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民医連新聞

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相談室日誌 連載582 希望実現の福祉制度に 本人と家族の思いに応え(東京)

 80代のAさんは、蜂窩織(ほうかしき)炎と骨髄炎の治療後、回復期リハビリ病棟に入院。介助量に波があり転倒リスクが高く、常に見守りが必要な状況でした。同居の息子はリハビリ後自宅退院を希望。昼間はAさん1人で過ごす必要がありますが、家には外階段があり、デイサービスに通うのも困難な状況。夜は「トイレに行きたい」と頻回に目が覚めます。Aさんの退院後の希望は「息子が良いようにしてほしい」と。息子は始めたばかりの仕事を続けていきたいとの意向。時間をかけて悩んだ末に「夜間の介助があると仕事を続けながら自宅で看るのは難しい」と施設入所を希望しました。
 退院の期限が迫るなか、息子の希望「頻回の面会・外出・外泊が可能、リハビリ・医療的ケア(創処置・血糖測定・採血など)があり、高額は不可」に合う施設を探しました。極力希望に沿ったところを見つけましたが、施設側では「家族の希望が強すぎる」と受入れに難色を示し、一方で息子はきちんとAさんをみてもらえるのか不安を抱いており、両者の意向はかみ合いません。双方の不安点を聞き共感しながらも、互いの妥協点を探り調整をはかりました。最終的には両者納得の上、その施設へ入所しました。
 回復期リハビリ病棟には、回復するという希望を、本人以上に家族も持って入院します。しかし高齢の人も多いため、リハビリ病名以外の既往、加齢による衰えや機能不全が併発していることもあり、スムーズに回復とはいかない事例もあります。自宅退院を希望していても、現行の福祉制度では家族が仕事を抱えて介護するには限界があります。その一方で、家族の希望に見合った施設はそう簡単には見つかりません。年金の範囲内で入れる施設は限られます。近くて現実的に捻出できる費用で、医療的にも安心で面会や外出ができる。それは決して高い希望ではなく、患者のことを想う家族からすれば当たり前の要望です。
 その要望に優先順位をつけ、妥協する必要があると、当然のように伝えてしまってはいないか。なぜすべての要望がかないにくいのか、ということをもっと追求していかなければならない、感覚を麻痺(まひ)させてはいけないと自戒を込めて思います。

(民医連新聞 第1829号 2025年5月19日号)

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