約への署名批准を求める意見書採択が全国の4割を超える756自治体にひろがっており、この運動をさらに強めることが求められます。
第2節 自民・維新連立政権のもとで急速にすすむ戦争する国づくり
自民党と日本維新の会は、連立政権合意書にもとづき、大軍拡計画である「安保3文書」の前倒し改定や敵基地攻撃の長射程ミサイル配備をすすめており、国家権力をさらに強化し国民の権利を制限する法案を、強引な国会運営のもとで次つぎ成立させています。自民党と日本維新の会の連立政権によって、戦争する国づくりが急速に進行する危険な情勢です。
(1)アメリカ追随の戦争する国づくりへ加速する高市政権
イラン情勢では、高市首相は「法的評価は差し控える」と国際法遵守に背をむけています。2026年3月19日に行われた日米首脳会談では、トランプ大統領に対し、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と発言し、従属ぶりを世界にさらしました。
アメリカのイラン攻撃に際し、在日米軍がイラン攻撃に参加し、日本がアメリカの戦争に巻き込まれる危険性が浮き彫りになりました。イランの報復攻撃は、バーレーン、クウェート、UAEなどの米軍基地が標的となり、米軍基地があることで、日本が攻撃対象となりうることをしめしています。日米安保条約第6条は、「日本の安全と極東の平和と安全」に寄与する米軍に施設・区域を提供するとしており、イラン攻撃への参加は条約違反です。在日米軍が海外で戦闘作戦行動を行う際は、日米間で「事前協議」を行うことになっていますが、日本政府は在日米軍の参加を「移動」であるとして、事前協議の対象外としています。
(2)軍事費偏重の2026年度予算編成
一般会計の総額が122兆円超の2026年度予算が成立しました。防衛関係費(関連経費含む)は、過去最大の10兆6000億円を計上しました。総額が前年度から約1兆3000億円積み増され、国民一人あたりでは約8万9500円で前年度から約1万円増加となりました。
軍拡財源をまかなう「軍拡増税」として、2026年4月から実施されたのが防衛特別法人税の創設とたばこ税増税です。さらに2027年1月から、防衛特別所得税を創設し1%が課されます。
トランプ米政権が同盟国に防衛費をGDP比3・5%、21兆円への引き上げを求めています。さらに米国防総省の「国家防衛戦略」ですべての同盟国に5%以上への増額を要求することを掲げました。そうなると、2022年度の安保3文書策定前は5兆円規模だった防衛費が35兆円もの途方もない規模になり、国民1人あたりの負担額も2022年度の6万円から28万円へ増大します。一方政府の医療制度改悪は「現役世代の負担軽減」の名のもとに行われていますが、軽減される保険料は年額でわずか約2200円、月額にしてペットボトル1本分(約183円)です。
厚生労働省が7月15日発表した2025年国民生活基礎調査結果からは国民生活の厳しさが浮き彫りになりました。相対的貧困率は15%で、およそ7人に1人が、標準的な生活水準とくらべて低所得の状態です。特にひとり親世帯では44・7%が相対的貧困状態にあります。生活意識について、「苦しい」と回答した世帯は全世帯で55・4%でした。世帯別では、高齢者世帯52・1%、児童のいる世帯61・5%に対し、母子世帯は82・1%と特に高く、前回調査の2022年と比較して全世帯で生活の厳しさが深刻化する結果となりました。
(3)人権と民主主義を脅かす「戦争を前提とした国」への危険な変貌
政府・与党は、防衛装備移転三原則とその運用指針の改定を閣議決定し、全面的な武器輸出に道を開きました。さらに、国家情報会議設置法による情報機関を一元化と強化、国旗損壊処罰法による思想の自由の制約、個人情報保護法改定によるプライバシーの侵害、皇室典範改定による男系男子継承への固定化など一連の法制度の見直しは、見送りとなった衆議院比例定数削減による少数意見の切り捨ても含めて、民主主義や基本的人権を軽視し、国家権力を強める方向に制度を組み替える動きです(8頁の資料参照)。
高市首相は、野党が求める国会審議への出席にも消極的で、歴代首相に比べ出席時間も短くなっています。この姿勢は、議院内閣制のもとでの国会への説明責任や、国会を「国権の最高機関」(憲法41条)とする憲法の精神に反するものと受け止められかねません。
立憲主義は、憲法によって国家権力を制限し、国民の自由と権利を守ることを基本原則としています。しかし、高市政権がすすめるこれらの政策は、憲法が保障する平和主義や基本的人権、民主主義の原則を後退させ、国家権力への歯止めを弱めるものです。国民生活の厳しさには背をむける一方で、戦争遂行に必要な軍事・情報・統制の仕組みを平時から整備することで、戦争する国づくりからさらに戦争を前提とした国家体制へ転換させようとしています。
いま求められているのは、個々の制度改定の問題点を明らかにするとともに、国家権力を憲法で縛るという立憲主義を守り、平和主義、民主主義、基本的人権を一体のものとして擁護するとりくみです。
第3節 改憲をめぐる危険な情勢
(1)高市政権の改憲策動

4月12日の自民党大会で高市首相は、「立党から70年。時は来ました…(中略)改正の発議について、なんとかめどが立ったと言える状態で、皆様とともに来年の党大会を迎えたい」とのべました。憲法尊重擁護義務を負う現職首相が時間枠まで設けて、改憲の旗振りをするのは極めて異例な事態です。4月9日の衆院憲法審査会では、日本共産党以外の各党が改憲議論へ前のめりの姿勢を見せました。しかし、憲法記念日の朝日新聞の世論調査で、9条を「変えないほうがよい」は、前回の56%より増加し63%でした(図1)。非核三原則について高市首相は、7月6日の参院決算委員会で、「議論の俎上(そじょう)に載せる」との意向をしめしましたが、「維持すべき」は75%と国民の意見は明確です。「国会で憲法改正の議論を急ぐ必要がある」は33%で、「急ぐ必要はない」は62%です。
(2)「緊急事態条項」と「自衛隊の9条追記」をどう見るか
①緊急事態条項は国民の権利停止条項
緊急事態条項の憲法審査会での議論は、衆議院法制局などが作成したイメージ案をもとに議論が行われていますが、この案は緊急事態条項が必要だと主張する政党の意見を整理したものにすぎません。想定されているのは、災害などで長期に国政選挙ができなくなる場合です。しかし戦後80年以上、東日本大震災でもコロナのまん延時でも、緊急事態条項がないために対応できなかった事例はなく、個別の法律で対応が可能です。戦前の大日本帝国憲法は、「緊急勅令」を認め、政府は、治安維持法改悪案が議会で廃案になったにもかかわらず、緊急勅令で成立させるなど、国民の弾圧に使いました。また、1941年には、政府が衆院議員の任期を1年延長し、太平洋戦争に突入しました。その反省のもと、戦後の日本国憲法は緊急勅令を廃止し、国会議員の任期を憲法に明記し国民主権と民主主義を徹底しました。
