フォーカス 私たちの実践 認知症の人の居場所づくり 千葉健生病院 孤立せず社会とつながる表情が変化した園芸作業
地域で生活する認知症の高齢者は、介護保険や医療につながらず、症状によっては家族が対応に困っていることがあります。コロナ禍、公共活動の縮小や制限で、自宅以外での居場所づくりが困難であること、集える場所があっても自主性にまかされ、支援がないと継続できないなど、状況は様ざま。そこで、認知症の人に園芸作業が行える居場所づくりにとりくみました。昨年の全日本民医連看護介護活動研究交流集会で、石川真奈美さん(看護師、千葉健生病院)が報告しました。
Aさんは60歳代の男性。前頭側頭型認知症の疑いがありました。大手企業に勤めていましたが、50歳代後半で早期退職。別の企業に再就職するも認知症があり、退職しました。
2023年5月に認知症の診断となり、妻と地域包括支援センターに来ました。Aさんは介護保険の利用をすすめると怒りだすこともありました。同じ時間に散歩に出かけ、一日の歩数は3万歩。食事は三食食べていましたが、体重の減少がありました。自宅には迷うことなく帰宅することができていました。地域包括支援センターに来たときは、「お小遣いを稼ぎたい」「自分にできることを探したい」と語っていました。
期間は2023年4月~2024年3月、場所は地区の民生委員の協力を得て、使用可能な土地「たんぽぽ広場」を利用しました。毎月第三火曜日に花壇の草取り、花野菜の植えを行いました。
このとりくみは2023年度日本認知症ケア学会の地域ケア活動支援事業として行われました。
■笑顔や楽しみも増え
2023年6月から草花の手入れや草取りを始めました。担当職員2人と地域の民生委員1人もいっしょに作業を行いました。園児が散歩中に立ち寄ることがあり、開放中は誰でも入れる広場として活用。Aさんの会話は孫の話題までに発展することもありました。最初は緊張して表情がこわばっていたAさんは、回数を重ねると「楽しみです。次はいつですか」と聞くようになりました。笑顔も増え、冗談を交えて作業を行うようになり、表情に変化が出てきました。
次回の開催日は、本人に口頭で伝え、前日に妻に電話連絡していましたが、活動日以外にも広場に来ることもあり、活動の日時や写真を載せたチラシを作成し手渡すようにしました。
■自分ができる役割求めて
これまでAさんは、妻の見守りの下、一日の大半を屋内で過ごし、認知機能的にも身体機能的にも活動量の少ない生活を送ってきました。認知症でなければ、早期退職もすることもなく、仕事が継続できていたと思われます。認知症の進行が仕事に影響し、本人は違和感を持ちながら、理解できないまま、社会的役割の喪失にいたったと考えられます。介護サービスでなく、自分が役に立てることや、できることを求めていたと思います。
今回のとりくみで、広場がAさんの居場所になり、認知症の人が、孤立せず、社会とつながる、地域で役割を持って生活する支援のきっかけとなったのではないかと思います。
■地域の連携で運営に協力
このとりくみは、病院内で活動している認知症看護認定看護師(筆者)が同法人内の地域包括支援センターと協働し活動した一事例です。
認知症の人が住み慣れた地域でくらし続けられるにはどうしたらよいか、また、地域で認知症にかかわる活動をしたいがどのように行えばいいか考えていた時に、地域包括支援センターの担当職員から声がかかったことがきっかけでした。
地域包括支援センターの職員が日ごろからかかわりのある地域の民生委員の人に活動の趣旨を説明し快く引き受けてもらい、広場の運営に協力してくれました。
事例のAさんと民生委員は同年代でもあり、いっしょにつくりあげる仲間になったこともAさんにとっての社会的な役割や居場所につながったと思います。
(民医連新聞 第1836号 2025年9月1日号)
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