フォーカス 私たちの実践 罪を犯し孤立する高齢者を 地域福祉でささえる 長野・在宅総合ステーションながの 訪問介護の視点の先に地域とつながる生活が
地域で暮らす高齢者一人ひとりが抱える生活しづらさは、要介護度だけでははかれません。長野・在宅総合ステーションながのでは、訪問介護サービスを実践するなかで利用者の置かれた状況を理解し、孤立しないよう専門性を発揮して多職種と連携し、生活をささえています。第16回看護介護活動研究交流集会で、藤澤寿実さん(介護福祉士)が発表しました。
人生の半分以上を刑事施設で過ごし、社会とのつながりが乏しくなれば、さまざまな困難を抱え、問題も生じます。そんな高齢者に対し、介護保険の自立度とは違った視点で「自立とは何か」と考え介入した事例を報告します。
■「要支援2」とはいうものの
70代のAさんは、要支援2で生活保護を利用し、共同住宅で一人で暮らしています。
既往歴は、高血圧、逆流性食道炎、心筋梗塞(ステント術)、脊柱管狭窄(きょうさく)症(手術)、肺気腫。
Aさんは窃盗などで複数回の逮捕歴があり、刑務所などの刑事施設生活をくり返し、出身地から遠く離れた現在の住居に至りました。共同住宅には、同様に社会復帰した人が多く住んでいました。
金銭管理ができず、生活費が足りなくなる状況があり、生活保護費は支援センター職員(福祉サービス利用援助事業を担う社会福祉協議会の職員)から、週1回手渡しで受け取っていました。調理師であったことから、食材や食に対するこだわりが強くありました。
長年の刑事施設での経験がトラウマとなり、隣人の生活音に対して、音を出してやり返したり、別の隣人に暴力をふるい入院、転居させる事態もありました。
両隣が空室になってからも、隣人が帰ってきたのではないかと被害妄想し、「あいつがまだ居る」「音がする」と幻聴や不眠の訴えがありました。大家からは「退居してほしい」との訴えも。大家や支援センター職員が「隣人をかくまっているのでは」と疑い、「裏切られた」と思っている様子でした。
■次第に表情が柔らかく
困難事例として他事業所にサービス提供を断られた経緯があり、当事業所で急きょサービス介入することに。本人、自治体担当者、ケアマネジャーとともに面談し、サービス内容を確認。週2回の買い物支援の希望があり、生活援助サービスを開始しました。
サービス開始後、ベランダには出せずにたまった不燃ごみや空き缶があり、居室の掃除もできていない様子が見受けられました。
そこで、サービス開始から2週間後、買い物を1回にまとめてはどうかと提案。「1回で大量の買い物を頼むのは悪い」と、女性ヘルパーを思いやる発言もあり、それが可能とわかると、買い物を1回、掃除を1回行うことで合意。大家の協力を得て回収時間にごみ出しを頼み、不要な物を片づけることもできました。
現在、サービス開始から2年が経過し、週に買い物1回、掃除1回で定着しています。衣類や寝具がほとんどなかった状態から、事業所に寄付された物で生活環境を整えることができました。保健師が介入することで、月に1回の精神科受診にもつながりました。
当初は「買い物だけでいい」と言っていたAさんでしたが、こちらが生活しづらさを捉え投げかけることで、少しずつ要望や相談も聞かれ始めました。かかわる人が増え、場面ごとに頼れる人ができ、表情も柔らかくなりました。さらに今後、他のヘルパーでもサービスに入れるように、かかわりをひろげていきたいと考えています。
■生活をみる専門家として
罪を犯し、なじみのある地域から離れざるを得なかったために、社会とのかかわり方がわからず、孤立しがちだったAさん。「罪を犯した人」ではなく、個人として尊重し、無差別・平等のケア実践をめざしました。「要支援2」でこれほど地域と連携し支援した事例は、当事業所でも初めて。顔の見えるかかわりで多職種との連携も密になり、生活環境を整えることで、本人の意識も変わりました。
生活援助は誰でもできると捉えられがちですが、専門性を生かした訪問介護の視点でかかわることは重要です。私たちはこれからも生活をみる専門家として、訪問先それぞれのプライベート空間でその人の暮らしを見つめ、先々も見据え根拠をもってかかわります。
(民医連新聞 第1826号 2025年4月7日号)
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