【見解2019.08.27】「医師の働き方改革に関する検討会報告書」に対する見解
2019年8月27日
全日本民主医療機関連合会
(略称:全日本民医連)
会長 藤末 衛
今年3月28日、厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」報告書をとりまとめました。報告書は、我が国の医療が医師の自己犠牲的長時間労働に支えられており、よい医療を将来にわたって持続されるためには現状を変えなくてはならないとしています。改革を進めるにあたっては、医師以外の医療従事者や患者の思い、さらには国民全体・社会全体で考えられるべきであり、確実な実行のためには、行政の速やかな対応も求められます。全日本民医連は、今日まで医師の人権が著しく侵害されてきたといった現状認識や今後の改革の必要性について賛同すると同時に、以下の2点について引き続き現場の実態を踏まえた検討や具体化を強く求めます。
1.絶対的医師不足、看護師をはじめとした医療専門職の不足の認識とその解消に向けた取り組みを強く求める
今日の事態を長年放置してきた政府の無策に対しては言及しておらず、なにより日本の医師数が絶対的に不足しているという指摘がないことは、現状認識としては不十分な点を残していると言わざるを得ません。また、看護師をはじめ、医師以外の医療専門職も極めて脆弱な体制であるという視点が欠落していると考えます。
医師の働き方改革において何より大切な前提は、国民本位の公正で必要十分な医療制度をまもり発展させることと同時に、医師が健康で働き続けられる仕組みや社会をつくることが重要です。医療制度の改善についての責任は国にあり、医師の長時間労働の根本原因である絶対的医師不足の解消へ向けた政策への転換がなにより求められます。国は、医師需給推計にもとづいて、2022年度以降、大学医学部定員を削減するとしていますが、厚労省の示す医師需給推計は、女性医師や高齢医師の勤務時間数の算定係数が実態と乖離しており、必要な医師数などを考慮しない恣意的な推計といわざるをえず、これを根拠に議論を進めることは将来を見誤るものと考えます。報告書は2024年4月時点ではまだ約1万人の需給ギャップが存在すると述べていますが、需給ギャップは医師の犠牲的な労働に支えられています。需給バランスが均衡するという2028年にあっても、現実の医療需要が十分充足されているとは言い難いと容易に推測されます。医師偏在解決についても統制的手法ではない偏在対策の実行が求められます。
全日本民医連は国に対し、医師数の絶対的不足の現実に正面から向き合い医師増員政策に舵を切り、医学部定員増を継続拡大させ、OECD(経済開発機構)並みの医師数確保をめざす方針への転換を強く求めます。また、この改革が、国がすすめる医療費削減を前提とする医療機関の集約化や病床再編など医療提供体制の再編縮小の加速に利用され、医師の診療科偏在・地域偏在を助長させるような事態を招くことのないように求めます。
看護師の特定行為研修の推進については、現状で看護師に過重労働が存在すること、看護業務本来のあり方や医療の質の向上や医療安全上の整備など、前提となる多面的な議論がかけており、慎重な検討が必要です。医師労働軽減策のために安易なタスク・シフティングに頼るべきではありません。医療機関が作成を求められる文書作成については、行政や民間保険会社等の文書のみが指摘されていますが、なにより複雑化した診療報酬上の文書の簡素化・効率化こそおこなわれるべきです。
2.国は継続的、総合的な援助策と財政的支援の速やかな実施を
改革を進めるために、診療報酬をはじめとする国による財政的裏付けを速やかに具体化しなければ、「絵に描いた餅」となることを指摘しなければなりません。診療報酬は消費税負担の矛盾も含めて、実質的引き上げが適切に行われていません。医療機関の多くが赤字経営となり、経営困難に直面している現状において、財政的裏付けなきまま改革の推進が一方的にすすめられれば、日本の医療は重大な危機に直面することになります。また、労働基準監督署の画一的指導や是正勧告のあり方についても患者の受療権を守る立場や医療機関の抱える困難を踏まえての適切な支援を行う立場での指導援助を強く求めます。
時間外労働時間規制については、「地域医療確保暫定特例水準」(B水準)と「集中的技能向上水準」(C水準)が設定されましたが、上位1割2万人の医師の労働時間制限にまずは取り組むという妥協的な合意のもとに、過労死水準の2倍を超える水準が容認されたことは遺憾といわざるを得ません。A水準でさえ過労死水準であり、日本の医師の深刻な現実を反映した結果です。医師の労働時間短縮のためにも、医師はもとより、他職種も含めた大幅な増員と財政的裏付けが必要です。また、医師や看護師不足の中、医療機関が紹介料を人材紹介会社に支払っている不合理な実態なども、国として公的な支援策を強力に具体化すべきと考えます。
研鑽や宿日直についても、7月1日に厚労省から、都道府県労働局長宛に通達が出されましたが、医療機関が適切に労務管理をすすめ対応できるよう、丁寧に解釈を示しつつ援助することが労働行政には求められます。日本病院会の調査でも宿日直許可のあり方については従来の許可基準のもとで宿日直勤務中に救急医療等の通常労働が頻繁にあると答えた病院が32%、頻繁にあると答えた病院のうち38%が不適切と認識、取り消しもありうるのではと危惧している病院が8割にも及んでいます。
こうした問題が、今回の通知で適切に解決されるのか全日本民医連は注視していきます。
この春より働き方改革への対応のための一部補助金の措置が実施されていますが、医療機器の購入等に対する補助にとどまるものであり、全く不十分と考えます。全日本民医連は、国として実効的かつ、継続的、総合的な援助策と働き方改革への対応のための補助金等の財源増額、診療報酬の大幅引き上げを求めます。
おわりに
私たち全日本民医連は、医師の働き方の改善に向け、患者・地域住民、地域医療機関とも協力し、課題の解決にとりくむ決意です。同時に、地域医療と患者の受療権を守りながら、医師の健康も守る働き方改革をすすめるために、医師増員と診療報酬引き上げの運動を強め、国民的な議論を呼びかけるものです。
以上
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