熱中症実態調査 気になる患者をピックアップし訪問 SDHの視点持つ医療機関 兵庫・東神戸病院
2025年5~7月の全国の熱中症による救急搬送者数は6万人近くになり、過去2番目の多さに。兵庫・東神戸病院は「熱中症実態調査」を実施。気になる患者宅へ訪問し、熱中症の注意を促しながら住環境問題など、調査を行っています。(高瀬佐之記者)
情報は医師から
東神戸病院は、今年8月19日までに4回の訪問活動を行っています。対象は、職員から集まった「気になる患者」です。院内に呼びかけ、60軒程を訪問しています。
各県連でとりくんでいる熱中症訪問活動をふまえ、「私たちの病院でも実施したい」という声があがり、院長の遠山治彦さん(医師)を中心に、今年6月「熱中症調査実行委員会」を結成しました。浅田友啓さん(医師)が実行委員長になり、地域の実態調査や予防啓発を通じて、いのちと健康を守る活動を職員とともにすすめています。
熱中症調査訪問は、職員から寄せられる「気になる患者」の情報をもとに訪問先を決めています。これまでの候補は全体で120軒を超えており、その大半は医師からの声です。診察室での会話や検査控えの場面など、患者とのやりとりや言動から「気になる」とされた患者がピックアップされ、訪問先候補とされています。
地域訪問の意義
8月19日、今年最後の訪問活動の参加者は10人。5グループで16軒の訪問を行い、対話は8件でした。今回、遠山さんに同行しました。
開始時間は14時。手元にある温度計は36・5度を超え、太陽は容赦なく照りつけます。この日、神戸市には熱中症警戒アラートが発表されていました。
熱中症調査活動では、事前の連絡をせずに患者宅を訪問しています。これは、事前に知らせることで、日常のくらしの様子が把握できなくなる可能性があるためです。
訪問した浅海さん(仮名)は、インターホンを押すと怪しげに扉を開けました。遠山さんが「東神戸病院の…」と声をかけると、「先生かい? どうぞ、はいって」と表情を和らげ、安心した様子で迎え入れました。地域に根ざす病院の存在と、住民との確かな信頼関係がそこにはありました。浅海さんは、98歳。エアコンを利用しており、介護保険サービスのヘルパー利用状況も確認できました。調査は熱中症対策の項目だけでなく「経済的不安」や「社会との交流」の項目もあります。
しかし、他に訪問した3軒はいずれも不在でした。遠山さんは、「だいたい半分は不在です」と話します。「対話できる軒数は限られる。でも、地域に出ていくこと自体に大きな意味があると思う。診察室にいるだけでは見えてこないことが、たくさんある」と語ります。地域に根ざした活動は、住民の生活に寄り添うための大切な一歩となっています。
職員の意識も変化
活動終了後、「○○さんは元気そうで」「介護用ベッドもあってヘルパーさんも入っている様子だった」「見るからに室外機が故障していて心配になった」など、感想や気づきを共有する職員たち。
活動を通し、職員の意識にも変化が。患者の住環境を知ることで、入院時には、退院後の生活を考える職員も増えました。実行委員会の中知枝さん(事務)は、「参加した職員の、患者への関心や意識が変わるきっかけになることがうれしい」と語ります。実行委員長の浅田さんは「病気だけ治せばよいわけではない。病気には、貧困や住環境など、様ざまな問題が絡み合っている場合がある。SDH(健康の社会的決定要因)の視点を持って、患者と向き合える医療機関でありたい」とのべました。
東京都は高齢者世帯などを対象にエアコン購入費の補助を8万円に引き上げました。しかし対象機器は高額で、低所得者は補助制度から取り残されてしまう問題があります。記録的な猛暑が続くなか、民医連のいのちを守るとりくみが、求められています。
(民医連新聞 第1837号 2025年9月15日号)
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