診察室から ヘルスリテラシーを見つめなおした患者との出会い
私は和歌山生協病院で総合診療科・家庭医の専攻医として働いています。この1年で印象に残った外来患者がいます。1人は30代女性で、健康診断で複数の生活習慣病が判明し、外来で治療を開始した矢先に、妊娠が判明した方です。プレコンセプションケアを行っていなかったことを反省したのはもちろんですが、小学生の時から認めていた尿蛋白に対し、体質的なものと考え受診していなかったことが印象的でした。もう1人は50代男性で、慢性下痢と体重減少で外来を受診し、約半年間診療していました。精査や高次医療機関の受診を勧めるもなかなか理解されず、なんとか説得して検査を行った結果、原因不明であったため、高次医療機関に紹介していました。患者は精査を希望せず帰宅しており、最終的には不幸な転帰となりました。
外来で診察をしていたとき、私は2人に対し「ヘルスリテラシーが低い」と陰性感情を抱いていました。ヘルスリテラシーについて興味をもった私は、中山和弘さんの『これからのヘルスリテラシー 健康を決める力』(2022年、講談社)を読みました。そこには、「ヘルスリテラシーは個人と環境の相互作用の産物であり、保健医療の側から、わかりやすく情報が提供されて、自分にあったものを選ぶ支援がされれば、患者が求められるヘルスリテラシーも少なくなる。市民や患者のヘルスリテラシーの向上もさることながら、そのハードルを下げるための医療者の力をヘルスリテラシーと呼ぶことが増えてきている」とありました。患者のヘルスリテラシーの低さは、私たち医療従事者の責任でもあったのです。
患者は様ざまな背景を持ち、時間も制限されています。個々の患者に合った情報を提供し、支援することは容易ではないかもしれません。しかし、中山和弘さんの「リテラシーは人間の尊厳であり、誰もが持つべき人権である」という言葉を真摯に受け止め、患者と医療従事者の双方向でヘルスリテラシーを高めたいと思います。
(奥田百合、和歌山生協病院)
(民医連新聞 第1833号 2025年7月21日号)
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