フォーカス 私たちの実践 認認介護の実態と課題 山形・訪問看護ステーションスワン 私の大事なお父さんをとらないで 〜本人・家族の思いに耳を傾ける〜
認認介護は、老老介護以上に共倒れのリスクが高いといわれます(図)。認認介護状態にあるケースとのかかわりをふり返り、今後増えると予想される、老老介護・認認介護の人びとへの、スムーズな多職種連携や、看護に生かすことを目的とした考察を、第16回全日本民医連看護介護活動研究交流集会(熊本)で、窪田真樹子さん(看護師、山形・訪問看護ステーションスワン)が報告しました。
■事例紹介
Aさん、88歳、要介護4。アルツハイマー型認知症、糖尿病、神経因性膀胱、尿閉。小規模多機能居宅介護利用。介護者は80代の認知症の妻。2人くらし。
■看護の実際と提言
【体調管理ができない】膀胱留置カテーテル管理が妻には困難で、異常に気づくことが難しく、基本的な服薬管理も難しい状態でした。妻は発熱や呼吸状態の異常も気づけません。妻の介護力に合わせ、看護師より訪問介護に観察項目を指導・訪問看護・介護の回数の増加と内服介助をするよう、ケアマネジャーに提言しました。
【食事・栄養管理ができない】適切な食事形態の準備、適切な体位での食事介助が難しい状態でした。衛生状態が悪く、賞味期限切れの食べ物や食べかけが散乱している状況で、食中毒の危険性がありました。配食サービスの利用、デイサービスでの夕食摂取を提言しました。福祉用具専門相談員に連絡し、介護食品を手配。デイサービスでの食事摂取状況の確認と指導を行いました。訪問時に妻へ声かけして、明らかに危険そうな食べ物については破棄。訪問介護へも情報提供を行い、同様にしました。
【環境整備・金銭管理ができない】物が散乱した状態でした。妻がベッド柵を外したまま離れるため、Aさんはベッドからの転落をくり返していました。自宅の掃除など、生活援助の利用を提言。ベッドからの転落は、福祉用具の変更を提案。金銭面でのフォローはAさんの妹に連絡し、対応してもらいました。社会福祉協議会の日常生活自立支援事業(金銭管理)の情報提供を行いました。
【介護疲れ・共倒れ・チャイルドレス】子はおらず、介護や意思決定はすべて妻です。訪問中、妻自身も体調不良を訴え、臥(が)床(しょう)していることがありました。介護を理由に、妻自身がデイサービスを利用できなくなっており、妻自身も内服が行えていない状態です。
■思いの表出
看護師より働きかけ、本人・妻・妹・ケアマネジャー(妻のケアマネジャーも含む)と今後の方向性について話し合いました。
Aさんと妻のいのちと健康を守るには、在宅では限界との主治医の意見もあり、施設入所の検討が必要と考えました。しかし、妻から出てきた言葉は「私の大事なお父さんをとらないで」でした。この言葉に強い意志を感じ、サービス提供者側が、本人・家族のため必要と考えることと、本人・家族が望む大切にしたいこととの乖(かい)離(り)が明らかとなりました。再度の話し合いで、2人での入所や、定期的な泊まりができないかを提案しました。
■愛着、喪失感に配慮を
老老介護・認認介護には様ざまな問題があり、各側面からのアセスメント・アプローチが重要です。おのおのが専門性を発揮してアセスメントを行い、連携・共有し、柔軟性を持ってアプローチしていく必要があります。そして、スムーズな多職種連携には、中軸となる立場の存在が、必要不可欠です。
一般的にいわれている老老介護・認認介護の問題点には目が向きやすいですが、介護者の家族への愛着、喪失感に対しては、配慮が欠けやすいと実感しました。
福田峰子(2014年)「老老介護で生活している介護者の抱く思い」『金城学院大学大学院人間生活学研究科論集』第4号には「配偶者を介護する中で、夫婦関係が、介護での相互作用による効果から、愛しい存在として愛着が芽生え、生きがいとしての存在になり、介護を通して夫婦の絆の再構築がみられた」とあります。
今回のケースでも、妻の思いを聞き、家族・夫婦の愛着、絆に対し、配慮が欠けていたと思いました。妻の思いに共感しつつも、本人・家族のいのちと健康を守るためには、在宅介護の限界も感じており、どうすることが正解なのか、葛藤を抱きながらの援助でした。それでも、私たち専門職は、目先の問題にとらわれず、本人・家族の思いに耳を傾け、その人がその人らしく、望む生活を送れるよう、援助していく必要があると再確認しました。

(民医連新聞 第1837号 2025年9月15日号)
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