これでばっちりニュースな言葉 こたえる人 全日本教職員組合前副委員長 波岡知朗さん 与党と日本維新の会が合意した「高校授業料無償化」について
今年4月から段階的に実施される「高校授業料無償化の拡充」。どんな内容なのか。どのように考えればいいのか。3月まで全日本教職員組合副委員長をつとめた波岡知朗さんが解説します。
2月25日、自民党・公明党の与党と日本維新の会は、「高校授業料無償化の拡充」について合意しました。
3月まで、年収910万円未満の世帯に年11万8800円(公立高校の授業料と同額)を支給する形で公立・私立ともに「高校無償化」が実施されてきました。さらに私立については、年収590万円未満の世帯に上限39万6000円を追加で支給する形になっています。3党の合意は、2025年度から年収910万円未満という制限を撤廃し、2026年度からは私立の追加支給の年収制限もなくし、上限も45万7000円に引き上げるというものです。
■高校授業料無償化とは?
高校授業料無償化については、2010年に「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(以下、高校無償化法)が成立し、所得制限のない「普遍主義的な高校無償化」が始まりましたが、2014年から所得制限導入が強行され、「高等学校等就学支援金」制度に変えられてしまいました。その後、2020年から私立への加算支給が拡充され、現行制度となっています。
この制度の最大の問題は、世帯収入で線を引き、高校生に分断を持ち込んでしまったことです。さらに私立の加算支給にも年収の制限が設けられ、二重の分断がつくられたのです。
■「私学助成全国署名」の力
2012年、日本政府は国際人権A規約13条2項(b)(c)の留保を撤回しました。外務省は、このことにより、日本は中等教育(高校など)の「無償教育の漸進(ぜんしん)的導入」に拘束される、と公式に表明しています(同省HP)。「無償教育」とは、誰もが均しく無償で教育を受けることができるという意味です。にもかかわらず、所得制限を導入するなど、同条約留保撤回の趣旨に反する暴挙と指摘せざるを得ないものです。
今回の「高校無償化」は、「お金の心配なく学びたい」という切実な声を全国で集めた私立高校生や保護者、教職員の運動の反映であり、重要な意義をもつものです。年収910万円未満という制限を撤廃することで、2010年の「高校無償化法」制定時に戻ることになり、再び「無償教育の漸進的導入」に向けた動きに踏み出すことが期待されます。
■本質的な無償化の議論を
しかし今回の措置は、公立と私立の開始時期に時間差ができたことや、私立の授業料を全国平均額まで引き上げると言いながら、その額を上回る私立高校が多く、十分な支給額となっているとはいえません。さらに授業料以外の納付金が私立高校だけでなく公立高校でも高額で、保護者の負担は依然として大きいままです。
いま必要なことは、政局の道具にすることや、制約がある制度ではなく、権利としての無償教育を実現するための国民的な議論です。文科省は「高校無償化法」制定時に、高校生に向けて「社会全体であなたの学びをささえます」と前向きなメッセージを贈りました。
新聞の世論調査などで「高校授業料無償化の拡充」への賛成が意外に少ないのは、政府の予算案成立に手を貸す条件として合意するような手法自体に、納得がいかない人が多いということではないでしょうか。子どもたちの権利を保障するための無償化を真剣に話し合い、前進させるときです。
(民医連新聞 第1828号 2025年5月5日号)
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