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声明・見解

声明・見解

【要望書2024.11.24】有料職業紹介事業に関する要望書

2025年11月24日

厚生労働大臣 上野賢一郎 殿

 

全日本民主医療機関連合会

会長 増田 剛

 

 

有料職業紹介事業に関する要望書

 

 医療機関・介護事業所経営は、危機的状況の打開に向け、懸命に努力を続けています。しかし、診療報酬・介護報酬が抑制される中で、物価高騰、医師・看護師・介護職等の不足による困難、賃金改善対応等で大幅なキャッシュアウト構造に陥っています。こうした状況の中、今後さらに少子高齢化が進み、人材不足は深刻となることが予想されます。すでに、多くの医療機関・介護事業所での人材確保の需要が高まり、医療機関・介護事業所は、やむなく民間の有料職業紹介事業者に頼らざるを得なくなっています。市場原理に基づいた、医師・看護師・介護職等の確保のために有料職業紹介業者に支払う高額な紹介手数料は、公定価格である診療報酬・介護報酬を収入源とする医療機関・介護事業所の経営を圧迫するとともに、国民負担による社会保障財源の無駄遣いともなっています。
 つきましては、下記の通り要望いたします。厚生労働省におかれましては、趣旨を深くご理解のうえ、制度の抜本的見直しと公的支援体制の強化を速やかにご検討賜りますよう、お願い申し上げます。

1.診療報酬・介護報酬を収益とする事業への営利を目的とする有料職業紹介事業を禁止とすること

 憲法第27条では国民の勤労の権利が保障されています。これは、国が責任を持って、国民の働く権利を保障しなければならないということです。それには、当然、無料で国が職業紹介をしなければなりません。このために設けられた職業安定所と営利を目的とした民間の有料職業紹介所とは基本的に違うものです。少なくとも、地域医療・介護は社会的共通資本であり、こうした業種の人材確保を営利目的の事業の対象とすることは、公共政策の根幹に反しているのではないでしょうか。
 1999年に職業紹介事業の取り扱い業種が自由化されたことにともない医療介護現場に営利を目的とする紹介業者が参入し、この間も紹介業者を巡って様々な問題が起きています。
 医療・介護は、国民の生命と尊厳を守る公益的事業であり、その基盤は「非営利性」と「公共責任」にあります。にもかかわらず、現行の紹介ビジネスは、病院が赤字でも紹介会社が「成功報酬」により確実に利益を得るという倒錯した構造を生み出しています。紹介手数料は、実質的に人件費の一部を転化したものであり、その原資は最終的に公的保険財源、すなわち国民の負担によって賄われています。こうした構造は、医療機関の再生産機能を歪め、社会的に不要なコストを膨張させるものであり、公共の経済の観点からも是正が不可欠です。
 従って、有料職業紹介事業を港湾運送・建設等を除いて原則自由化している職業安定法を改正し、医療機関・介護事業所への営利を目的とした有料職業紹介業を禁止するための必要な措置をとるよう強く要望します。

2.営利を目的とした有料職業紹介業者への実効性のある規制の措置をとること

 職業安定法改正がすぐに実施出来ない場合でも、さらなる規制の強化をはかることを要望します。現状の規制の取り組み(情報提供の義務付け、2 年間の転職勧奨やお祝い金等の金銭提供の禁止、特別相談窓口の設置や事業者への指導監督、「適正な有料職業紹介事業者の認定制度」等)では医療・介護事業者の抱える問題の解決にはなっていません。日本慢性期医療協会の調査(2023年12月)によれば、医療・介護分野における紹介手数料総額は1,215億円にのぼり、国民医療費・介護給付費の約0.2%を占めます。また、当会の紹介手数料費用は2023年度収益比0.2%となり年々増加し経営悪化の要因の一つとなっています。また、厚生労働省委託調査(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2023年)では、医療・介護・保育3分野の1人当たり平均紹介手数料は91万円、医師に限れば平均330万円にも達しており、もはや看過し得ない規模に至っています。
 「骨太の方針 2025 」では、「医療、介護、障害福祉分野の不適切な人材紹介の問題について実効性ある対策を講ずる」とされています。現場にとって有効な規制を速やかに実施するよう強く要望します。