②自衛隊の9条明記は、海外での無制限の武力行使に道を開く
9条改憲には反対だが、9条1、2項はそのままで自衛隊を書き込むだけなら「何も変わらない」との受け止めがありますが、これは間違いであるというのが多くの法律家の意見です。
2018年の自民党の「条文イメージ」は、9条1、2項を残すものの、「自衛の措置を取ることを妨げず」と書かれています。「自衛」には個別的自衛権と集団的自衛権が含まれます。2014年、当時の安倍政権は、歴代政権が憲法違反としてきた集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行い、2015年には安保法制関連法を成立させました。安保法制は、日本と密接な関係にある他国(米国)への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる明白な危険がある事態(存立危機事態)と政府が判断すれば、自衛隊は武力の行使=集団的自衛権の行使ができると定めました。従って、海外での武力行使に制約のない自衛隊を明記することは、2項削除と法的に同じ意味となります。
「高市早苗首相は19日にトランプ米大統領と会談した際、ホルムズ海峡に自衛隊を派遣するには憲法9条の制約がある旨を伝えた。9条を盾にトランプ氏の要求をひとまずかわした形だ」と日経新聞(3月24日)が報じました。
自衛隊が武力行使をともなう軍事作戦に参加しなかったことは、憲法9条が現実に歯止めとして機能したことをしめしています。9条に「自衛の措置」が明記され、集団的自衛権の行使まで憲法上認められることになれば、今回のような事態でも、自衛隊の武力行使や米軍支援への参加が現実の選択肢となるおそれがあります。
全日本民医連の9条署名キックオフ集会で、一橋大学の渡辺治名誉教授は「軍拡、改憲をすすめても、抑止力は働かず、中国などの近隣諸国の軍拡の加速化や台湾問題の悪化につながる」と指摘し、「日本はアメリカの戦争への加担はせず、憲法を堅持すると宣言することが、アジアと世界への平和へのアピールになる」とのべました。
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第4節 社会保障費抑制策がもたらす「いのちの危機」
第221回国会は、患者・利用者の自己負担を増やす法案が次つぎ成立しました。全日本民医連は、「財源は応能負担原則に基づく社会保険料と税を基本とし…利用時の負担はゼロを展望し、当面、引き下げを行うこと(人権としての医療・介護保障をめざす民医連の提言・2014年)」を掲げ運動をすすめてきました。
(1)OTC類似薬の保険外しによる患者負担増
5月29日、「健康保険法等の一部を改正する法律案」は参院本会議で成立しました。重大なのは、市販薬と同等の効能を持つOTC類似薬(77成分、1100品目)の薬剤費の4分の1を保険から外して追加負担を求める「一部保険外療養」の創設です。加入者一人あたりの保険料負担軽減は、月額約33円に過ぎず、3割負担の人は現在の1・5倍の負担増となります。低所得者を中心に、受診間隔をのばしたり、服薬を控えたりすることがさらに顕著になりかねず、必要な医療を妨げ、国民の健康を犠牲にするものです。
「一部保険外療養」の創設に関しては、その範囲がOTC類似薬に限らず他の診療部分にもおよぶとした5月21日の政府見解に対して、一部野党の追及で、「薬剤のみを対象とする」と法解釈を修正させたことは大きな成果です。しかし、高市政権は野党の条文修正要求を一顧だにせず採決を強行しました。付帯決議には「薬剤以外の診療行為を含めるべきではないという指摘もあったことなどを踏まえ、十分に検討すること」と記載されましたが、歯止めになっておらず、今後拡大につながることが強く懸念されます。
(2)高額療養費制度の自己負担限度額引き上げ

高額療養費制度は、高額な医療費に負担を一定抑えるもので、患者・家族の命綱です。石破政権下で負担上限を最大1・7倍も引き上げる改悪案が明らかとなり、患者団体はじめ国民の反対で異例の「凍結」に追い込まれました。しかし、法案成立で、2026年8月の自己負担上限額の見直しにともなう年間上限額の導入と、2027年8月の所得区分の細分化などが2段階で実施されることになりました。所得に応じて70歳未満では7~38%引き上げられます。年収700万円の人は、現在の月額約8万円から約11万円と38%増になります。70歳以上の人の高額な外来医療費に上限をもうける「外来特例」では、年収200万~370万円の人は、月額1万8000円が2万8000円と55%もの負担増になります。
高額療養費自己負担限度額引き上げの案が出されたとき、全国がん患者団体連合会(全がん連)のアンケートに「自分の抗がん剤治療より、子どもの将来のために貯金を残した方がいいのではないか」と、自分のいのちを子どもの教育と天秤にかけなければならないような辛い思いをつづった声が寄せられました。全日本民医連の2025年経済的事由による手遅れ死亡事例でも次のようなケースを報告しました。
高額療養費制度の見直しが実施されれば、治療を断念する人が増えかねません。3月10日の衆議院予算委員会中央公聴会で、全がん連の天野慎介理事長は、月額ではほとんどの年収所得区分でWHOの指標の破滅的医療支出(注)を超えることを指摘しました(図2)。民医連がめざす「利用時の負担はゼロを展望し、当面、引き下げを行う」ことが切実に求められています。
注:破滅的医療支出…手取りから食費などの生活費を除いた金額のうち医療費が40%以上に達する場合をさす。
これらの改悪は、健康保険法などの一部改定によって強行されました。しかし、健康保険法第1条は「国民の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」を目的に定めています。今回の改悪は、その本来の趣旨に真っ向から反するものです。
(3)介護保険法の改悪
6月19日、改正介護保険法が可決成立しました。人口減少地域を「特定地域」と定め、介護職員の人員配置基準の緩和により、少ない人員での介護を制度化し、居宅サービスを保険給付から市町村の事業に移行させます。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅を登録施設として、相談支援に係る費用をあらたに入居者負担(ケアプランの有料化)とすることなどが決まりました。詳細は今後、社会保障審議会で議論するとしています。
