相談室日誌 連載591 地域にアンテナ張りめぐらせ早期に発見支援していく視点(奈良)
Aさんは80代前半のひとり暮らしの男性。心不全、糖尿病、うつ病、大腿骨骨折の手術歴などがあり、筋力低下で歩行も不安定です。数年前に近隣の人が「外で転倒して動けなくなっていたけど救急車や受診を拒否。その後私が家事を支援している。介護保険が必要ではないか」と地域包括支援センターに相談がありました。介護保険の申請をし、要介護1の認定が出ましたが、過去に介護保険料の未納があり、給付制限で負担割合が3割になっていることがわかりました。Aさんは金銭的な負担のためすぐには介護保険サービスを利用しませんでした。そこでまずは地域包括支援センターを中心に、介護保険を使わない行政サービスの提案や無償の支援、保険料の納付計画を行政窓口と交渉したり、当法人の無料低額診療事業につないだりしてきました。私もケアマネジャーとして、このころにかかわりを持つようになり、生活環境をどう整えていくかいっしょに考えてきました。結果的には未納だった保険料の納付がすすみ、1割負担で介護保険サービスが利用できるようになりました。しかし経済的理由で保険料が支払えなかったAさんにとって、サービス利用時の自己負担まで増額されていた時期は介護保険サービスを利用しづらい状況だったことは言うまでもありません。
あとになってAさんから聞くと、保険料が支払えなくなったのは、長期入院したときの入院費の支払いがきっかけだったそうです。「入院費用が高額で介護保険料を支払う余裕がなくなったが、当時は介護認定を受けていなかったので、後にこんなことになる実感がなく後回しにした」と。当時の病院(民医連外)に相談できる人がなく、家族も全員県外で疎遠、「もっと早く誰かに相談していたら良かったけど、どこに相談して良いかわからず抱え込んでいた」と。
私たちは普段、私たちの病院にかかっていたり、介護認定の人びとに対しては適切に支援していくことができます。しかしその一歩前の段階で、困難を抱えながらも自ら発信できずに困っている人びとにいかにアンテナを張りめぐらせ、地域から早期に発見して支援につなげていくかという視点の必要性をあらためて感じる事例でした。
(民医連新聞 第1838号 2025年10月6日号)