①高額な紹介手数料の上限規制の措置をとること(年収の10%以下等)

 「職業紹介事業の業務運営要領(令和7年6月厚生労働省職業安定局)」による「上限手数料」は、雇用された人材に支払われる賃金6カ月分の11.0%を上限とする手数料制ですが、現状は、ほぼ全ての紹介業者は「届け出手数料」を選択しています。当然の結果として、営利を目的とする職業紹介事業にとっては、利益が少なくメリットがあまりないため、「上限手数料」を選択している事業者はほとんどありません。
 現状では医療機関への紹介手数料は概ね年収の20%〜30%程度ですが、公定価格での収益で運営している医療機関・介護事業所にとっては存続を揺るがす重い負担となっています。
 「届け出手数料」は、事業者が自ら料率を定めて届け出る制度となっており、年収の50%以上は開業許可がおりないとされているものの、『職業紹介が成功した場合における当該求職者の年間賃金を基準に、35%を標準とします。なお、上記を基準に求人条件その他の状況により求人者と特別に合意した場合は、その金額とします。この場合でも、当該求職者の年間賃金の100%または充足1件につき1000万円のうち、いずれか高い方を上限とします』などの届け出もみられ、人材不足の中で「背に腹変えられない」と言う判断で高額な紹介手数料を支払わざるを得ない実態もあります。
 結果として、「届出手数料」の枠内であれば高額設定も合法であり、現行制度は、規制とは名ばかりで、実態として市場放任の状態にあります。
 少なくとも、公共性・非営利性を原則とする医療・介護分野においては、「上限手数料」での営業しか認めない等、紹介手数料を10%以下程度に規制すべきです。

②悪質業者への罰則強化及び手数料の透明化と情報開示義務の強化

 紹介業者を巡る社会的批判と倫理的逸脱は顕在化しています。厚労省委託調査では、利用者の45.4%が「悪質業者への取締り強化」を求め、紹介事業者の36.8%も「規制強化が必要」と回答しています。また、日本医師会も「高額紹介料は医療経営に深刻な影響を及ぼしている」と警鐘を鳴らしています。営利目的の転職誘導や情報操作は、医療倫理を損ない、地域医療への信頼を失墜させるものです。
 短期離職を意図的に誘発して手数料を再獲得する行為、求人情報の囲い込み、虚偽広告など倫理的に不当な行為等に対し、行政処分および罰則をさらに厳格化すべきです。また、「採用代行サービス業」も存在し、複数社による紹介手数料の重複請求が行われており、なんらかの規制をすべきです。併せて、紹介料率・実績等の情報を公表させ、利用者および医療機関が比較可能な環境を整備することを要望します。

3.公的紹介機能の抜本的強化を

 国による医療・介護人材育成への投資は不十分であり、公共職業安定所(ハローワーク)の機能も限定的なままです。その結果、人材確保の責任が民間の営利事業者に委ねられ、医療・介護分野の「市場化」「取引化」が進行しています。公共職業安定所(ハローワーク)の役割は、求人会社より立場が弱い求職者の保護を第一義として紹介を行うのに対して、営利を目的とする職業紹介所の場合、とにかく求職者を就職させ利益を得ることが目的となります。
 医療機関・介護事業所への人材紹介を利益追求の対象とすることを禁止することと併せて、公共職業安定所(ハローワーク)の医療介護専門職対応を拡充し、医師会・看護協会・大学医局等とのさらなる連携を強化することで、公共的な人材紹介の仕組みを再構築し抜本的に強化できる有効な対策の実施を求めます。

以上

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