診察室から 雪に耐えて梅花麗し
生まれてから初期臨床研修終了までの29年間を広島で過ごし、さらなる成長のため新天地・福岡へ。勉強や仕事で何度も壁にぶち当たりつつ何とか乗り越えてきました。
しかし、昨年は仕事でも私生活でも、さまざまな試練がまるで厳冬の吹雪のように身を打ち、かつてないダメージを与えていきました。慣れない職場、のしかかる責任、求められる数々の知識や技術、プレッシャー。自分なりに努力を重ねど状況は改善せず、すすんできた道を後悔しかけたこともありました。
そんななか大事にした言葉が「雪に耐えて梅花麗し」。かつて九州の英傑・西郷隆盛が英国留学に臨む甥に送った言葉で、「厳しい雪に耐えてこそ、梅の花は麗しく咲く。同じように人間も、多くの困難を経験してこそ、大きなことを成し遂げられる」という意味を持ちます。元広島東洋カープのエース黒田博樹氏が座右の銘とし、カープファンの私はそこで初めてこの言葉に触れました。以来、逆境のたびに思い出しました。
幸い職場の仲間は、温かな言葉で私を何度も励まし、重くのしかかった雪を溶かしてくれました。積もった雪はまだ分厚く、花が咲くのはまだ先になりそうですが、開花の時までみなさんとともに、鍛錬を積んでいきます。
もちろん、医師の仕事はつらいことばかりではありません。苦しいことを上回るやりがいと誇りが、私の原動力です。目の前の疾患だけでなく生活環境や社会背景に目を配り、総合的な視点で診療をすすめる必要があり、私一人では到底対処しきれません。他職種と連携し、相手にとっての幸せと生きがいを追求することは、「この社会を少しだけ、しかし確実に良い方向へ変える」こと。民医連がめざす「無差別・平等の医療」の模範解答に、私は日々の仕事で、当事者として触れているのだと実感しています。
季節は暖かな春へと向かい、草花もやがて盛んに萌ゆることでしょう。この1年、みなさんの「梅の花」が麗しく咲き誇るよう、願っています。(今田紘一郎、福岡・健和会大手町病院)
(民医連新聞 第1820号 2025年1月6日号)
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