ダイキン労働者・元労働者に肺疾患 PFASが影響の可能性 大阪PFAS汚染と健康を考える会
がんなど、さまざまな健康被害が指摘されているPFAS(有機フッ素化合物)の環境汚染が各地で発覚しています。大阪で判明している主な汚染源はダイキン工業淀川製作所(摂津市)。大阪PFAS汚染と健康を考える会(以下、考える会)は4月23日、記者会見し、血液から高濃度のPFOA(※1)が検出された同製作所の労働者・元労働者5人のCT画像から、3人に間質性肺炎の所見があったと発表。同疾患とPFASの関連の可能性を報告した世界初の発表と見られ、労働安全衛生総合研究所(厚労省所管)の産業医学専門誌『インダストリアル・ヘルス』に論文(筆頭著者=うえに生協診療所の医師・金谷邦夫さん)を掲載。4月22日に公開されました。(多田重正記者)
「間質性肺炎の有病率は10万人あたり10人。それが今回、5人中3人に見つかった。作業中に吸い込んだPFOAが粉じんとともに取り込まれ、間質性肺炎を引き起こした可能性が考えられる」。
こう話すのは考える会会長の大島民旗さん(全日本民医連PFAS問題委員長、大阪民医連会長・医師)。5人は、PFOAを使ってテフロン粉末を製造したり、作業空間を共有したりしていました。
今回の発表に至ったきっかけは、考える会が府下の住民や通勤者に呼びかけ、京都大学とともに実施した1190人の血液検査(2023年9~12月)。「検査の結果、PFASの血中濃度は全体として高かったのですが、数百ng/ml(※2)という突出した値の人がいて、それが同製作所で働いていた人だった」と大島さん。考える会は、この検査に参加した4人の労働者・元労働者のうち3人について翌年9月に再検査しましたが、PFOAの数値は下がりませんでした(表1)。同時に、同製作所近くの畑で農産物をつくって食べていた住民5人も追跡。4人がその畑でとれた農産物の摂取をやめると、血中濃度は低下しました(表2)。
血中濃度が下がらない理由は
なぜ労働者・元労働者は血中濃度が下がらないのか。ヒントとなったのは新潟大学の発表(2022年)。テフロンの粉じんが原因で間質性肺炎になったことを証明した1症例で、肺の組織を取り出し、放射線を用いた分析の結果、フッ素の残留を確認しました。新潟大学の発表について、今回の論文の責任著者、小泉昭夫さん(京都保健会社会健康医学福祉研究所所長、京都大学名誉教授)は会見で「これがテフロン粒子と考えられる」と指摘。この患者はフライパンや食器にテフロンを吹き付ける労働者でした。
大島さんを含む論文著者7人で検討した結果、「異物を取り除く働きを持つ肺のなかのマクロファージ(白血球の一種)が、粉じんをPFOAとともに取り込み、それが長く体内にとどまって、少しずつ血中にPFOAを排出しているのでは」と推定。国は、国内で、PFOS、PFOAへの曝(ばく)露が主な要因とみられる個人の健康被害が発生した事例は確認されていない、との立場ですが、論文は見直しを迫るものです。製作所内の汚染状況も明らかにせず、「健康への影響はない」と断言するダイキンの姿勢も問われます。
全日本民医連は3000人の血液検査へ
全日本民医連は現在、全国3000人の血液検査に向けた準備をすすめています。PFAS汚染の全国マップ作成などが目的です。
PFASは水や油をはじき、熱に強いため、フライパン、撥(はっ)水(すい)スプレー、消火剤、半導体の製造、エアコンの冷媒(空気中の熱を取り除く)など、広範に使われています。「日本全国、ここなら安全と言いきれる地域はない。だからこそ全国の汚染状況を明らかにする必要がある」と大島さん。「検査の結果、汚染の可能性が濃厚とわかった地域では、公費による血液検査を求める運動も必要。PFASによる水質や土壌の汚染が問題となり、不安に感じている人たちもいると思う。そうした不安にこたえるアンテナを全職種、全職員が持ってほしい」と話しました。
※1 PFASの一種。同製作所は1960年代~2012年、PFOAを当初は購入、その後製造。周辺地域では今も地下水や土壌の汚染が続く
※2 米国科学アカデミーでは20ng/mL以上が「特別の健康精査を要する」
(民医連新聞 第1830号 2025年6月2日号)
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