その後の介護保険部会では、「特定地域」の対象になりうる自治体が少なくとも全国の約半数におよぶ、ことが明らかになりました。介護サービスの質の低下やサービス、事業の地域間格差が生じ、全国一律の介護給付を受けられる介護保険制度が根幹から崩れる危険性があります。
(4)春の建議、骨太の方針2026で描く政府の戦略
①春の建議(財政制度等審議会 財政制度分科会)
6月26日、「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」(春の建議)が出されました。タイトルに防衛力を含めた「国力」を持ってくるところに現政権の特色が表れており、「積極財政」の名のもとに事実上プライマリーバランスを無視した投資をすすめる一方、「大きなリスクは共助中心、小さなリスクは自助中心」との視点で社会保障抑制を強行する内容になっています。象徴的な政策として「70歳以上の患者自己負担割合について、可及的速やかに現役世代と同様に原則3割とすべき」とし、70~74歳の半分以上、75歳以上の3分の1が利用している外来特例を廃止するよう求めています。また、特定疾病制度に手を入れることに言及しており、人工透析を例に出し、がん患者との自己負担比較を例示し、「特定の疾病についてのみ自己負担限度額を大きく抑制していることについて、見直しの必要性」を提言しています。加えて「保険者機能の発揮」が随所で強調され、生活保護受給者も医療保険に加入することで頻回受診や長期入院、多剤投与などを是正できるかのような書きぶりです。
介護分野も、「現役世代の保険料負担の増加を抑制し、制度の持続可能性を確保するため」として、「高齢化・人口減少下での負担の公平化」、「給付の効率化・適正化」が強調されています。具体策として、利用者の2割負担の範囲拡大、ケアマネジメントの利用者負担の導入、補足給付の削減、老健施設などの多床室の室料負担の強化、住宅型有料老人ホームにおける介護報酬の減算、軽度者への生活援助サービスなどの地域支援事業への移行などが提案されていますが、どれも利用者の負担増やサービス低下につながるものばかりです。「保険あって介護なし」が深刻化することが強く懸念されます。
②骨太の方針2026原案(内閣府)
6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)原案」がしめされました。「強い経済」の実現のため、2040年までに370兆円の官民投資で成長をめざすとの内容で、従来の「財政健全化」方針は消失し、「基礎的財政収支(PB)の単年度黒字化」は「総債務残高対GDP比の安定的な低下」と書き換えられました。石破政権が決めた最低賃金1500円達成目標を2030年代に先延ばしにし、社会保障分野については他産業の成長トーンとは裏腹に抑制・効率化が求められる内容です。2040年にむけ病床数の適正化、医療機関の連携・再編・集約化をすすめ、かかりつけ医機能発揮と医師偏在対策、そして2028年度から医学部定員削減にとりくむとしています。加えて、歯科専門職の偏在対策、潜在看護人材の活用推進、介護・福祉分野の人材確保と経営の協働化・大規模化への支援などがしめされています。
医療保険制度では「窓口負担の見直しについて2027(令和9)年度予算編成過程で結論を得る」、介護保険制度では「2割負担の判断基準の見直しについて2026年度中に結論を得る」としています。OTC類似薬の保険外しについては「2027年度以降の対象範囲の拡大にむけた検討」が画策されており、当初の懸念が現実化しようとしています。
③与党の社会保障改革項目・骨子の発表
7月7日、自民党・日本維新の会は連立政権合意書に盛り込んだ社会保障改革項目について、骨太の方針2026に反映させる「骨子」を発表しました。現役世代の保険料率の引き下げをめざすとし、「効果が乏しいというエビデンスが指摘されている医療」に対する保険者権限と機能の強化、民間保険の活用について保険業界と検討に入ることなどがしめされました。
(5)医療の分野で拡大する戦時を想定した動き
自民党、日本維新の会、公明党は、1兆円の医療費削減のため、27年4月までに一般・療養病床5万6000床、精神病床5万3000床の約11万床削減で合意しています。一方で、防衛省は自衛隊那覇病院を平時の50床から有事には200床にまで4倍に拡大する計画です。また、麻酔科と精神科も新設し、重傷者を県外に搬送するための麻酔や、過酷な戦場で心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した隊員への対処が目的とみられ、自衛隊員が戦闘で傷つくことなどがあらかじめ想定されています。自衛隊福岡病院は、平時の200床から有事には350床へ、自衛隊横須賀病院は平時でも100床から120床に増やし、有事には200床にまで拡張する計画です。
第5節 大きく立ち遅れる日本のジェンダー平等と民医連のとりくみ
(1)「女性差別撤廃委員会総括所見」の全面実施を求めるとりくみ
世界ではSDGsも含めてジェンダー主流化(注)がすすめられていますが、国内では選択的夫婦別姓に関して旧姓単記法制化の検討が始まり、2026年3月に閣議決定した「第6次男女共同参画基本計画」では総括所見で指摘された内容がほとんど反映されていないなど、退行・逆行しています。
注:ジェンダー主流化…政策・事業・組織運営のすべてのプロセスにおいて、ジェンダーの視点に立った対応を行う、ジェンダー平等達成のための手段。
民医連は国に対して「女性差別撤廃委員会総括所見の全面実施を求める要望書」を提出し、6月12日に省庁交渉を行いました。緊急避妊薬の薬局販売において、面前服用による心理的負担や高価格がアクセスの障壁になっていることなどを指摘し、女性の人権やSRHR(性と生殖に関する健康と権利)の視点の重視、国・自治体からの補助金や企業への適正価格指導などについて改善策を提案しました。プレコンセプションケアについては、人口政策を目的とするのではなく、「女性の一生の健康と権利を支援する」とりくみとなるよう改善を求めました。フォローアップ項目について、日本政府が国連に進捗報告する期限が今年10月に迫っており、各団体と連携して注視しアクションを起こす必要があります。
5月29日、女性差別撤廃条約実現アクション院内集会では、基本計画には看護や介護、保育などケア労働者の処遇改善の項目がないことを指摘し、ケア労働の低賃金は構造的なジェンダーバイアスによる明確な女性差別であり、「ケア労働者の処遇改善はジェンダー平等実現の根っこ」「処遇改善と介護事業継続は男女共同参画の重要な課題」と強調しました。
(2)日本版「女性の休日」アクションのとりくみ
