• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • YouTube
  • TikTok

民医連新聞

民医連新聞

相談室日誌 連載584 会話できる環境も受療権 医療通訳制度の公的整備を(兵庫)

 Aさんは、南米出身の40代男性で脳梗塞のリハビリ目的で当院に転院。19年前に来日し、日雇いで働いていました。母語はスペイン語で、日本語は片言。在留資格は、生活保護を利用できるものでした。
 転院後の入院生活は、翻訳ツールを使って、コミュニケーションをとっていました。でも、Aさんからの返答は「OK」「NO」の返答が多く、質問もあまり出てきません。Aさんの思いを知るために、翻訳ツールで話すようすすめますが、Aさんの言葉はうまく日本語に変換されません。
 リハビリがすすみ、退院後の生活を相談する時に、文化の壁を感じました。「生活保護」「介護保険」といった用語、療養指導の医療用語を翻訳ツールではどう表現したらいいかわかりませんでした。
 そこで、区役所の同行通訳派遣サービスを利用して、生活保護、介護保険制度の説明をAさんといっしょに受けました。すると、いつもは受け身のAさんが、色々自分から質問したのです。訓練を受けた通訳では、こんなに反応が違うのかと、Aさんの積極的な様子にとても驚きました。さらにAさんの背景を知ることもできました。Aさんの母語は実はワラニ語。スペイン語は、他の外国籍の方とコミュニケーションをとるため、日本に来てから学んだので、対面でないと伝わりにくく、スペイン語を文字で読むことは苦手とのことでした。このため、看護師の療養指導ではNPO法人の医療通訳を利用しました。
 Aさんを通じて、「伝わる」という環境を保障することも受療権の一つだと思いました。病気への理解や再発予防、今後の生活をいっしょに考えていく場面では、双方向のコミュニケーションをささえる仕組みが大切です。現状では医療通訳の提供は十分ではなく、自治体ごとに差があります。多くのところでは、医療通訳の費用は、病院や患者が負担しないといけません。
 少子高齢化に伴う人材不足解消のために、外国人労働者の受け入れがすすめられています。国際化がすすむ日本で、同じ地域にくらす住民として、日本語を母語としない外国籍の方でも、安心して医療をうけられるよう、医療通訳制度を公的に整えていく必要があると強く思いました。

(民医連新聞 第1831号 2025年6月16日号)

  • 記事関連ワード