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民医連新聞

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相談室日誌 連載585 どう生きたいか意思決定を支援 家庭内DV被害者の権利を守る(鳥取)

 X年六月。心不全で通院中の70代女性のAさんが、突如、頻回に救急外来を受診するようになりました。先月から肺炎で入院中のAさんの夫の在宅退院を控えた折でした。当初は介護負担への強いストレスを語っていたAさん。何度目かの受診の際、主治医に、長年の夫からの身体的・経済的・精神的DVを告白。急性ストレス反応と心不全の悪化でAさんも緊急入院、心療科リエゾンチームが介入。「夫の気分を害さないように我慢してきたが、身体も心も限界」と公認心理師に落涙しました。
 双方が同じ病院内に入院したため、まずはAさんの安全な療養の確保が必要でした。各病棟師長、SW、PSWなど多職種がくり返しカンファレンスを行い、接触を図ろうとする夫に、病状を理由に面会謝絶、家族でも個人情報提供不可の対応を院内で統一。同時に夫の退院調整を急ぐこととなりましたが、夫のニーズは自宅退院して同居再開です。夫の退院支援と、Aさんの被害者支援を並行して行うにあたり、Aさんの担当PSWの私と夫の担当SWで、支援の棲み分けを明確にし、チームとして退院支援にとりくみました。
 夫からの報復を恐れ配偶者暴力支援センターの支援に迷うAさんに、精神科医と公認心理師が被害認知と権利擁護の心理的介入を行い、夫から離れる罪悪感が軽減しました。配暴センターとの面談にはPSW、心理師と意思決定支援をしました。夫はサービスを利用し一人で自宅退院、Aさんは「被害者が逃げ隠れしなければならない」理不尽を吐露しつつシェルターへ退院。弁護士を通じ離婚係争することとなりました。
 Aさんの入院から退院まで安全保護と意思決定支援を一貫して行えたことは、一般病院に精神科チームがある当院の強みだと思いますが、そもそもAさんがDV被害を告白していなければ、生活、権利、人生はどうなっていたでしょう。双方の納得をめざすことは一見中立的ですが、被害者支援で中立は二次加害になりかねません。
 人権擁護は、その人がどう生きたいかという意思決定の支援です。環境要因、社会的背景で意思決定が阻害、制限されていないか、今一度、立ち止まって考えなければならないと痛感しました。

(民医連新聞 第1832号 2025年7月7日号)

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