北欧アイスランド発祥で、家事も仕事も休もうと呼びかけられた初めての日本版「女性の休日」アクションが3月6日から行われました。参加した香川民医連は、女性団体と協力して「女性の休日を実現する香川の会」を発足させ、県連総会では「ダイバーシティ(多様性)宣言」を採択しました。
(3)民医連SOGIEフェス2026とTokyo Pride 2026 への出展
民医連SOGIEフェス2026を6月5日に開催し、15県連から50人が参加し交流しました。また27万人が参加した「Tokyo Pride 2026」には、民医連ブースに約920人が来訪し、パレードに29人が参加しました。
第6節 平和と民主主義を求める市民運動のひろがりと地方自治の着実な前進に確信を
イラン戦争について国連のグテーレス事務総長は「国際平和と安全を損なうものだ」と非難しました。スペインのサンチェス首相は、「戦争反対」と語り、トランプ政権と密接なイタリアの極右メローニ政権も直接関与を避けるなど、トランプ政権の孤立が鮮明になりました。
イラン攻撃支持はアメリカ国内で3割を切り、3月28日には全米で「No Kings」デモに800万人が集結し、「No War」を訴えました。1日の抗議デモとして米史上最大規模です。また、DSA(アメリカ民主社会主義者)への支持が大きなひろがりを見せています。会員はこの10年で6000人から10万6000人に増え、第二次世界大戦後のアメリカで最大の社会主義団体に成長し、反戦運動、パレスチナ連帯行動の他、沖縄の基地問題にも目をむけ、外国にある基地の閉鎖縮小も訴えています。2025年11月のニューヨークでのゾーラン・マムダニ市長誕生に続き、ワシントンD.C、ロサンゼルスの市長選挙やコロラド州の中間選挙などの民主党の予備選挙でもDSA所属の候補者が勝利し、反トランプの波がひろがっています。
日本では、国会前に「万」の単位で人びとが集結し、「憲法守れ」「戦争したがる首相はいらない」と声を響かせています。全国でもデモカレンダーを通じて連帯がひろがっています。ペンライトの光が夜を照らす集会には、若者やデモ初参加の市民が次つぎと加わり、世代を超えた新しい運動が生まれています。
衆議院議員の定数削減法案を断念したことも、憲法改正の条文案をつくる「条文起草委員会」の設置がされなかったことも市民の運動が国会に届いた結果ともいえます。地方政治においても自民党の首長候補が次つぎ敗れています。
清瀬市長選、杉並区長選でも明らかになったように、自分たちの要求を実現するために、住民自身が我がごととして地方政治に働きかけることで変化が生まれています。
資料【地方選挙で続く自民党が推薦・支援した候補の落選】
区長選挙…東京練馬区、杉並区
市長選挙…東京都清瀬市、埼玉県久喜市、東松山市、愛知県あま市、福岡県朝倉市、嘉麻市、宮崎県小林市、千葉県東金市、滋賀県近江八幡市
第2章 非戦・人権・くらしを掲げ、社会保障を守り発展させるとりくみを共同組織とともに地域から
高市政権は、戦争する国づくりにむけ改憲をねらい、アメリカからの防衛費増額要求を受け、「安保3文書」を改定し、2027年度予算でさらなる軍拡に踏み出すことが考えられます。第2回評議員会までの半年間は、憲法を守り、これ以上の軍拡を許さないたたかいとともに、社会保障の改悪を許さず、国民のいのちと健康を守るとりくみが求められます。
第1節 平和憲法を生かし、戦争のないいのちと人権が大切にされる社会へ
(1)憲法の理念を綱領に掲げる民医連だからこそ全国的な学習・対話運動を
①「憲法CaféⅡ」と9条署名を通じて対話をひろげ、「憲法守れ」の世論をひろげよう
全日本民医連として、「憲法CaféⅡ」(12回発行予定)を発行します。情勢の特徴を共有し、9条の意義と自衛隊の9条明記など憲法改定の意図などについて全国的な学習をひろげましょう。9条署名の請願項目は、第一に、戦争準備の憲法9条改悪と、緊急事態条項を導入する改憲をやめること、第二に、衆参の憲法審査会に改憲案の起草委員会を設置しないことです。対話を重視し、「憲法9条守れ」の国民世論を醸成することをめざします。
職場で「憲法CaféⅡ」を活用し、疑問も率直に出し合い、職員間の対話を重ね、具体的な行動につなげることを大切にしましょう。「憲法CaféⅡ」では、9条だけでなく人権にかかわる条文も取り上げます。憲法を学んで気づいたことや、身の回りのモヤモヤを「人権・倫理のタイムアウト」のテーマにして、話し合ってみましょう。鳥取医療生協の「平和宣言」なども参考に、参加型のとりくみの検討や、衆議院、参議院の憲法審査会傍聴やインターネット中継を観て、身近に感じる機会を持つ工夫などもできます。また、医学生をはじめ医系学生と平和や憲法について対話することも大いにひろげましょう。
街頭宣伝では、積極的に署名する人や、対話する場面も増え、運動がひろがる素地があります。憲法を守る運動は綱領の実践そのものであり、「改憲を許さず…」とした総会スローガンの具体化でもあります。民医連が綱領に憲法を明記する意義について、第37回総会方針では次のように記載しています。「民医連運動は、日本国憲法の理念の実現をめざす医療・福祉分野の運動です。…日本国憲法の理念に立脚し、発展させることを民医連の社会的使命として、綱領に明記し、内外に宣言する意味は大きいと考えます」。憲法を守り生かすとりくみは、私たちが「誰のために、何のために」運動するのかという存在意義そのものです。
全県連で推進体制を確立し、県連理事会が責任をもって運動を推進しましょう。北関東・甲信越地協では、地協に推進プロジェクトを設置し、対話による憲法学習運動をになう人材を各県に育成するとりくみをすすめています。
「民医連の事業と経営をまもり抜き地域医療の崩壊をなんとしてもくい止めるための緊急行動提起」の国民署名は87万筆を超え、かつてないつながりが生まれました。
全日本民医連は、国民署名の総括で、「現場の実態と地域の要求」が請願項目と結びつき、医療機関ではなく住民のいのちと健康、地域医療をまもる国民全体の要求として運動がひろがり、多くの地域で医療機関をまもる共同がうまれたとふり返っています。このとりくみは、診療報酬の引き上げにもつながっており、国民の切実な要求にこたえる運動を地域に根差してひろげることの重要性をしめしています。同じように、憲法にもとづき平和的に物事を解決することの大切さを、9条署名と対話を通じて多くの国民に届け、新たなつながりを大きくひろげていきましょう。
(2)今こそ核兵器のない平和な社会をめざして
2026年は、日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)結成から70年の節目であり、核兵器禁止条約再検討会議が11月にニューヨークの国連本部で開かれる重要な年です。唯一の被爆国日本がなすべきは、2026年7月7日現在で締約・署名国100カ国となった核兵器禁止条約の署名・批准です。意見書採択を自治体に求めましょう。
