【声明2019.02.21】乳腺外科医師冤罪事件 東京地裁判決にあたって
2019年2月21日
全日本民主医療機関連合会
会長 藤末 衛
2016年、東京民医連の柳原病院で、非常勤の乳腺外科医師が女性患者に対するわいせつ行為をしたとして準強制わいせつに問われた事件に対し、2019年2月20日、東京地裁は無罪判決を言い渡しました。弁護側の主張がほぼ全面的に認められ、「本件公訴事実記載の事件があったとするには合理的な疑いがある」とした完全な無罪判決です。事実と道理にかなった当然の判決であり、心から歓迎するものです。
東京民医連と柳原病院は、患者の訴えを受けた直後から事実関係の綿密な調査を行い、患者が術後せん妄の状態下にあった可能性が高く、また当時の病室の状況や看護師の出入りなどから客観的にみて、外科医師によるわいせつ行為は考えられないと判断し、外科医師の支援を続けてきました。
判決は、患者の訴えは、手術後の麻酔から醒める際のせん妄状態下での性的幻覚である可能性が高いとする弁護側の主張を支持しました。
そして、わいせつ行為の証拠として最大の争点であった、患者の胸に付着していた微物から検出されたアミラーゼ及び外科医師のDNAについて、手術前に行った触診や助手医師との会話の際の唾液の飛沫によって付着する可能性があるとして、検察側の主張を斥けました。
さらに、科学捜査研究所研究員によるDNA定量検査について、本来は再現実験を可能にするために残しておくべき抽出液を破棄したことを非難し、検査結果を書き留めるワークシートが鉛筆書きで、明らかなだけでも9カ所も書き換えた跡があることなどから、同研究員に対して「科学者として鉛筆で記録することが許されないのは当然のこと」、「刑事裁判における鑑定者としてもふさわしくない」、「検査者としての誠実性に疑念がある」と述べ、「本件アミラーゼ鑑定及びDNA定量検査の信用性には疑義がある」と厳しく非難しました。
被告医師は、無実の罪で不当に逮捕・起訴され、職や社会的名誉を失い、105日にわたる長期間の拘留を強いられました。また、女性患者は、警察や検察が被害事実の検証を怠り、術後のせん妄状態にあった可能性を切り捨てて女性患者にも知らせないままとしていたため、いまも被害を受けたと誤認しています。
検察には、判決によって非難された鑑定手法を速やかに改めるとともに、拙速かつ不十分な捜査により本件の冤罪を生んだことを反省し、被告医師と女性患者の双方が重大な人権侵害を受けていることを自覚し、今回の判決を重く受け止め、控訴せず潔く判決に従うことを強く求めます。
全日本民医連は、医療従事者、患者の人権を守り、国民が安心して医療を受けられる環境をつくるために、引き続き努めて参ります。
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