これでばっちりニュースな言葉 こたえる人 原水爆禁止日本協議会 担当常任理事 前川 史郎さん 被爆80年、 選挙で民意示そう
2017年7月7日、核兵器を違法化する核兵器禁止条約(TPNW)が、ニューヨークの国連本部の交渉会議で、国連加盟193カ国の3分の2(122カ国)の賛成で採択されました。同年9月20日には同条約への署名・批准・参加が開始、2021年1月22日に発効。現在94カ国(国連加盟国の約50%)が署名し、73カ国(同約40%)が批准しています。同条約の実効性と展望を、原水爆禁止日本協議会担当常任理事の前川史郎さんが解説します。
TPNWは、核兵器を非人道的な兵器であり、国連憲章、国際法、国際人道法、国際人権法に反するものであると断罪し、「悪の烙印(らくいん)」を押しました。TPNWは前文に「ヒバクシャの苦難を心に留める」と盛り込み、締約国に核兵器の開発、生産、実験、製造、取得、保有、貯蔵、使用とその威嚇にいたるまで、あらゆる活動を禁止。また、被爆者や核実験被害者への援助を行う責任も明記しています。
TPNWは、被爆者とともに日本国民が長年熱望してきた核兵器完全廃絶につながる画期的な国際条約です。TPNWの規範力を強化し、核兵器の使用を防ぐことが強く求められています。
■世界の紛争、核で威嚇
2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵略で、「ロシアは世界でもっとも強力な核保有国の一つだ。わが国を攻撃すれば、悲惨な結果になる」と核兵器で威嚇しました。その後も核使用の脅迫で侵略を続けています。また、パレスチナのガザ地区でジェノサイドを行っているイスラエルは、閣僚がガザへの核兵器使用を「選択肢」と発言。5月7日、インド軍がテロへの反撃としてパキスタンを攻撃し、パキスタン軍は翌日インドを攻撃。核兵器保有国同士がカシミール地方をめぐって武力衝突に。パキスタンのシャリフ首相が、核兵器の運用を担う最高意思決定機関「国家司令本部」の会合を開くと表明しました。これらは、核兵器の使用・威嚇を禁じたTPNWに明確に違反するものです。
■日本は米国の核の傘に
今年は被爆80年。被爆者健康手帳を持つ人は10万6825人(2024年3月末現在)、平均年齢は85歳を超えました。昨年12月10日、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞。被爆者の証言を通して、核兵器の使用をタブーとする世界的規範の成立に貢献したとノーベル委員会はたたえました。
「唯一の戦争被爆国」の日本は、TPNWに署名・批准し、核兵器廃絶の世界的努力の先頭に立たなければなりません。しかし、日本政府はTPNWに反対し、日本の安全はアメリカの「核の傘」に守ってもらう立場です。
3月に国連本部で開かれたTPNW第3回締約国会議には、オブザーバー参加すら拒否。「日本の核抑止政策に誤ったメッセージを与える」との岩屋毅外務大臣の発言のように、アメリカの「核の傘」への依存が理由でした。石破茂首相は3月27日の参院予算委員会で「『核抑止力』論は有用な議論だと思っている」と答弁しています。
■国民は条約参加望む
しかし、大多数の国民はそう思っていません。4月27日、「朝日新聞」の世論調査で、TPNWに日本は「加盟する方が良い」は73%、「しない方が良い」は22%でした。また、日本政府にTPNWへの署名・批准・参加を求める意見書決議は4月7日現在、717自治体議会で採択され、県・市区町村合計1788自治体の40%となっています(図参照)。
6月に東京都議会議員選挙、7月には参議院選挙があります。世論を現実の政治に変える大きなチャンスです。これらの選挙でTPNWを求める国民の意思を形にし、被爆80年・原水爆禁止2025年世界大会で、核兵器のない世界は可能であり、現実的な展望であることを世界に示しましょう。
(民医連新聞 第1830号 2025年6月2日号)
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