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民医連新聞

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地域でみんらぼカードTMをひろげ 楽しく「どう生きるか」考える 医師・杉山賢明さん × 岩手・盛岡医療生協と川久保病院ACP委員会

 4月21日付6面「診察室から」で、岩手・川久保病院の杉山賢明さん(医師)が紹介したACP(※)をとりくみやすくする「みんらぼカードTM」。読者からの反響も受け、実践がひろがっているという盛岡医療生協と川久保病院を訪ねました。(丸山いぶき記者)

組合員のつどいで体験会

 「終活とかエンディングノートって、なんだか暗い気持ちになりませんか? でも、このみんらぼカードでは、どう生きたいか、楽しく考えることができる。みなさんでやってみましょう」
 4月下旬、盛岡医療生協湯沢支部が「組合員のつどい」のなかで、みんらぼカード体験会を開きました。呼びかけたのは、支部長の藤島みつさん。昨年に続き3月、同医療生協主催「いのちの章典実践交流集会」で好評を博したカードゲームを、支部の仲間にも体験してもらおうと企画しました。

自然と思いがあふれだす

 「人生の終末期に何を望むか、望むことが書かれたカード5枚を選んでいく」。ルール説明に戸惑いながらも、20人余りの参加者が5~6人1組、それぞれ手札5枚を見せ合いテーブルを囲み、ゲーム開始。「ユーモアを保ちたい」「桜や花を愛でたい」「自分の望みを家族と共有したい」など、前向きな内容も多数含む全54種類のカードから、手札と入れ替え厳選するうち、自然と会話も弾みます。
 「こういうこと、娘が帰ってくるたびに言わねば、と思うけど言えてない」という声や、「5枚には絞れない。私はこの6枚!」と宣言する人もあり、明るい笑いが会場にひろがります。勝敗はなく、「選んだカードの写真を撮り、家族にも見せよう」と呼びかけられました。
 「何回やっても、毎回ちがうカードを選ぶからおもしろい」と藤島さん。支部委員のみなさんも、「○○さんの知らなかった一面を知ったね」「同じカードでも人によって捉え方がちがった」「私ってこんなこと思ってたんだと気づけた」と企画をふり返りました。

父の「もったいなねぇぁ」

 カード開発者の一人、杉山賢明さん(医師)がACPの啓発に尽力する背景には、亡き父に対する後悔の念がありました。
 進行がんで余命1年の父に、告知したのは杉山さんでした。父は一言、「もったいねぇなぁー」。杉山さんは「そうだね」と答えることしかできませんでした。「父の一言には、やりたいことがあるという意味が込められていた。あの時『何がしたい?』と父の思いを掘り起こせていたら―」。
 そんな後悔を、これから大切な家族を見送る人に味わってほしくないと、公衆衛生やSDH(健康の社会的決定要因)の研究者仲間と立ち上げた、一般社団法人みんなの健康らぼで、みんらぼカードをつくりました。「死が差し迫った段階での意思決定や確認は難しい。ACPが大事とわかっていても、なかなかアクションにつながらない。みんらぼカードは、そこに応えるツール」と杉山さん。

多職種住民とともに

 川久保病院の菅原由美子さん(看護師)は昨年来、同医療生協の班会や健康チェックの企画などで10回、みんらぼカード体験の講師をつとめてきました。「そんなに!? 知らないところでどんどんひろがっているのは予想外。ありがたい」と杉山さんも驚きます。
 菅原さんは、緩和ケア認定看護師として多くの高齢患者を看取るなか、「患者それぞれの人生を把握しないまま、医療だけで日々がすすんでいく。もっとその人をみることを大切にしたい」と、同院ACP委員会に2019年発足時から参加。職員向けのACP学習動画をつくり、地域にもひろげようと、委員長の田村茂さん(医師)発案でカードゲームを探すなか、地元・岩手でつくられた、みんらぼカードに出会いました。
 委員会は医師、看護師、リハビリ、SW、薬剤師と多職種で構成。「いろんな視点で各職種がACPのとりくみをすすめようと議論するのがおもしろい」と菅原さん。縁あって同院の非常勤内科医として働く杉山さんも、「医師に遠慮はいらない。患者の生活背景や経済状況を知る多職種、さらに医療生協組合員、住民とひろげているのが良い」と期待を寄せます。
 自治体や大学との協働、学会報告、出版、メディア出演と多彩に活動する杉山さん。今後は「まちかどACP体験会を開きたい」と言います。菅原さんは「その人らしく生きることを地域の人とともに楽しく考えるこのとりくみを、県全体へひろげたい」と語りました。


※ACP(アドバンス・ケア・プランニング):人生の終末期に受けたい医療やケアについて、家族や医療従事者とあらかじめくり返し話し合っておくプロセス。厚労省による愛称は「人生会議」。

(民医連新聞 第1830号 2025年6月2日号)

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