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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 教育入院を拒否する高齢・独居の糖尿病患者  岡山東中央病院 多職種連携により外来でHbA1cを改善

 教育入院を拒む糖尿病患者に対して、外来で試行錯誤し、多職種連携で血糖コントロールが改善した事例。昨年の第16回全日本民医連看護介護活動研究交流集会で、岡山東中央病院の曽根早苗さん(看護師)が報告しました。

 「血糖コントロール不良の糖尿病患者は教育入院が当然」と考えていましたが、入院を拒否する高齢・独居の患者に出会いました。

【患者】Aさん、80代女性
≪病名≫2型糖尿病、高血圧症 ≪既往歴≫甲状腺機能低下症、下垂体プロラクチノーマ術後
≪ADL≫自立
≪改訂長谷川式簡易知能評価スケール≫26点(2023年8月。20点以下が認知症の疑い)
≪生活環境≫持ち家、ひとり暮らし。当院は徒歩圏内
≪キーパーソン≫弟80歳。他県に夫婦で居住

■「家の中をのぞく人がいる」

【糖尿病の治療歴】2011年よりA病院に通院、2014年に2週間、同院に教育入院。経口血糖降下剤を開始しましたが改善せず、トルリシティ自己注射の指導のため2018年、自宅近くの当院に転院。しかし自分で注射できず、週1回の通院による注射、月1回の診察としました。通院時に食事指導も。転院直後はHbA1c6%台に改善しましたが、2020年11月以降は10%以上に。
 週1回の注射時に食事内容、生活環境の把握につとめ、「看護師の助言でマヨネーズをやめた」との話が聞けましたが、HbA1cは改善せず。2021年11月以降、医師と「10%以下にならないと入院」と約束しましたが「もう少し待って」。理由を聞くと「家の中をのぞく人がいるから、開けられない」と言う状態が続きました。

■カンファレンスで課題明確に

【介入方法】2022年7月、外来看護師でSDHカンファレンスを実施。「自宅を訪問し、服薬状況や生活状況を把握」「調剤薬局にも内服指導を依頼」「もしものときに弟と連絡がとれるようにする」「困ったときに相談できるようMSWと面談してもらう」など、課題をあげて実践しました。カンファレンスの内容を医師に伝え、内服薬の飲み忘れ予防のため、「通院を週1回、処方も1週間単位に。朝・夕の処方も朝のみに」と提案。医師は「治療に差し支えない」と承諾しました。
 Aさんには、通院時に残薬を持参してもらうよう話しました。最初は忘れていましたが、看護師全員で「今度は持ってきてね」と声をかけ続けたところ、大量の残薬を数回に分けて持参。「持っておけば後で役立つと思っていた」と。内服できていないとわかり、調剤薬局に、服用する日付を薬袋に印字してもらいました。調剤薬局は常に同じ薬剤師が対応。1週間処方で残薬が確認しやすくなり、本人も診察室で飲み忘れを正直に話すようになりました。飲み忘れも減少。妄想のような発言は続きましたが、否定せずに受け止めました。
 受診時の食事指導とともに合併症予防のため毎週足浴を行い、皮膚科受診につなげました。患者宅も訪問し、生活に困っているわけではない様子がうかがえました。

■適応能力に応じたかかわり方を

【結果】内服薬を減らせました。週1回、医師と話すことで、「糖尿病は治療しなければならない病気」との理解も深まりました。SDHカンファレンス後、HbA1cも7・1%(2023年10月)に改善しました。
【考察・まとめ】本人の言葉に耳を傾け、人物を理解することにつとめ、Aさんに合ったかかわり方ができたと思います。加齢により、理解に時間がかかる独居の高齢者は、それぞれの適応能力に応じたかかわり方が必要だと感じました。外来という短時間でも、スタッフ全員の声かけで、患者と信頼関係が築けることも学びました。
 今後も固定観念にとらわれず、地域で高齢者が安心して生活できるように支援していきます。

(民医連新聞 第1828号 2025年5月5日号)

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