診察室から 子育てを応援できる社会に
小児科医になって、27年が経ちました。地域の第一線で子どもたちの健康を守りたいと、日々診療を行っています。具体的な事例をもとに、診療現場で感じていることをお伝えします。
A君は1歳の男の子。体も弱く、よく肺炎になります。入院もすでに4回経験しています。A君は3歳の姉と母親の3人で暮らす母子家庭。母親のパート収入だけで生計を立てています。生活はとても厳しく、咳や鼻水だけの風邪症状では母親は仕事を休むことはできません。生活のために、子どもの体調が悪くても、保育園に預けざるを得ず、病状が悪化し入院加療が必要となってしまいます。「生活をとるか? 子どもの健康をとるか?」の厳しい選択をしながら、毎日生活しています。母子家庭の生活は、年々厳しくなっていることを実感しています。
B君は10カ月の赤ちゃんです。転勤族の父親と母親の3人で生活し、和歌山にはB君の出産後に転居してきました。父親は家事や育児に協力的ですが、朝早くから夜遅くまで仕事をしています。日ごろの育児は、母親だけが行う、いわゆるワンオペ育児です。
梅雨のある日、予防接種を受けに来ました。予防接種を終えた後、母親はおもむろにメモを取り出して、矢継ぎ早に私に質問してきました。「部屋の温度はどうすればいいのか」「衣服はどんなものがいいのか」「どれくらいの水分を与えればよいか」など、育児に関する基本的なもので、育児経験者なら簡単に答えられるもの。母親を助けてくれる友人や家族が身近にいないことがうかがえました。地域から孤立する親子は、今も結構な割合で存在しています。
この2人の事例は決して特殊なものではありません。子育て世代の生活はかなり深刻になっています。生活をささえるために仕事を優先し、子どもたちの健やかな育ちを阻害しています。「子どもは社会の宝」という精神を大切に、地域や社会が協力しながら、子育てを応援する仕組みや制度をつくっていきたいものです。
(佐藤洋一、和歌山・生協こども診療所)
(民医連新聞 第1703号 2019年11月4日)