【声明2017.12.20】介護報酬2018年改定について
2017年12月20日
全日本民主医療機関連合会 会長 藤末 衛
12月18日、厚労・財務の大臣折衝において、2018年介護報酬改定での0.54%の引き上げが合意された。財務省が強固に引き下げを主張してきた中でのプラス改定は、事業収支差率の大幅な減少や急増する倒産、廃業に象徴される事業所経営の深刻な実態と、その打開を求める世論と運動を反映したものといえる。
しかし、プラス改定といっても、前回2015年改定で過去最大級となる2.27%(基本報酬部分などで▲4.48%)もの引き下げが実施されており、わずか0.54%の引き上げでは、事業所が現状で抱えている困難を解決するには程遠い水準であると言わざるを得ない。
さらに、対応事項として「▲0.5%程度の適正化」が明記されており、「報酬水準の適正化や改革工程表に沿った見直し」(財務省「建議」)に対応する内容として、基本報酬の引き下げや個別サービスの切り下げを図る方針がすでに審議会報告において示されている。具体的には、新たな生活援助の担い手を低コストで養成し介護報酬を引き下げる、ケアプランの届出義務化などによる「一定回数」を超える生活援助の利用規制、通所介護における大規模事業所の基本報酬の引き下げや提供時間区分の細分化、会計検査院から合理性・有効性を疑問視されている特定事業所集中減算の存続(訪問介護等)などが列挙されており、いずれも利用者・家族、事業所・介護従事者に新たな困難や矛盾を押しつける内容である。
加えて、次回改定(2021年)に向けて、生活援助の利用回数を規制する手法を他の居宅サービスにも拡大していくこと、老人保健施設等での多床室の室料、施設サービス費の見直しなど、さらなる給付抑制負担増の検討が合意されたことは重大である。
また、喫緊の課題となっている処遇改善への対応は、閣議決定(ニッポン一億総活躍プラン)の枠組みを踏襲したものに過ぎず、全産業平均と比べて月10万円という給与差を大幅に改善するには到底及ばない水準である。現行の処遇改善加算の効果は限定的であり、算定対象となる職種・事業種の限定、届出事務の繁雑さ、利用料への反映など加算方式自体の矛盾、問題も放置されたままとなっている。
今改定では、「自立支援・重度化防止」の一環として、ADLの維持・改善に対する報酬が通所介護で新設される。しかし、収益確保が困難なもとでの実施は、事業所による利用者の逆選択など不適切な事態を招きかねない。「要介護度の変化」を評価指標に盛り込んだ「インセンティブ改革」がそれを加速させることも危惧される。すでに一部の自治体の総合事業において、サービスからの無理な「卒業」が強いられ、健康悪化が生じていることがマスコミ等を通じて社会問題化している。「アウトカム評価」は慎重に検討すべきであり、そもそも「自立支援」は、「尊厳の保持」を前提に、必要なサービスを利用することでその人らしく暮らし続けることを支えることに本来の意味がある。「自立」や「要介護度の改善」の名のもとに利用者からサービスを取り上げたり、それを財政的に誘導することがあってはならない。
介護サービスの切り下げ・抑制は、利用者のこれまでの生活の継続に重大な支障をもたらす。こうした事態は、独居・老々世帯、認知症高齢者が地域で安心して暮らし続けることを目指すとした政府の地域包括ケア構想や「新オレンジプラン」の主旨に真っ向から反するものである。家族の介護負担が増大し、就業が困難になれば、政府が掲げる「介護離職ゼロ」政策に逆行することにもなる。
介護報酬は、事業経営の維持・安定性の確保、介護サービスの質の向上、介護職員をふくむ従事者全体の処遇改善のための費用を補償するものでなければならない。同時に、介護報酬・基準が個々の介護サービスの内容や提供方法を事実上規定するものであることから、利用者ひとりひとりに十分な介護が提供され、日々の生活を継続することが可能となる改定として実施することが要請される。
基本報酬の大幅な底上げをふくめ、介護報酬2018年改定全体の再検討を重ねて求める。
以 上
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