高市政権は、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする日本政府の基本政策である非核三原則の見直しをねらっています。しかし、非核三原則の堅持を求める意見書が25都道府県82地方議会で採択されています。非核三原則は日本の国是であり、歴代内閣もこれを堅持してきました。この運動をさらにひろげましょう。
(3)沖縄県知事選挙の勝利にむけて~平和を求める行動と学習は国民の権利
9月13日投開票で沖縄県知事選挙が行われます。争点は、破綻した辺野古新基地建設の道か、「平和で誇りある豊かさ」をめざす道かの選択です。玉城デニー氏の勝利は、国内外への最大の平和のメッセージとなります。
2013年、沖縄県民を代表して、「オスプレイ配備に反対する沖縄県民大会実行委員会」の代表団が当時の安倍晋三首相に「建白書」を手渡し、その実現を迫りました。「建白書」は、オスプレイの配備撤回と普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念を求めたものでした。全日本民医連は、「建白書」の実現を求める立場で、沖縄民医連の仲間と辺野古新基地建設に反対し平和な島をめざす沖縄県民に連帯し行動します。
2026年3月16日に沖縄県名護市辺野古沖で平和学習をしていた高校生らの乗った船が転覆し、尊いいのちが失われるという大変痛ましい事故が発生しました。これを受け、全日本民医連は、「辺野古沖転覆事故と沖縄の平和をまもるたたかいへの全日本民医連の立場」を5月16日に発表しました。
今回の事故を踏まえ文科省は、同志社国際高校の辺野古新基地建設に関する学習について、「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」とする教育基本法14条2項違反と判断しました。その理由に、生徒らを乗せた船が抗議船であったことなどを挙げていますが、これは特定党派の立場を教え込むのだとする根拠にはなりません。さらに文科省は、14条解釈を突然変更し、特定の政党を支持、または反対する政治教育ではなく、「その他の政治活動にあたると判断した」とのべました。この論理がまかり通れば、何でも教基法違反とされる恐れがあります。そもそも、同条の1項は「必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」と規定されており、今起きている社会や政治の問題を取りあげることは、教育基本法に保障される重要な政治教育です。むしろ、文科省の恣意的な判断は、学校現場を委縮させ、生徒が現代の課題を学ぶ機会を奪う不当な支配(教基法16条)につながるものです。
今こそ、沖縄の現実と歴史についての学びを深め、いのち、憲法、人権の視点から考え、自由な議論を大切にすることが必要です。主権者として、沖縄の課題を日本全体、そして自分自身の問題として受け止め、声を上げ、行動していきましょう。
第2節 いのちとケア、社会保障拡充に予算を使う国への転換を
(1)国民皆保険制度を守るための連帯とたたかい
①人権、受療権を守る運動を現場から発信しよう
健康保険法等の改定強行を受け、患者の自己負担の増加が順次始まります。「医療費の支払いに困る事例が増えていないか」など「人権・倫理のタイムアウト」を活用し、人権のアンテナの感度を高くし、健康被害やいのちが失われることのないようとりくみをすすめましょう。社保担当者など一部の職員だけではなく、患者や職員の声をつかみ、職員間で共有し自治体へ働きかけましょう。
全日本民医連として、窓口負担増についての全国アンケートを実施し実態をつかむこととします。より多くの声を集め、国へ実態を伝え、これ以上の受診抑制を起こさせない運動を強めていきます。
2025年の経済的事由による手遅れ死亡事例は、18の県で42事例の報告がありました。高齢男性で独居という事例が多く、無保険は10件、23・8%でした。保険証を持っていたとしても窓口負担の支払いができずに、受診をためらった人もいました。受診経路は救急車が13件と最多ですが、いくつかの自治体では救急搬送された軽症患者に選定療養費を徴収しています。費用負担を理由に、必要な人が救急車の利用をためらうような制度の導入はすべきではありません。
まず、全日本民医連がまとめた手遅れ死亡事例の調査結果をみんなで読んでみましょう。同じような事例はないか、救えた事例はどうやって救えたか、討議を現場でとりくんでみましょう。今回の事例に共通した背景には社会的孤立があり、生活困窮や貧困と密接に結びついています。なぜ孤立した(させられた)のかを考えないと、その人の自己責任にすり替えられかねません。全日本民医連が2025年に実施した「75歳以上医療費窓口負担2割化実施後3年分のアンケート調査報告」にも、医療費負担増で「交際費を削った」「趣味をあきらめた」などの声があり、社会的孤立につながりかねない状況が浮き彫りになりました。「いのちのとりで裁判」の原告の訴えにもあった、経済的な困窮から外出も控え、買い物もせず、社会から切り離されることがあってはなりません。
手遅れ死亡事例の記者会見を全県連でとりくみましょう。山梨民医連は、県内で7人の死亡事例を報告し、窓口負担や社会的孤立を告発しました。大阪・同仁会は、無低診が適用された患者2066人の情報を分析し、「所得が生活保護基準をやや上回る」ギリギリの層の増加と厳しさを可視化しました。こうしたデータの見える化も検討しましょう。
【2025年経済的事由による手遅れ死亡事例】
50代の女性で正規保険証を持っていました。コロナ禍の影響で夫は収入減で生活困窮。7年前に甲状腺の病気を発症しましたが、子どもの奨学金返済もあって生活が苦しく治療を中断。その半年後、息苦しさで受診し、甲状腺がんの診断。予後不良で根治治療できず2カ月ほどで逝去。
②被災地が抱える生活基盤の整備と健康権の保障の課題
熊本地震から10年、熊本民医連は宮城民医連の実践と教訓を生かし、災害公営住宅での調査活動を継続して行ってきました。その結果、被災住民の高齢化の進行、交通・移動の困難、物価高騰、支援縮小など複合的な困難が明らかになりました。
能登半島地震でも、長期化する狭小(きょうしょう)仮設住宅による心身への影響や医療費免除の打ち切りにより生活費を切り詰めざるを得ない声が寄せられるなど、被災者の健康と住まいの権利が侵害されています。災害時に表面化する問題の多くは、平時からの課題が延長・増幅したものであり、平時からの社会保障拡充、生活基盤の安定化と健康権の確保が、災害時のいのちとくらしを守る基盤となります。石川民医連は、5月の県連総会で能登半島地震災害対策本部を終了し、常設の機能による長期的なとりくみの体制に切り替えました。
