医療従事者の増員と診療報酬の抜本的引き上げで 地域医療を守れ
2月22日、ドクターズ・デモンストレーション2025を開催し、地域医療を守るために、医療従事者の増員と診療報酬の抜本的な引き上げを求めました。村上晃さん(弁護士)の基調報告と、WEB参加の立川相互病院院長の高橋雅哉さん(医師)のリレートークを紹介します。
医療費抑制政策の転換で地域医療・介護の再生を
弁護士 村上 晃さん
健康保険証の廃止によるマイナ保険証の押し付け、後期高齢者の窓口負担増、2040年に向けた「新たな地域構想」で、医療へのアクセスがさらに阻害されています。これまでの「地域医療構想」では、病床数の削減(資料1)、医師・看護師の抑制をすすめてきたにもかかわらず、「新たな地域医療構想」は、外来医療、在宅医療、介護との連携においてその担い手が不足している、としています。医療費抑制ありきの場当たり的な政策の結果です。
新型コロナウイルス感染症の拡大で顕在化した、日本の医療制度の脆弱(ぜいじゃく)性と医療アクセスの阻害により、医療へのアクセスは人権であることを認識せざるを得なくなりました。そして国民の医療へのアクセスを保障するためには、それをささえている医師の健康権の侵害があってはいけません。
憲法上、国民の医療へのアクセス権を保障する義務は国・地方自治体にあります。同じ人間であり、国民である医師個人には、自らの健康権を犠牲にする義務はありません。しかし現実は、医療従事者の犠牲で医療へのアクセス権はささえられてきました。この二つの人権侵害の原因は、医療費抑制を所与の前提とした国の医療費抑制政策にあります。国民・患者と医療従事者は、意図的につくり出された分断を乗り越え、連携して、医療費抑制政策からの転換を実現しなければなりません。
国は、医療費を抑制するため、需要抑制として窓口負担増、供給抑制として医師数の抑制、病床削減を行ってきました。
そもそも、これまで行われてきた国の医療費抑制政策はエビデンスにもとづいていたのでしょうか。医療費抑制政策の理由とされてきた、「医療費の上昇は経済の足かせになる」という考えのエビデンスは非常に弱いとされます。患者の窓口負担増は、受診抑制につながり、かえって健康状態を悪化させ、医療の抑制になりません。
国やマスコミのミスリードにも注意が必要です。現役世代との負担の公平をはかるとして行われた、後期高齢者の窓口負担増による現役世代の実際の負担軽減効果は、1カ月当たり、わずか30円程度です。現役世代や若者に対する政策の懈(け)怠(たい)(怠慢)への批判の矛先を変えるために、現役世代や若者がダシに使われたのです。
人権としての医療アクセスが保障される社会の実現をめざし(資料2)、これまでの医療費抑制政策から脱し、医療・介護をこそ地域再生の要とする政策への転換が求められます。
診療報酬改善こそ受療権守る赤字は政権がつくり出す
東京・立川相互病院院長 高橋 雅哉さん
東京・立川相互病院は病床数287床で、職員数は617人、医師は84人(常勤70人、初期研修医14人)です。夜間医師体制は5人で行っています。
医師の働き方改革で、時間外労働上限は月80時間、泊まりの制限も月5回となり、泊まり手当が残業手当(一部は宿日直)になることで、人件費が増えました。
2023年、当院の事業収益の実績は70億7000万円で、償却前利益は6900万円でした。しかし、2024年10月から当直を超過勤務扱いにすることで人件費が6000万円増える見込みで、積み上げてきた経営努力が消えてしまいました。必要な時に病院に受診できることと、医療機関の経営は、いわば医師の長時間、不払い労働でささえてきたと言っても過言ではありません。少なすぎる診療報酬、医師数では、医師労働の正常化、国民の受療権、医療機関の経営は守れません。
OECD加盟国の医師数の平均は人口1000人あたり、3・6人に対し、日本では2・5人で、OECD平均に達するためには約13万人の医師が不足しています。医師が偏在しているといっても、人口10万人あたりの医師数がもっとも多い336人の徳島県でさえ、OECD平均の360人を下回っています(資料3)。
この40年で、給与水準、物価指数は30%以上、上がっているのに、診療報酬はほとんど上がっていません(資料4)。
当院の経常利益で、2010~14年で黒字だった時期は、自民党に変わった民主党政権下で、診療報酬の改善がはかられた時期です(資料5)。病院の赤字は、政権によってつくりだされたものです。
医師数と診療報酬アップが必要です。
(民医連新聞 第1827号 2025年4月21日号)
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