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民医連新聞

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水俣病から学ぶ 人権と社会保障 民医連のたたかい 第1回社保セミナーin熊本

 5月27~29日、第1回社保セミナーを熊本県水俣市で開催し、34人が参加しました。民医連運動のたましいである社会保障のとりくみに確信も持ち、中心を担う職員として必要な観点を身につけることが目的です。水俣病を通じて人権と社会保障について意義を深めました。いち参加者として見たセミナーをリポートします。

(代田夏未記者)

 水俣病といえば、教科書で学んだ記憶がありました。海に工場の汚染水が排出され、その海で育った魚を食べてけいれん、麻痺、意識障害などを起こす劇症型のイメージです。しかし、この社保セミナーに参加して水俣病の真実と“今”が浮き彫りになりました。

■もう水俣にいたくない

 初日の講演で水俣協立病院元看護師長の山近峰子さんから話を聞きました。山近さんが中学1年生の時に父が倒れ水俣病と診断されます。父は家で寝たきりになり、母は1日200円の日雇いの仕事をするようになりました。収入は減り生活は困窮していきました。
 そんな中、学校で映画会が開催されることになり、お金を持って行くと先生は「池田(旧姓)さんはよか」と。「なしてですか?」と聞いても「よかばい」としか言いません。結局払わず帰って母に伝えると「うちはお金がなか」と言われました。山近さんは「この話をするといつも苦しくなる」と涙ながらに話してくれました。
 父が水俣病と認定されると石を投げられたり、「あんたたちは認定されてよかな」と嫌みを言われたり差別を受けました。「もう水俣にいたくない」と思い詰め、家を出たこともありました。
 山近さんもからす曲がり(こむら返り)などの水俣病の症状があります。地域のほとんどの人たちが同じ症状のため、自分が水俣病と気づかない人も多数います。

■見えない線引き

 フィールドワークでは「何これ?!」と理不尽さに怒りがこみ上げる場面が何度もありました。船に乗り不知火海(しらぬいかい)を海上から視察。同じ海に面しているのに救済されている地域、されていない地域が一望でき、目に見えない線引きを痛感しました。国や県は検診や調査もしないで、特別措置法の救済地域を決めていました。そして、年齢での線引きもされ、症状があるのに救済されない人がいることが浮き彫りになっていました。
 「排水を止めた後にも水俣湾には基準を超えた水銀量の魚介類がいたため、仕切網を設置しています」。資料館ではこのように仕切網を説明しており、いかにも水俣湾から汚染魚は出ていないような印象でした。しかし実際には、網目は魚が通れるほど大きいもので、船も通れるように中央部分には網は引いていませんでした。水俣病問題解決に向けてつくられた資料館でも「大事なところが隠されている!」と感じました。
 チッソ工場正門の正面には水俣駅があります。チッソのためにつくられた駅であることを象徴していました。その工場に向き合うように建つ水俣協立病院は工場を見張っているように感じました。病院の屋上から工場が一望でき、その広大な敷地と、大変な公害を生んだ工場が今なお動き続けていることにも驚きました。

■めっちゃすごい民医連

 くわみず病院元事務長で不知火患者会事務局長の元島市朗さんは、講演で何度も「民医連ってめっちゃすごい」とくり返しました。国が調査をしない中、民医連は全国から支援を得て、掘り起こし検診を行い、1000人もの患者を診ました。この検診で多くの取り残されている患者がいることが明らかになりました。元島さんは「政治が住民のいのちより企業を優先している。医療は誰のためにあるのか」と参加者に問いかけました。
 山近さんは「県や国も頼る大きなチッソ工場が水俣病を拡大させたにもかかわらず、地元の人たちは何も言えなかった。民医連に入って社会のしくみの中にある差別や矛盾に気づかされ、『これは人権侵害だ!』と仲間とともに立ち上がる人の強さも知った」と話しました。参加者からも「知らないことは罪。学ぶことに終わりはない」「患者さんが何を必要としているか考えて行動したい」という声がありました。
 山近さんは講演の最後に3つの大切にしてほしいことを話しました。「元気なこと」「学習すること」「たたかうこと」です。患者の病気だけに目を向けるのではなく、背景にある生活や社会保障にも目を向けられることが、ほかの医療機関にはできない民医連のたましいだと感じました。そして、ともにたたかう仲間が全国にいることも民医連の強みです。
 民医連職員として患者に寄り添い、いっしょにたたかうことの大切さを学んだ3日間でした。


水俣病とは

 1932~68年までチッソ株式会社水俣工場が不知火海に排出した工業廃液に含まれるメチル水銀によって汚染された魚介類を摂取することで起こる健康障害。56年に公式認定され、68年に公害認定。当初は麻痺、けいれん、意識障害を起こし死亡する急性劇症が多数みられた。現在も感覚障害、視野狭窄、聴力障害、構音障害などの幅広い症状で、日常生活に不便を抱えている患者が多数いる。

(民医連新聞 第1694号 2019年6月17日)