被災地・被災者に生じうる権利侵害に対して継続的に自治体への運動をすすめ、平時から人権と受療権を守り抜くとりくみを強めていきましょう。
③生活保護は権利との立場を貫き、国の不作為の是正を求め、患者・利用者に寄り添う支援を
民医連の病院で、人工呼吸器管理が必要な病態でも、生活保護受給者だけハイユニット入院医学管理料が認められず、病態や医学的管理の必要性をしめして再請求しましたが、却下される事例がありました。医学的判断ではなく、生活保護利用者であることを理由とした不当な差別的運用です。民医連は、生活保護利用者への不当な取り扱いや偏見を許さず、生活保護を権利として保障する立場で、患者・利用者に寄り添い、制度利用に対する支援や権利侵害に対するたたかいを多職種ですすめます。
「いのちのとりで裁判」は2013年から最大10%の生活扶助基準引き下げに対し、1000人を超える原告が違憲訴訟を起こし、国・自治体を相手にした違憲訴訟です。最高裁判所は、2025年6月、「生活保護基準の引き下げは違法」とする歴史的な判決を言い渡しました。ところが、厚生労働省は原告らに謝罪もせず、訴訟を継続し、補償額を約半分に値切るという対応を行いました。追加給付を受けた原告はわずかで、すでに4分の1以上が亡くなっています。各地で、厚生労働省に対し行政不服審査請求を行う動きが本格化しています。全国の事業所に再減額処分に対する不服審査請求についてのチラシを配布しました。各職場で情報を共有し、原告や患者からの相談に応じ必要な援助を行いましょう。
④介護ウエーブ2026基本方針をすすめよう
今回の改正介護保険法の中身を学習し、問題点を知らせ、声を上げていく必要があります。介護ウエーブ2026基本方針のもと、新介護署名にとりくみます。これまで3大改悪(利用料2割負担の対象拡大、ケアプランの有料化、要介護1・2の生活援助等の総合事業への移行)は阻止できましたが、火種は残っており、ひきつづき、利用者の負担増大を全面的に阻止するとりくみが必要です。昨年の緊急行動や、医師、看護のウエーブなどでむすびついたつながりを生かして、「3つの丸ごと」ウエーブ(地域丸ごと、民医連丸ごと、ケア丸ごと)をすすめます。
また、改正介護保険法で新設される「特定地域」の「特定地域サービス」などは来年からの第10期介護保険事業計画に反映されることとなり、民医連事業所のある自治体・地域が「対象地域」になるかどうか、人員基準や報酬単価、運営基準をどう考えるか、行政への働きかけ、話し合いが重要です。
2027年度の介護報酬改定の引き上げの運動を強め、前期にひきつづき、「ミサイルよりケアを」の立場から、介護・医療・福祉に必要な財源を確保し、安心してくらせる社会の実現を求めていきましょう。
(2)医療・介護崩壊ストップの幅ひろい運動を
①ケア労働者の処遇を引き上げ、医療・介護ストップのための運動をひろげよう
2026春闘は、医療介護以外の他産業の平均賃上げは1万5000円で、改定率約5%でした。日本医労連加盟組織の平均賃上げは9326円で、3・01%(ベア5416円 1・86%)にとどまっています。超高齢社会におけるケア労働の価値が不当に低く置かれている社会構造に立ちむかい、国の責任における処遇改善を求める運動を、他団体や共同組織なども含め広範な運動にしていきましょう。特に介護職員の処遇改善については、全額国費によりすべての介護従事者の賃金を早急に全産業平均水準に引き上げることを求めていきます。
②ケアマネジャーをはじめとするケア労働者の安全を確保するため、国、自治体は処遇改善と対策を
6月1日、埼玉県川口市でケアマネジャーが利用者の家族に殺害されるという痛ましい事件が起こりました。職能団体が声明を出し、厚労省も安全確保徹底の事務連絡を発出し、各自治体も複数訪問費の補助を決めるなどの動きがありました。ケアマネジャーは介護保険制度の要であり、ケアマネジメントを通じて利用者・家族をささえています。一方、利用者・家族との契約、月1回の在宅へのモニタリング訪問の必須といった1対1になりやすい環境に置かれ、あらゆる場面で説明責任も伴います。現場からは「明日は我が身」という声が多くあがっています。
規模の大小にかかわらず事業所内でも一人で抱え込まない、行政や地域の事業所や関係者とリスクを共有する、ヘルスケアを含めた職員を守るといったとりくみが必要です。このことはケアマネジャーだけではなく、ひとりで対応することが多い医療・介護現場共通の課題です。事業所や法人、県連での対応と同時に、国や自治体に対して複数人での訪問可能な環境や処遇改善、相談体制の確立を求める運動が必要です。利用者や家族、関係者、職員の安全を、行政を含めた地域全体で守っていくことにつながるよう、問題提起をしていきましょう。
③異常な物価高、石油製品の不足の改善と財政支援を求めよう
中東情勢はさらなる物価高を招き、医療や介護の現場資材不足を加速させています。ニトリル手袋をはじめ、軟膏容器、分包紙、歯科で使用する麻酔のカートリッジ・針などやレジ袋、ビニール袋といったその他の消耗品にいたる幅ひろい影響が出ています。こうした状況が悪化すれば、いのちの選別すら起きかねない状況が危惧されます。国や自治体は実態を把握し対策する責任があります。現場から実態を訴え改善を求めていきましょう。
④「地域医療の存続をかけた経営実態アンケート」病院緊急調査結果を国に届け、改善を求めよう
全国約8000病院のうち7539病院(94・5%)にアンケートが届けられ、7月2日までに346病院から回答が寄せられました。前期比改善は6割ですが、2025年度補正予算による補助金を除くと5割のみ、損益状況では7割近くが赤字です。2026年診療報酬改定は「十分」との回答は、わずか3%でした。法人の資金繰りでも約3分の2が「厳しい」と答えています。京都民医連では、近隣の19病院を訪問し、経営困難や控除対象外消費税の問題を共有し、連携し声をあげていくことを確認しました。緊急行動提起の教訓を生かし、国にさらなる改善を求めましょう。
⑤医療機関などの「控除対象外消費税」問題の解決をもとめる運動
消費税は、所得にかかわらず一律で課税されるため、低所得者ほど負担が重くなる逆進性の強い税制です。社会保険診療などは「非課税」であることから、医療機関が仕入れ時に支払う消費税は、売り上げから控除できずに経営を圧迫する矛盾をかかえています。さらに、物価高騰、増大する設備投資によってこの矛盾が拡大しています。全日本民医連は、医療機関などにおける「控除対象外消費税」の構造的矛盾の早期解消にむけた見解(たたき台)を作成し、他の医療団体とも意見交換をすすめ、早期の解決をめざします。
