診療所の屋根に市民発電所 再生可能エネルギーの普及で「原発ゼロ」へ 神奈川・うしおだ診療所
この秋、横浜勤労者福祉協会(横福協)・うしおだ診療所の屋根に太陽光の市民発電所が完成予定です。設置は「NPO法人 原発ゼロ市民共同かわさき発電所」。脱原発をめざし地域の再生可能エネルギー普及にとりくんでいます。同法人副理事長で、川崎協同病院の看護師、田中哲男さんの寄稿です。
「原発反対!」「再稼働はヤメロ!」。私は、東京電力福島第一原子力発電所が大量の放射性物質をまき散らした事故のあと、国会前で叫ぶことしかできなかった反対派のメンバーです。集会参加、デモ行進、署名活動など、反対の意思を示す行動はしていましたが、実際に原発推進に抵抗する手段はありませんでした。
その日々が少しずつ変わり始めたのは四年前。「原発なんていらない」という世論をつくるため、「自分たちで発電所を作って、原発がいらないことを証明しよう」と仲間が集まり、活動を始めました。議論を重ね「NPO法人 原発ゼロ市民共同かわさき発電所」が誕生。NPO法人として川崎市が「原発ゼロ」の名称を認めたことは、大きな衝撃でした。原発ゼロ=公益性ありとの判断でした。
事業のしくみ
二〇一五年一月、市民から八〇〇万円を無利子無担保で二〇年間借りマンション屋上に一号機。続いて八月、高齢者住宅の屋上に二号機(事業費六〇〇万円)が完成しました。
この事業は、再生可能エネルギーが生み出した電気を有利な条件で電力会社に買い取ってもらう「固定価格買取制度(FIT)」を活用しています。一二年に始まったこの制度は、発電した電気の買取価格を売電契約時から一〇~二〇年間保証することで、再生可能エネルギー事業を推進する国の制度です。この安定して得られる売電料金で建設資金を返済していきます。しかし、いまだにエネルギー政策を原発依存から変えようとしない政権が毎年、売電価格を下げ、小さな発電所では事業採算性の確保が厳しい状態です。
建設場所探しが難しい
三号機発電所計画は難航していました。「屋上のアンテナが日陰をつくり発電効率が落ちる」「屋根が北向きで太陽が当たりにくい」「建物の南側の空き地に高い建物が建つかも」など、様々な条件が障害となり、いい物件は見つかりませんでした。
私が勤務している川崎協同病院の屋根の広さは十分でしたが、建物が古く二〇年はもちません。隣接するふじさきクリニックは条件が良く事業採算性あり、と判断できましたが、残念ながら最終的に建設までは行かず、一向に打開策が見いだせない状態でした。
転機は、二〇一六年に代々木公園で行われた「安倍政権NO! ☆0214大行進in渋谷」集会の帰り道。同じ神奈川県連の横福協の職員と居酒屋で合流し、原発再稼働を目論む安倍政権への対抗措置として、発電所建設を、と話がすすんだのです。合意形成には一年以上かかりましたが、うしおだ診療所の屋根に今年一一月、待望の三号機が完成する予定です。
市民発電所は物件探しが最大の課題と言われます、この居酒屋で接点ができたことが、一つの発電所を作る上で最も重要な条件だったのです。
全国でも見ないケース
全国の先例をみても、経済的につながりのない団体が医療機関の屋根に発電所を設置したケースはありません。病院や診療所は医業以外で収入を得ることを禁じられていることが要因です。売電すると「製造業」、第三者に屋根を有料で貸すと「賃貸業」になります。「売電せず自己消費、賃貸もせず」では、発電所建設費は回収できません。
しかし利点はあります。太陽光は枯渇しない「無限のエネルギー源」。何もなければ病院の屋根を温めるだけですが、屋根に太陽光発電所があれば、そのエネルギーが電気に変換されます。夏は屋根の温度上昇を抑え冷房代を節約でき、冬は北風の直撃を避けられるので建物からの熱放出が軽減できます。さらに、発電所は非常電源として活用できるので、自然災害などで停電しても安心です。
私たちの発電所を参考にして、全国の医療機関などの屋根に太陽光発電所ができることを願っています。私たちは、原発事故被害者に寄り添い、幅広い人びとと連帯し、原発再稼働反対、原発ゼロの日本を目指しています。みなさん、ご一緒にエネルギー革命の第一歩を踏み出しましょう。
(民医連新聞 第1650号 2017年8月21日)