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民医連新聞

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相談室日誌 連載580 不利益な身寄りない患者 誰にとっても優しい社会に

 70代の女性Aさん。同じアパートに住む大家が、「部屋内にゴミがあふれている。買い物に出歩く回数が減り、最近『食事をくれ』と言われることが多くなった。生活管理が十分にできていないのではないか」と地域包括支援センター(以下、包括)に相談しました。包括が状況把握で訪問しても会えずにいたそうですが、数回目に訪問した時に玄関で倒れているところを発見。脱水で、急性期病院で治療を受け、当院に転院となりました。長年独居で結婚歴なし、親族とは疎遠で支援できる人は不在。自宅は片付いておらずゴミ屋敷に近い状況であったと包括の職員から話がありました。Aさんは短期記憶低下で、今までの生活のことを聞いてもはっきりしませんでした。
 金銭や生活管理が十分にできないと思われるため、本人、支援者と相談し、介護保険申請と市長による成年後見申し立てをしました。また、独居は困難と本人とも確認し、施設入所をめざすことになりました。
 当市では市長申し立ての場合、後見人決定まで数カ月から半年以上の期間を要することがあります。Aさんの病状・身体機能が一定回復したため、退院先の施設を探しましたが、「後見人がつかないと受け入れできない」とほとんどの施設から断られ、約6カ月の入院継続になりました。身寄りがないことで希望しても施設に入所できず、入院を継続せざるを得ない、Aさんの権利は守られていると言えるのでしょうか。
 支援してくれる親族や身寄りがないことは誰にでも起き得ます。しかし今の社会は、身寄りがない人にとってあまりにも不利益が多く、優しくない社会です。専門職も地域住民もこの問題に向き合い、自分事として考え、身寄りのない人にも優しい社会をつくることを本気で考える時期が来ており、この問題を地域にもっとひろめていくことが必要だと考えます。そのために、権利擁護の視点を忘れず、事例を発信したり、関係者にカンファレンスへの参加を呼びかけたりしていきたいと思います。病院や施設、自治体、当事者、近隣住民などが少しずつ責任や負担を分け合い、協力し合ってこの問題が問題ではなくなる仕組みをつくり、誰にとっても優しく、権利が守られる社会になると良いと思っています。

盛岡・川久保病院 照井 咲希

(民医連新聞 第1827号 2025年4月21日号)

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