第3節 「たたかいと対応」を強め、将来展望を切り開く事業体系・戦略を構築しよう
(1)医療・介護を守る世論をひろげ、地域住民のいのちとくらしをささえる事業所へ機能の転換と強化をすすめよう
医療・介護等支援パッケージや診療報酬の3・09%引き上げは、医療界の運動の成果ですが、イラン戦争がもたらす資材不足や価格高騰による支援は含まれておらず、必要最低限かつ一時的な財政支援でしかありません。さらなる財政支援、診療報酬の引き上げを求めてたたかいを継続しましょう。同時に、中長期的視点にもとづく必要利益が明確になっているか、予算・実績・差異分析・改善を毎月くり返す経営管理の仕組みがあるか、資金繰り表が作成されキャッシュフローと整合しているかなど、経営管理の出発点である基礎的課題の整備をやり抜き、法人、事業所の将来展望を切り開く力量の引き上げに力を入れましょう。多くの法人が2026年4~5月で予算乖離(かいり)を生んでいますが、6月診療報酬改定で一定の増収が見込まれ、課題が見えにくくなっていないでしょうか。第1四半期を踏まえ、徹底して予算差異分析を行い、速やかに対策を講じる予算統制が鍵です。「何が何でも年度予算をやり抜く」構えを今一度全職員で意思統一しましょう。
新たな地域医療構想(2040年頃を見据えた地域医療構想)では、従来の「病床再編中心」から、医療・介護・障害福祉・住まい・生活支援を含めた地域包括ケアシステム全体の再構築へと対象がひろがっています。政府の新たな地域医療構想は、人口減少、人材不足、財政制約への対応を強く意識しており、放置すれば病院統廃合や地域からの医療撤退につながる危険もあります。2026年7月3日に厚生労働省から出された「地域医療構想策定ガイドライン」の分析をすすめ、都道府県ごとの地域医療構想策定にむけては、自らの地域で人口減少、人材不足、財政制約を背景にした、安易な病院統廃合や撤退が行われないよう働きかけていきましょう。同時に民医連事業所もその機能を選択し、変わっていかなければ存在し続けられない時代です。地域の要求にもとづき、地域のなかでの事業所の機能を議論し戦略を練り上げていきましょう。
(2)オール民医連で、仲間を迎え、育ち合うとりくみをすすめよう
医師・看護・介護・福祉職員をはじめとするすべてのケア労働者の確保と定着は、民医連の事業と運動の存続を左右する最重要課題です。ケアの倫理を組織運営の基盤にすえ、ハラスメント対策や労働安全衛生の確立、多職種が互いの専門性を認め合い育ち合う、人間らしく働き続けられる職場づくりを全組織で実践しましょう。
医学生と学び合い対話を重ねる活動と再定義した医学対活動は、医学生担当者の奮闘とともに前進が生まれています。新歓期の奨学生決意者報告数は40人、うち新1年生の到達は23人となっています。高校生1日医師体験からのつながりが多数をしめるとともに、先輩奨学生の働きかけ、共同組織からの紹介からの決意も複数報告されています。すべての県連が地域枠の学生も含め民医連に共感をしめす学生と一人でも多くつながることが重要です。「ケアの倫理と人権の視点の医師養成時代における医学対活動方針案」を議論し、医学対活動の飛躍につなげていきましょう。「建議」では、「医師の需給推計」を用いて、「医師数が過剰となることはすでに確定的とされ、政府は2028年度以降の医学部定員を削減する方針を書き込みました。削減時期が明示されており、新たなステージでの運動が求められます。「国の責任で地域医療を守れ」「医師の自己犠牲的な働き方を根本からあらためろ」の声を地域からあげていきましょう。
新卒看護師の確保は極めて深刻な局面を迎えています。入職者数は2022年の1123人から2026年には791人と急減し、将来の担い手となる奨学生数(卒年)も2017年の807人から447人へと半減しています。看護師の確保・定着は喫緊の課題であり、養成から定着に至る総合的なとりくみを強力に推進していく必要があります。
今回、『明日をつむぐ看護~民医連のめざす看護とその基本となるもの~』が改訂、発刊されました。困難な今だからこそ、民医連の看護の歴史を紐解き、理念に込められた看護の価値と実践を力に、全職員が一丸となってこの危機に立ちむかっていきましょう。
第4節 SDH、包摂の視点で社会問題を捉え、人権を守りぬくとりくみを地域でひろげよう
①新たな公害であるPFAS問題に対して、科学的知見をもとに全国的な運動を
民医連は、地域住民の不安に寄り添うとともに、全国的なPFAS被害の状況を明らかにするため、疫学調査として全国に呼び掛け3000件を目標に血液検査の実施にとりくんでいます。結果を集約し、国への要請などを行います。
5月に、PFAS汚染問題にとりくむ全国各地の住民団体が「PFAS全国連絡会」を設立しました。民医連として、PFAS汚染による健康被害の不安を抱える地域住民に寄り添い、「PFAS全国連絡会」をはじめ各地の住民団体と連携しましょう。
東京・病体生理研究所のPFAS血中濃度分析装置により比較的安価な検査が可能となっています。装置のさらなる活用とカンパをあらためて全国に呼び掛けます。
②社会問題をSDHの視点で捉え、すべての被害者の人権をまもり救済・補償の実現を求めよう
水俣病は公式確認から70年が経過した今もなお、被害の全容が解明されていません。衆議院解散により廃案になっていた水俣病被害者救済新法案が、2026年7月9日、参議院に提出されました。同法案は「国によるすべての被害者の救済」を明確に位置づけた恒久法であり、被害者の高齢化がすすむなか、成立が強く求められています。熊本民医連では、2026年4~7月、他団体とともに水俣市民の健康実態調査を実施しました。聴き取った住民の声から、いまだ続く差別や偏見の実態を目の当たりにし、水俣病は現在も続く人権問題であることを再認識しました。
東京電力福島第一原発の事故から15年が経過しました。溶け落ちた燃料デブリを取り出すめどさえつかず、事故収束の見通しもありません。いまだに5万人にもおよぶ人びとが避難生活を強いられ、生活基盤の喪失や孤立、精神的ストレスや医療・介護へのアクセス低下など、深刻な被害が続いています。
水俣病問題や原発問題におけるすべての被害者の困難に寄り添い、その救済と補償を求めてひきつづきとりくみましょう。
③入管難民法「改正」はいのちと人権にかかわる深刻な問題
