相談室日誌 連載590 非正規滞在の外国人の受療権すべての人びとに平等な医療を(三重)
Aさんはブラジル出身の日系三世で40代男性。当院へ突然来院し、呼吸苦、倦怠感で受診。そのままうっ血性心不全の診断で入院し、仮放免のため、無料低額診療事業(以下、無低診)を申請しました。日本語は日常会話がやっとで、病状説明、生活歴の聞き取りにも、かなり時間を要しました。当院へ入院する前に愛知・名南病院でも同病名で入院していたとわかり、何度か名南病院のSWに問い合わせをしました。
16歳で来日し派遣労働者だったこと、結婚歴2回、支援を受けられる家族は皆、ブラジルにいることがわかりました。Aさんは在留特別許可申請をしていましたが、手続きは容易ではないため、「日本で仕事はできないし、心臓も治療できないから、早くブラジルに帰りたい」と言っていました。
退院後も外来受診するAさん。当院の無低診は院外処方のため、薬代が発生してしまいます。「生活していくのでやっとなので、薬代は払えないからこのまま帰ります」と、私たちはどうすることもできず悩みました。最終的に主治医と相談し、注射を定期で行っていくことでその場は何とか対応できましたが、病院ができることは限界があり、根本的な問題解決には至っていません。在留資格取得までの道のりは専門的で、あまり公に情報公開されていないことが実情。SWができることも弁護士や支援団体につなぎ、入管へ問い合わせするぐらいで、やるせない気持ちになります。
働き手の人材不足で、多くの外国人が日本をささえる仕組みになりつつある社会で、生存権が守られず、病気になれば、人権侵害されている実情は多々あります。非正規滞在と聞けば、怖い人、何か犯罪をするのではないかと想像しがちですが、それぞれに事情があり、今の立場になってしまったことは知っておくべきです。
民医連の病院も経営状況が厳しいなかにマンパワーには限界があります。近隣の三次救急を受ける大学病院などのSWも、病院だけでこの問題は解決できず、多くの負債を抱えていると聞きます。国としての政策を整備しなければ外国人だけでなく、日本人の生存権侵害がさらにすすむと思います。人種関係なく、いのちの平等が当たり前になるよう、強く発信していきたいです。
(民医連新聞 第1837号 2025年9月15日号)
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