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民医連新聞

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診療報酬アップは待ったなし 経営危機打開の運動を急速にひろげよう

 全日本民医連は6月20日、「民医連の事業と経営をまもり抜き地域医療の崩壊をなんとしてもくい止めるための緊急行動提起」を理事会で確認し、全国の県連・法人・加盟事業所に発信しました(6月25日付通達:第ア‐666号)。行動提起は、医療機関の経営危機を訴えるポスター、チラシ、署名を民医連はもちろん、外部にもひろげ、「地域医療を守る会」の結成や、地方議会への働きかけなど、運動の力で政治を変えることで、地域住民の受療権、医療機関の経営を守ろうと訴えています。(多田重正記者)

資金の流出が続き経営危機が深刻化

 「全国どこでも医療機関の経営が深刻で、『明日にも倒れるかしれない』という存亡の危機にある。個別の法人や医療機関の努力だけでは解決できない、未曽有の経営危機がひろがっています。だからこそ、運動の力で、医療機関存続につながる具体的な成果をかならずかちとらなければ」
 このように強調するのは、全日本民医連経営部長の塩塚啓史さん(福岡・健和会、事務)です。
 民医連135医科法人の2024年決算は、経常利益で予算未達成が104法人、償却前経常利益(注1)では同じく未達成が111法人におよんでいます。
 資金が減少した法人は82法人に達し、資金が流出し続けています。「資金ショート」(手元の資金がなくなって事業が続けられなくなる)の可能性が極めて高いとされる指標は、月商倍率(注2)0・7倍以下です。2025年度も同様の資金減少が続けば、資金がこの0・7倍以下となる法人は14法人。2026年度も続けば34法人に達する見込みです。「今年度中に資金ショートが起こる法人があってもおかしくない」と塩塚さんは指摘します。

史上最多の倒産数 今年は半年で70件ペース

 経営危機は、民医連外の医療機関でも同様です。全国の統計では昨年、医療機関の倒産が、過去最多を更新しました。
 帝国データバンク社によれば、2024年の倒産件数は64件でしたが、今年はすでに1~6月までに35件となっており(図1)、年間70件ペース。ふたたび過去最高を更新する可能性があります。
 また、同社の統計で休廃業・解散は2024年に722件となり、これも過去最多(図2)。倒産と休廃業・解散あわせて、2026年には「1000件に達する可能性が高まっている」と同社は指摘します。

経営危機の根本原因は診療報酬引き下げ

 経営危機の根本原因は、社会保障の公的給付を抑えるために、医療行為、医薬品などの「公定価格」である診療報酬を、政府が削減・抑制してきたこと。日本の医療制度は、医療を受ける権利を守るために、日本在住のすべての人が公的医療保険に加入する「国民皆保険」と、いつでもどこでもだれもが医療機関にかかれる「フリーアクセス」を前提に設計されています。医療の公共性の観点から、診療報酬も医療機関が決めるのではなく、国が決める仕組みです。しかし日本政府は、2年に1度の診療報酬改定でマイナス改定を続けてきました(図3)。そこにコロナ禍以降、物価高が襲い、諸経費が増加しました。
 2024年度も物価高のなか、まさかのマイナス改定(マイナス0・12%)。政府は「本体部分」をプラス0・88%としたものの、中身は使途限定の「ベースアップ評価料」(基本給増にのみ使用可)。全体はマイナス改定のため、医療機関の経営改善には効果がなく「ボーナスを予算より大きく減らさざるをえない」例が多発しています。6病院団体(注3)による緊急調査「2024年度診療報酬改定後の病院の経営状況」(1816病院が回答)では、6~11月の比較で2023年度から給与費が2・7%増。その他、医薬品費0・6%、診療材料費4・1%、委託費4・2%、経費(水道光熱費等)3・1%、控除対象外消費税等負担額2・4%の増で、医業収益の増加率1・9%を「(医薬品費以外)全ての経費の増加率が上回った」と公表しました。

老朽化で休止する病院も

 老朽化した医療機関の建て替えも焦眉の課題です。2022年の民医連の調査でも、法定耐用年数である39年以上の病院が32%、30年以上が46%におよびました。
 民医連外では、東京・吉祥寺南病院が建物や設備の老朽化、建て替え費用の高騰などを理由に昨年9月に休止。地域の救急医療が崩壊の危機に直面しています。
 国立大学病院長会議は7月9日に記者会見。2024年の決算状況を報告しましたが、全国44の国立大学病院のうち29病院が赤字。全病院合計の経常利益はマイナス285億円で、前年度のマイナス60億円から大幅に悪化。同病院会議の大島精司会長は「国立病院も、支援がなければ間違いなくつぶれる」と話し、施設の配管が壊れて水がもれたり、医療機器の更新を停止しているなどの現状を訴えました。

期中改定に賛同の声 民医連の請願採択も

 すでに、現状を突破するためのたたかいは始まっています。
 6月14日、北海道民医連は札幌市の大通公園で、職員と共同組織あわせて110人以上が参加し、「地域の医療と介護を守れ 道民医連アクション」を行いました。医師不足の解消などの他、診療報酬、介護報酬の期中改定、見直しを訴えました。
 山梨民医連は、診療報酬の期中改定を求める団体署名を送付。かえってきた署名のひとこと欄には、「ボーナスも出せない、経費や無駄を工夫しても限界」「検査機器の買い替えも困難」などの声が寄せられています。
 大阪・耳原鳳クリニックでは、友の会員を対象としたミニ学習会を開催。全国の医療機関の約7割が赤字経営で、倒産や閉鎖などが増えている現状を訴えて、署名の協力を呼びかけました。
 島根民医連は、診療報酬の再改定や補助を求める請願を県議会に提出。7月2日、全会一致で採択されています。

ピンチはチャンス 内実を率直に訴えて

 病院団体がこぞって期中改定を訴えるようになった今日、「ピンチはチャンスでもある」と塩塚さん。「世間的には、医師をはじめとする医療従事者は贅沢でゆとりある生活をしていると思われているが、実態は全然違う。病棟の看護師も、週2回も夜勤に入るなど、たいへんな労働条件のなかで、患者のために働いている。しかも賃金は上がらない。そういう医療機関の困難を、率直に患者や地域住民に訴えることが大事。内実を率直に訴えれば、共感はひろがります」。
 署名目標は100万筆(来年1月末)です。全職員がまず署名し、共同組織、さらに地域住民や、老人クラブ、市民団体、労働組合、NPOなど諸団体にも協力をひろげ、医療、介護をはじめとした社会保障のあり方を考えるとりくみとして、運動を前進させることが求められています。

(注1)経常利益に減価償却費を足したもの。損益計算書の費用として計上される減価償却費は実際には資金支出がないので、償却前経常利益は、事業活動で獲得できた概算の事業キャッシュとみることができる。
(注2)月商は事業収益の1月平均額、保有する現預金残高が月収の何倍かというのが月商倍率。安定的に資金を回すためには、月商倍率1倍以上が望ましい。
(注3)日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本慢性期医療協会、全国自治体病院協議会

(民医連新聞 第1834号 2025年8月4日号)

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