入管難民法「改正」による在留手数料上限額の引き上げに加え、「経営・管理」の在留資格についても省令改正により要件が大幅に厳格化されました。これらは外国人の生活基盤を脅かし、受療権を侵害しかねないものであり、排外主義そのものです。埼玉県川口市では、危機管理部内に入管職員を配置し対応しています。本来必要なのは人道支援です。茨城県は不法就労通報報奨金制度を設け、排除と管理を強め、多文化共生社会に逆行する対応をしています。共生社会の実現にむけ、私たちの自治体がどのような施策を取っているか把握しましょう。私たちの身近にも当事者がいるはずです。全日本民医連としても、人権の観点、受療権の問題、人口減社会における労働力の問題など、さまざまな観点から議論していきます。
第5節 共同をひろげ、いのち、健康、くらしが守られるまちづくりをすすめよう
(1)秋の共同組織拡大強化月間のとりくみ
2026年秋の共同組織拡大強化月間は、思い切って地域に出て、孤立している人はいないか見渡し、対話し、多くの人に共同組織の仲間になってもらいましょう。1職場1アウトリーチの具体化として、9条署名、無料低額診療事業のパンフレットや、これから提起される負担増についてのアンケートを手に、「困りごとはないですか?」と声をかけ、要求を聞いてみましょう。地域で気になったこと、もやもやしたことを職場に持ち帰り、「人権・倫理のタイムアウト」で共有し、自治体への要請、議員との懇談などで地域の声を届けましょう。
第17回共同組織活動交流集会in東京を成功させ、『いつでも元気』を大いに増やしましょう。
(2)2027年の春の統一地方選で要求実現を
2027年の春の統一地方選は、「非戦・人権・くらし」を掲げ、地域から「9条守れ」の声をひろげ、国の社会保障を変える重要な機会です。普段からの自治体への働きかけ、対話が重要であり、統一地方選での要求実現もこうした不断の運動があってこそ、です。
平和なくして安心してくらせる社会はなく、充実した社会保障なくして誰もが尊厳をもって生きることはできません。一人ひとりのいのちとくらしを大切にする地域を築くため、身近な地域から対話をひろげ、平和と社会保障を守り育てるとりくみを着実に積み重ねていきましょう。
おわりに
2026年6月7日、日本と韓国の国境を越えた国際連帯の架け橋の役割を果たし、韓国の保健医療運動に献身的な役割を果たした医師、ウ・ソッキュン氏が逝去しました。ウ医師は、病とたたかいながらも次のような言葉を残しました。「いのちを賭けた闘争を通じて歴史を変えた人びとの献身を忘れず、歴史を弁証法的に考察すること、古く見えても今こそ必要な、知性の姿勢を失わないこと。そして草の根の闘争なしには、いかなる法律や制度の有意義な変化も決してあり得ないという明確な歴史的教訓を胸に刻もう」
いま、憲法にも国民の要求にも背をむけ、戦争を想定した国家体制への転換と、お金がなければ必要な医療・介護を受けられない制度への改悪が強行されています。戦後日本が平和を守りぬき、権利としての社会保障のたたかいをささえてきた最大の力は公布から80年を迎えた現憲法であり、それを守り生かしてきたのは私たちの運動の力です。今を「戦前」にしてはなりません。平和と民主主義、人権を掲げて声をあげる多くのひとびととともに、憲法を日本社会に根付かせ、平和と人権が大切にされる希望ある時代にむけて力を尽くしましょう。
第1回評議員会方針は、47期の折り返しにむかう第2回評議員会までの半年間の活動について、情勢と到達点を踏まえて、重点課題を提起しました。すべての県連・法人・事業所で学び、挑戦し、力をあわせましょう。
以 上
資料
①国家情報会議設置法
政府の情報機関の司令塔機能を強化するため「国家情報会議」と「国家情報局」を新設します。これらの機関に、警察庁や外務省、防衛省などへの総合調整権を与え、情報提供を義務づけます。この法律は、自民党と日本維新の会の連立政権合意書に盛り込まれた「スパイ防止関連法制」や「対外情報庁の創設」とセットです。専修大学の白藤博行名誉教授は、「すべての国民を監視する体制の強化がねらい」と指摘しており、国会や第三者機関によるチェックがおよばないことも大きな問題とされています。
②国旗損壊処罰法
自民党案は「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者」は、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科すとしています。「国旗を大切に思う国民感情を保護する」ことを目的にしていますが、個人の内心に踏み込み、恣意的な摘発につながる恐れがあります。憲法が保障する思想・良心の自由や表現の自由を侵害しかねず、国内では国旗損壊行為はほとんど確認されておらず、立法の必要も乏しいと指摘されています。
③衆議院比例定数削減法案
自民維新両党は、根拠をしめさないまま、与野党の協議がまとまらなければ比例定数176議席のうち45議席を自動削減する法案をまとめました。市民と野党の反対の声により、今国会での成立は見送られましたが、次の国会への再提出をめざしています。
日本の国会議員定数は人口当たりでOECD加盟国38カ国中、下から3番目です。比例削減は少数意見の切り捨てや大量の死票など小選挙区制の弊害を拡大させ、民主主義政治の根幹である選挙制度をゆがめます。また、比例代表制は女性や新人が当選しやすい制度と言われており、比例45議席が削減されると、共同通信の試算では議席減少率は男性23%減に対し女性は35%減と、女性の方がより深刻な打撃を受けます。
④皇室典範改定
改定案は、養子となった旧宮家の男系男子の子孫に皇位継承資格を認め、結婚した女性皇族は皇族の身分を維持する一方、夫や子どもは皇族としないとしています。これは本来の「皇族数の確保」を超えて、皇位継承制度を変更するもので、女性天皇・女系天皇を排し、皇位継承を男系男子に限る内容となっています。
憲法第1条は、天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基く」と規定しています。明治憲法が、男系男子による皇位継承を定めていたのに対し、現憲法では削除されました。皇室典範は、議論を尽くし、国民の総意によって定めるべきです。女性天皇や女系天皇を支持する国民が多数を占める状況もあり、皇室典範は、議論をつくし、国民の総意によって定めるべきです。
⑤個人情報保護法
7月10日に成立した個人情報保護改定法は、AI開発などに利用する統計情報などを作成する場合は特例として、病歴のほか、思想信条・宗教、犯罪歴などの要配慮個人情報を名前、住所を匿名化せず、本人の同意なしに第三者に提供でき、基本的人権であるプライバシーを侵害する重大な問題をもちます。
病歴などの機微な情報も対象となり得ることから、運用次第では患者や国民の不安を招き、医療への信頼を損なうおそれがあります。また、AIによるプロファイリング(人物像の分析・推測)への規制も十分とはいえません。
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