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民医連新聞

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訪問介護事業所が存続の危機に 介護報酬の再改定と引き上げを 北海道

 昨年4月の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬がすべて引き下げられ、多くの訪問介護事業所が存続の危機に陥っています。全国の訪問介護事業所数は、3万5078カ所(昨年6月末)から3万4499カ所(12月末)に減り、過去最多の81件が倒産。全自治体の83%が過疎地の北海道では、同じ半年間に訪問介護事業所ゼロの自治体が179自治体中12から14に。1つしかない自治体も68に達します。北海道の現状を聞きました。(多田重正記者)

豪雪地帯で利用者をささえる

 「改定前から訪問介護は赤字。維持するだけでも厳しいのに、報酬引き下げで追い打ちをかけられたと感じています」と話すのは、新篠津(しんしのつ)村唯一の訪問介護事業所「新篠津福祉園ホームヘルプサービス事業所」で、今年3月まで管理者をつとめた山口篤史さん(現在も同じ新篠津福祉園で勤務)。
 訪問介護報酬引き下げを受けて昨年夏、北海道民医連や労働組合などでつくる「介護される人もする人も、みんな笑顔に! 北海道連絡会」(以下、「笑顔連絡会」)が、道内すべての訪問介護事業所にアンケート調査を実施。山口さんは「その時民医連を初めて知った」と笑顔で迎えてくれました。
 「訪問介護の赤字を法人内の他部門の収益で補てんしてきたのが実情です」と山口さん。過疎地で高齢化がすすみ、地域に「若い人」が少ないため、ヘルパーもパートでは応募がなく、正職員で確保。住居が農地のなかに点在し、訪問車は必須です。ガソリン代の他、冬の寒暖差や積雪の影響で車体が傷みやすく、事故の危険も高いため、修繕費もかさみます。
 「このあたりは北海道でも豪雪地帯で、冬には前が見えないホワイトアウトがたびたび起こる」。前が見えづらいため、雪山に突っ込むことも。「それでも最大限安全を確保し、利用者の安否確認を兼ねて、できるだけ訪問しています」。利用者が、訪問時に玄関先で凍死体で発見されるなど、痛苦の経験があるからです。山口さんは「ここで生まれ育ち、地元に愛着を持っている利用者が多い。その生活をささえるためにもヘルパーは必要不可欠」と強調します。

全道から寄せられた「もう限界」の声

 訪問介護報酬引き下げの理由に厚労省は、「介護事業経営実態調査」(同省)で利益率が全介護サービスの平均2・4%に比べて7・8%と高かった点をあげ、事業所が「新処遇改善加算」をとれば減収にならないと説明。しかし調査対象が、国が抽出した一部の事業所だけで、平均を引き上げたのもサービス付き高齢者住宅併設など一部の「訪問の効率がよい」事業所と見られています。
 前述の笑顔連絡会の調査では「6月の利益は前年6月と比べてどのように変化したか」(回答総数540)との問いに52%が「悪化した」と回答。「新介護処遇改善加算」で、もっとも高い「1」を算定した事業所(同244)でも59%が「悪化した」と答えました。「報酬の再改定や見直しを望むか」(同544)との問いには「望む」が87%と圧倒的で、今後の事業所の閉鎖・休止の検討(同397)は19・6%におよびます。笑顔連絡会の共同代表、太田眞智子さん(勤医協福祉会理事長)は「今までも苦しかったけど、『もう限界』というのが、共通して寄せられた声」と訴えます。

訪問介護の専門性を生き生きと訴えて

 太田さんが所属する勤医協福祉会も16の訪問介護事業所があり、歌志内(うたしない)市と黒松内(くろまつない)町の事業所は自治体唯一。募集しても応募は限られ、人材不足はどこも深刻です。
 同時に「高齢期は『喪失の時代』と言われます。身近な人との別れや身体機能の低下など、複雑な心情のなかで介護サービス利用となる人が多く、ひとり暮らしの人も多い。そして生活にも、自身の長年のやり方やこだわりがあります。私は、その人の求めている援助を考えながら、押し付けず、励まし、寄り添うなかで関係をつくり、時間をかけて笑顔を引き出す専門性の高い実践を、多くの訪問介護職員から教えられてきました」と太田さん。「昨夏の調査以降、訪問介護職員が、介護の働きがいや専門性を自分の言葉で生き生きと語り、運動をすすめています。7月には参議院議員選挙があります。今後も『防衛費より介護や社会保障にお金をまわせ』と、労働組合といっしょに国や自治体に対して声をあげていきたい」と話しました。

(民医連新聞 第1827号 2025年4月21日号)

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