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民医連新聞

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働く者の命と健康を奪うな “死ぬまで自己責任”「過労死ライン」合法化

 生き生きと働き、健康で毎日を過ごす―。誰もが願うことです。しかし安倍政権は、長時間、労働者を働かせることを可能にする「働き方改革」法案を衆議院で強行採決し(自民、公明、維新などが賛成)、今国会での成立をめざしています。「過労死促進法」とも言われる危険な中身とは。(丸山聡子記者)

 「この法改正を許せば、“健康で文化的な生活”は完全に不可能になり、ただ“生命体として存在できればOK”というところまで働かされるようになる」。こう指摘するのは、全日本民医連理事で、長く過労死など労働災害にかかわる田村昭彦医師です。

■際限なく働かされる

 最大の焦点は、「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の導入です。年収一〇七五万円以上の高度な専門職(アナリスト、研究職など)の労働時間規制を撤廃し、残業代も不要、という仕組みです。休日は、年一〇四日、四週に四日とらせる、というのがルールですが、月はじめに四日休ませれば残りは連続で二四時間働かせてもOK。まさに「定額で働かせ放題」です(下表参照)。
 田村さんは、「業務を命令するのは企業側であり、それをこなさない限り、労働者は際限なく働かされる。高プロはこうした働き方を合法化するもので極めて危険」と批判します。
 「高プロ」に反対し、国会前でマイクを握った渡辺しのぶさんは、電気メーカーのエンジニアだった夫を過労死で亡くしました。しかし会社は「過労死ではない。裁量労働だったから」と説明。「高プロを許せば、死ぬまで働かされ、過労死とすら認められない労働者を増やす」と訴えました。
 高プロのもとでは、企業は労働者が何時間働いたかを把握する義務さえなくなります。そのため、過労死した場合でも、長時間労働を証明することができず、労災認定はますます困難になります。「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子さんは衆議院厚生労働委員会の参考人質疑で、「遺族にとっては地獄。命にかかわる働き方の創設を認めることはできない」と法案の撤回を求めました。
 高プロの対象は年収一〇七五万円以上に限定していますが、日本経団連は「年収四〇〇万円以上に」「対象業務の追加」などと発言。時間の規制なく働かされる人が拡大することは明らかです。

■生きるか死ぬか

 残業時間の上限規制も恐るべき基準です。月四五時間を上限としながら、特例として月一〇〇時間、二~六カ月で月平均八〇時間まで認めています。月八〇~一〇〇時間は「過労死ライン」。これを超えると心疾患・脳疾患は急激に増えます。田村さんは、「生きるか死ぬか、を基準にするのではなく、人間らしく生きるための労働時間を議論するべきだ」と強調します。


長時間労働の末 娘は命を落とした 

―佐戸恵美子さん

際限なく働かせる「高プロ」反対

 佐戸恵美子さんは2013年7月、NHKの記者だった娘の未和さん(当時31歳)を亡くしました。都庁記者クラブに所属していた未和さん。亡くなる直前は東京都議選、参院選と続き、残業時間は7月209時間、6月は189時間にのぼりました。
 「5人の部署で1番若く、女性は1人だけ。懸命に働いたのでしょう。政府は『自由な裁量で働き、成果で評価される』と説明しますが、労働者は業務命令に背けるはずもなく、裁量もなく、成果が出るまで働き続けるしかなくなります」と佐戸さんは指摘します。
 亡くなる前、未和さんには女性初の県庁キャップの辞令が出ていました。佐戸さんがLINEで「おめでとう」と送ると、泣き顔のスタンプが返ってきました。「不安だったのでしょう。なぜ気づいてあげられなかったのか。失われた命は二度と戻らない。家族全員が苦しみ続けています」と佐戸さん。未和さん亡き後、体調を崩して入院、今も通院が欠かせません。
 「高プロを許せば必ず命を落とす人が出る。それでも過労死と認められない。死んでも自己責任。こんな制度を子どもたちに手渡すわけにはいきません」。

(民医連新聞 第1670号 2018年6月18日)