ケアのクオリティを上げる 病院、施設、居宅へ歯科往診 兵庫・生協歯科
地域で高齢化や独居がすすむなか、歯科受診が困難な患者へのアプローチとして、病院や施設、居宅への歯科往診がとりくまれています。兵庫・生協歯科のとりくみを取材しました。(長野典右記者)
「こんにちは歯医者です。食事は取れていますか。お口のなか、拝見させてください」と歯科医師の冨澤洪基さんは入院患者に語りかけます。まず、患者の右手、左手と握手をして、力のかかり具合でまひや障害の程度を確認してから診察に入ります。
今回の往診先は大阪・西淀病院の病棟。午前中で18人の患者の診察を行います。多い時は30人にもなるとのこと。斎藤桃子さん(歯科衛生士)と医療機器を持ち込み、「矯正とインプラント以外一般的な歯科治療はほとんどできる」と冨澤さん。義歯の調整や形の取り直し、治療の相談など、患者の部屋をまわります。斎藤さんも様ざまな症状の患者の口腔ケアを行います。
退院後の支援も
「まさかここで歯を見てくれるなんてビックリ」と患者の反応は上々。「おかゆより軟飯がええ」「りんごが食べたい」と食への要求も上がってきます。誤嚥性肺炎にならないように、義歯は清潔に保ち、口に合ったものでしっかりおいしく食べて、栄養をとることが大切です。
退院が近い患者には、「退院後、訪問歯科もしていますので相談にのります」と冨澤さんは退院支援につなげています。「退院後、居宅で食べて栄養をとれるためには口腔管理が大切」と指摘します。
病診連携の強み生かす
同院で入院患者の歯科往診を依頼するにあたって、残存歯、義歯、口腔清掃など8つの評価項目で当てはまる問題をスコア化する、口腔アセスメントのOHATを活用。「歯科がない病院なので、歯科医療との連携は大切。退院後の往診につながることは心強い。地域でのオーラルフレイル予防にしていきたい」と病棟副医長の野口愛さん(医師)は言います。
また同病棟の野村真季さん(言語聴覚士)は「歯科往診で歯科衛生士から手技を学び、病棟スタッフの口腔ケアのクオリティが上がっている。情報共有で連携もすすみ、OHATの導入で迅速な歯科往診依頼やシステムなど業務改善になった。病診連携の充実に体制を整えていきたい」と語ります。
しかし病診連携の診療報酬の評価は低く、不十分な状態です。
増える在宅患者
同診療所は1995年4月から歯科往診を開始。民医連以外の病院も含め4つ、介護施設は7つ。在宅患者数は歯科衛生士の訪問も含め、5100人(2024年度実績)受け持っています。
外来歯科と訪問歯科診療を分け、毎日2台の往診車で施設や居宅を回ります。「外来患者数は減っているが、在宅患者数は昨年より1割増加」と事務長の前中瑞枝さんは言います。「食べることができないとQOL(生活の質)が低下し、元気で暮らすには口腔ケアが必要」と士長の青池奈津子さん(歯科衛生士)も指摘します。
往診要求は地域のニーズ
午後は居宅の往診。Aさんは82歳。歩行困難になり、今は夫のBさんが介護を行っています。訪問診療は2024年1月から行っています。「口のなかは大切なので、自宅に来てもらって安心しています」とAさん。Bさんは「もう車に乗せて通院はできないので、定期的な往診は本当に助かります」と言います。その後、5件、訪問しました。
今後、斎藤さんは、「居宅でも患者一人ひとりに平等な医療で、おいしく食べられるようにかかわりたい」と。冨澤さんは「通院が困難になる患者が増えてくる。歯科往診の地域のニーズにこたえたい」と抱負を語りました。
(民医連新聞 第1831号 2025年6月16日号)
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