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民医連新聞

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おいしいを安全に 最期まで口から食べる多職種で嚥下食メニューを開発 兵庫・共立病院

 兵庫・共立病院(姫路市)では、年々増加する低栄養・重度嚥下(えんげ)障害に対して、新たな嚥下食メニューを開発しました。とりくみを通じて見えてきた、多角的な効果とは―。(丸山いぶき記者)

 昨年11月22日、正午の病棟デイルームで入院患者の昼食が始まりました。「わーすごい、おいしそう。味の濃いソースが好きですね」「むせへんね。いい表情」。
 旺盛な食欲で、新しい嚥下食を次つぎと口に運ぶ男性は、誤嚥性肺炎で入院中。言語聴覚士の江藤晶子さんと、管理栄養士の河内祥子さんが見守ります。「入院当初は寝たきり状態。リハビリでようやく座って自分で食べられるようになった。8割食べれば400kcalはとれるので安心」です。

■嚥下食のジレンマ

 同院は全48床が地域包括ケア病床の地域密着型病院。法人内に介護事業所が多く、連携して在宅復帰を支援しています。入院中の寝たきり防止に、多職種で生活リハビリにも力を入れています。
 一方、給食会社から院外調理されたものを加工して嚥下食をつくるため、献立の変更・味付け・物性の調整ができず、嚥下食への不評が課題になっていました。
 「患者の口腔(こうくう)嚥下機能に合わせて調整する際には、水分を加えてミキサーにかけるため、分量が増え、味が薄くなり、見た目も悪く、量を食べられず栄養が取れない」と河内さん。「食事時間が長くなれば、患者は疲れて姿勢を保てず、誤嚥リスクも上がる。どこでも抱えるジレンマだと思う」と江藤さんも指摘します。やむなく食事を半量にして3食に栄養補助食品をつけていましたが、コストがかかる上、肝心の食事摂取量が思うように増えませんでした。

■健和会病院に学び

 患者の摂食嚥下機能を維持するためには、絶食状態を避け、食べ続けることが重要です。同院では近年、それを安全にかなえる完全側臥位(そくがい)法(長野・健和会病院の福村直毅医師が提唱)を学び、病棟をあげて実践してきました。
 最新の嚥下治療(入院・外来・在宅領域)を学ぼうと、2023年春、医師と看護師、言語聴覚士、管理栄養士、看護補助者、計6人で長野・健和会病院を訪問。これが大きな転機となりました。
 研修報告会には、院内すべての部門が参加。看護師長らが先導し、病棟全体で業務改善にとりくみました。なかでももっとも要望が多かったのが、少量高カロリー食の導入です。「格の違いを感じた。でも長野に行かなければ、新しい嚥下食は実現できなかった」と河内さん。
 共立病院でも6月から、嚥下食開発に着手。給食会社の協力も得て試行錯誤を重ね、試食会で多職種に実施したアンケートの声も力に、24年2月に完成しました。

■効果は多方面に波及

 新旧嚥下食の違いは歴然。味にもこだわり、味覚が衰えても最後まで残る甘味を増やしたことで、患者にも好評です。
 高カロリーなので完食できなくてもひと安心。1時間かかった食事が15分で済むなど、看護師や介護職の介助業務を効率化し、他のケアに割く時間も生みました。
 開発にも携わったリハ科の若木ゆかさん(歯科衛生士)は、「食物残渣(ざんさ)が少なく、食事後のケアも楽」と言います。栄養面から口に残りやすい極小刻み食提供だった患者が、新しい嚥下食で栄養を取れるようになり、口腔衛生を保つ上でも利点を実感しています。
 作業療法士からは、スプーンにとどまる物性を評価する声も。河内さんは、リハ職から「栄養が入らないと、リハビリもすすまない」といった声を聞き、栄養への意識の向上を感じています。
 在宅領域でも、嚥下外来を窓口に軽度嚥下障害の早期発見に努めています。リハビリ入院を勧め、栄養状態と嚥下機能を改善して在宅復帰につなげるとりくみも行っています。
 最期まで口から食べ続けるための好循環を生み出しています。

(民医連新聞 第1820号 2025年1月6日号)

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