国連が四度も是正勧告 選択的夫婦別姓の導入を早く
こたえる人 明日の自由を守る若手弁護士の会 國松 里美さん
昨年の衆議院選挙でも、選択的夫婦別姓は、焦点のひとつになりました。選択的夫婦別姓って何?なぜ導入が必要なの? 國松里美さん(弁護士)の解説です。
■自分を手放していく感覚
私は2012年に婚姻(法律婚)し、夫の姓になりました。おそらく多くの人がそうであるように、結婚したら夫の名字にするものなんだろうなぁと漠然と考えた結果です。
同時に、婚姻後も可能な限り旧姓を名乗ってきました。いわゆる「通称使用」です。私が旧姓を名乗り続ける理由は、婚姻によって戸籍上の名字を変えただけで、「國松」であることは変わらないという確固たる自意識があるからです。夫の姓が嫌なわけではありません。生まれてこの方「國松」を名乗ってきたので、この名字の私が自分だというシンプルな話です。結婚したからといって、私が「國松」でなくなるわけではない。仕事でもプライベートでも旧姓を使用してきました。
ところが、子どもが生まれ、成長し、子どもを通しての社会がひろがっていくにつれ、保育園、学校、PTA、習い事、地域のつながりなどで、子どもの名字である戸籍姓で呼称されることが格段に増えました。これが、思いのほかつらい。戸籍名が記載された書類を見、戸籍名で呼ばれ、戸籍名を名乗るたびに、ボディーブローのように気持ちが削がれます。自分が自分でなくなっていく、自分を手放していく感覚とでも言いましょうか。自分の姓を維持できれば、発生しない苦痛。氏名が「『人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容』(最高裁第三小法廷判決1988年2月16日民集42巻2号27頁)だとは、こういうことだったのか!」と、日に日に思いを強くしています。
■選択的夫婦別姓とは
日本で夫婦同姓が義務付けられたのは、1898年(明治31年)の民法改正(750条)からです。
今話題の選択的夫婦別姓とは、夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ婚姻前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)か、選べる制度です。夫婦別姓とした場合、子どもの姓は婚姻時に夫婦で協議して定めるか、あるいは子の出生時に夫婦で協議して定めるかなどの案が考えられてきました。
社会情勢の変化と世論の高まりを受け、すでに約30年前の1996年に、法務省が選択的夫婦別姓を含む民法改正案要綱を公表しました。しかしいまだに改正に至っていません。その後も現在までに、国連女性差別撤廃委員会から四度、是正勧告を受けているにもかかわらず、国会は腰が重いままです。世界で夫婦同姓が義務付けられている国は、残すところ、日本だけになりました。今年の通常国会(1月24日~6月22日)では、28年ぶりに、選択的夫婦別姓制度の導入を含む民法改正案が審議入りしましたが、自民党は導入に反対、法案も野党3党がばらばらに出し(表)、政局の駆け引きの材料にされているように感じました。非常に残念です。
夫婦同姓を絶対に維持したい派(同姓義務付け派)の考えの根底には、第二次世界大戦前の大日本帝国憲法下の家制度への固執があります。結婚したら女性は夫の家に入るもの、その象徴として夫の姓を名乗るのです。女性が「個人」として尊重され、生まれながらの姓を選択できてしまうと、夫、戸主としての権利が脅かされてしまうという恐れがあるのではないかと思います。このように考えれば、同姓義務付け派が、別姓婚を認めないことの合理性を説得的に説明できないのもうなずけます。夫婦同姓が「日本の伝統」と言う人もいますが、義務化は前述のように明治からで事実に反します。
時代は変化し、家族の形は多様化しています。唯一の理想の家族像を押し付けるのではなく、さまざまな家族のあり方を認めることが、誰もが個人として尊重される社会の形成につながっていくはずです。一刻も早い選択的夫婦別姓の導入を、切に望みます。

(民医連新聞 第1832号 2025年7月7日号)
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