これでばっちりニュースな言葉 こたえる人 大阪公立大学大学院経済学研究科准教授 明戸 隆浩さん 外国人優遇は本当か? 「日本人ファースト」がつくり出す虚構の敵
先の参院選で一部有権者に刺さった「日本人ファースト」。ヨーロッパ政治との類似点と、その主張の根拠のとぼしさを検証します。ナショナリズム・エスニシティ・排外主義が専門の社会学者、明戸隆浩さんによる解説です。
■欧州に近づく日本の政治
今年7月の参議院議員選挙では、「日本人ファースト」を掲げた参政党が大幅に議席を増やし、比例代表で自民党と国民民主党に次ぐ3番目の票を得ました。ヨーロッパではフランスの国民連合(旧国民戦線)やドイツのAfD(ドイツのための選択肢)のような極右政党が選挙で上位に来ることが常態化していますが、日本では主要な右派政党である自民党よりもさらに右の政党が「成功」することは難しいと言われていました。今回の選挙の結果は、日本の政治もヨーロッパに近づいていることをしめすようにも見えます。
しかし、そこで叫ばれた「日本人ファースト」の前提となる「事実」は、限りなくとぼしいものです。日本の外国人比率は2024年にはじめて3%に達しましたが、ヨーロッパでも特に外国人比率の高いドイツでは15%、フランスでも10%を超えています。もちろん外国人の受け入れは単純な比率だけで決まるわけではありませんが、少なくとも日本が外国人受け入れについて長く消極的であり、つい最近まで「日本にいるのは『日本人』だけ」という発想が根強い国だったことは、確認する必要があります。
事実にとぼしいということでいえば、ネットなどで盛んに喧伝(けんでん)される外国人関連の様ざまな「問題」も同様です。「外国人による国民健康保険の未納」はその典型例ですが、確かに厚生労働省が今年4月に発表したデータによると、日本人(93%)に比べて外国人(63%)のほうが収納率は低いです。しかしそもそも社会保険は拠出があって初めて給付がなされるものであり、合理的な理由なく未納が続けば給付自体なされません。また同じく厚生労働省によれば、国民健康保険における外国人の医療費は全体の1・39%で、外国人被保険者の割合(4・0%)をかなり下回ります。未納により自費での診療を強いられる外国人が増えるのは問題ですが、それはよくいわれるように制度を壊すからではなく、制度から排除される外国人が増えるからです。
筆者が属する大学界隈でも、似た問題があります。今年の春以降、中国人留学生に多額の給付がなされているという情報が急激に拡散されました。これは実際には優秀な大学院生に生活費や研究費を支給する「次世代研究者挑戦的研究プログラム」で、確かに対象学生の4割程度が留学生、3割程度が中国籍です。しかしこれは現在の日本の大学院の現状を反映したものにすぎず、また大学院が多国籍の学生で構成されるのは多くの国で同様です。むしろ問題は、対象に外国人が「含まれる」だけで、あたかも外国人「だけ」が優遇されているかのように情報が拡散される、現在の状況でしょう。
■偽情報が制度を変える
にもかかわらず、こうした情報は容易に実際の制度変更につながります。大学院生向け支援制度については、外国人留学生が生活費支援の対象から除外されることが今年6月に決定されました(研究費については継続)。また国民健康保険については厚生労働省が先に見たようなデータを示して誤情報の拡散に警鐘を鳴らしていますが、その一方で与党である自民党は、今年6月に発表した外国人政策にかかわる提言で、外国人による制度の「適正利用」を求めることを打ち出しました。
日本では2000年代後半から「在特会」らによる排外主義が問題となりましたが、今起きているのは、そうした排外主義が政治の「ど真ん中」に現れる事態です。しかし冒頭で触れたヨーロッパの状況を見ればわかるように、政治に排外主義を持ち込んで外国人を「敵」に仕立てたところで、現実の問題は解決されません。
今後、日本が悪い意味でヨーロッパにならうのか、それともそれとは違う新たな道を切り開くのか。今目の前にあるのは、日本の長期的な将来にかかわる、重要な岐路です。
(民医連新聞 第1838号 2025年10月6日号)
