相談室日誌 連載581 いのち脅かす政治声をあげ、政権に迫ろう(新潟)
安心して治療や療養できる社会とはかけ離れた政策が相次いでいます。高額療養費制度の自己負担額の引き上げは見送られたものの、がん、難病患者に不安を残しました。訪問介護の基本報酬の引き下げはヘルパー事業所の倒産・縮小を加速させ、患者の望む在宅療養を揺るがしています。
Aさんは70代前半の女性。2年前に進行がんが見つかり、パートの仕事を続けることが難しくなり退職。抗がん剤の治療のため、隔週2泊3日の入院をくり返しています。がんが見つかった数カ月後、夫も脳梗塞で入院し、自営業の廃業を余儀なくされ、夫婦合わせて月10万円の年金生活に。治療費が家計を圧迫し、生活保護の利用を申請しましたが、同居の子の派遣収入で最低生活費をわずかに上回り却下。無料低額診療事業の相談でSWにつながりました。
当時Aさんは子の健康保険の扶養に入っていましたが、相談の上で世帯分離・国保加入し、高額療養費制度上の所得区分・自己負担額が抑えられ、夫の債務整理で、「これなら治療費も払えそう」とすっきりした表情で話し、治療を継続しています。
Bさんは独居の60代前半の男性。末期がんで疼痛(とうつう)コントロールが必要となり入院しました。従業員100人を抱える会社の社長で予後半年から1年と宣告されたのち、「お世話になった人たちにおもてなしがしたい」と在宅療養を希望しました。訪問診療・訪問看護・ヘルパーの調整をすすめましたが、人手不足で体制が取れないことを理由に複数のヘルパー事業所から断られました。がん患者の多くは比較的最期までADLが維持され、軽度介護認定になりやすく、短期間での再入院で、収益につながりにくいこともあります。Bさんの容態は悪化し、入院から1カ月で永眠しました。
Aさんの事例で、高額療養費制度は命綱であることを実感しました。4月から入院時食事療養費が引き上げられ、これ以上の負担はいのちを脅かす事態を招くと、危機感も覚えました。Bさんの事例で、2040年までの介護崩壊と言われる時代が、差し迫っていることを実感しました。
当事者や問題が置き去りにされる政策を食い止めるため、私たちは声をあげ、政権へ届けなければなりません。
(民医連新聞 第1828号 2025年5月5日号)
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