【見解2019.08.27】日本専門医機構のシーリングに関する見解と要望 ~地域医療を崩壊させることなく、人間らしく働き続けられる医師数の確保を前提とした再検討と、中小の医療機関における専門医の養成への配慮を求めます~
2019年8月27日
全日本民主医療機関連合会
(略称:全日本民医連)
会長 藤末 衛
Ⅰ 総論
厚生労働省および日本専門医機構は、2020年度の専攻医募集に先立ち、医師の地域偏在と科別偏在の解消を目的として、内科領域を含む13の基本領域(診療科)について都道府県別のシーリングをすすめることで合意しました。8月には日本専門医機構にシーリングに関する協議会が設置され、11月にむけて意見集約がすすめられています。
今回提案されているシーリングは、地域や診療科によっては、現在でもたいへん厳しい勤務医の状況や地域医療の抱える困難の解決に結びつくどころか、地域医療の現場にとどまらず、大学病院をはじめとする医療の様々な現場における「崩壊」につながりかねない危険をはらんでいます。日本医師会、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議、各学会などから反対や懸念の声が提出されていますが、私たちもこうした意見に賛同するものです。
こうした懸念が生じる原因には、そもそも必要医師数の算定根拠が示されていないことがあります。現場の医師も患者も納得のいかない必要医師数については、医療費抑制策のために医療提供体制を縮小させる意図しか感じることはできません。医師増員を政策上の選択肢から除外したまま、専門研修にすすむ医師数をシーリングによってコントロールし、地域偏在や科別偏在の解決をはかろうとすることは、官僚統制的な解決策としか思えません。全日本民医連はあらためて医師増員という選択肢について正面から検討することを求めます。
関連して、「医師の働き方改革」においても、過労死水準に達する、あるいはそれを大幅に超える医師の労働時間が想定されており、医師数を増やすことが検討の中に織り込まれていません。そうしたなかで「働き方改革」がすすめられていくならば、置き去りにされるのは地域の医療ニーズであり、患者そのものということにならざるをえません。新専門医制度と、現在すすめられている「働き方改革」の双方が医療現場にもたらす困難を慎重に検討する必要があります。
全日本民医連は、日本専門医機構、厚生労働省、関連するステークホルダーのみなさんに、今回のシーリングについて、いったん立ち止まったうえで、地域医療の崩壊を防ぐとともに、人間らしく働き続けられる医師数の確保を前提とした再検討を求めます。
また、研修医にとっては、このシーリング方式の導入により、希望する地域・診療科の研修に少なくない人たちが進めなくなることから、新専門医制度への不安を増幅させるものとなります。この点からも、今回のシーリングについてはいったん立ち止まって再検討することが必要と考えます。
Ⅱ 地域の中小病院の立場から
さらに地域医療に携わる中小病院の現場において、今回のシーリングにともない生じているいくつかの問題について指摘し、適切な対処を求めます。
(具体的な事例)
①地域内のプログラムとの調整の中で定数の削減を求められた
②地域内の同じ診療科のプログラムから激変緩和枠を活用しての受け入れに切り替えることを求められた(激変緩和枠の活用のためには、医師数の少ない地域での一年半の研修をプログラムに組み入れることが求められる)
③基幹となる大学病院のプログラムから、これからは大学医局への入局者を優先すると言われた
④基幹となる大学病院のプログラムから、研修の期間について、これからは連携施設の希望を考慮することはできないと言われた
そもそも新専門医制度の発足にあたっては、地域医療への影響に十分配慮し、医局への入局を義務としないこと、地域や大学などとの連携のあり方についても十分考慮すること、地域内に複数のプログラムを確保することなどがうたわれていたはずです。上記のような問題は、その約束に反する動きであり、中小の医療機関にとっては、後継者の確保と養成、医療経営に大きな困難を抱えることになります。
すでにシーリングの問題以前に、基幹型のプログラムを持つためのハードルが高く設定された外科や整形外科などの領域では、これまでのように地域の中小の医療機関での専門研修が事実上不可能となったと言ってもよく、後継者の確保や育成に困難が生じています。そうした診療科について、大学などのプログラムに専門医養成が事実上限定されるような流れが、今回のシーリングの導入によってさらに強まることのないようすること、基幹型の整備基準をあらためるよう要望します。
以上
(PDF版)
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