• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • YouTube
  • TikTok

民医連新聞

民医連新聞

患者のいのちにかかわるOTC類似薬の保険はずし

 公的健康保険から「OTC類似薬」をはずす動きが強まっています。政府は医療費削減のためだと言いますが、「治療ができなくなる」と批判されています。OTC類似薬って何? どんな問題があるのか。全日本民医連理事で、「民医連新聞」でもおなじみの「副作用モニター」担当者、中川直人さん(薬剤師)に聞きました。(多田重正記者)

 OTCは、Over The Counterの略。医師の処方せんがなくても、薬局で薬剤師、または登録販売者の説明を受けた上で「カウンター越しに」購入できる薬を「OTC医薬品」と言います(図1)。
 一方、医療現場で使う医療用医薬品には、(1)医師の処方が必要な「処方せん医薬品」と、(2)医療用医薬品のなかでもOTC医薬品と同様の有効成分を持つ医薬品があります。(2)が「OTC類似薬」と呼ばれるものです。
 政府は、このOTC類似薬を保険からはずし、OTC医薬品にすることで医療費を削減しようとしています。6月に閣議決定した「骨太の方針2025」(経済財政運営と改革の基本方針2025)にも「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」を明記しました。
 しかしOTC類似薬は、約7000品目もあります(図2)。「解熱鎮痛剤、アレルギー薬、胃腸薬、皮膚科用塗り薬、湿布薬、漢方薬など、日常診療で頻繁に使う薬が多い。これらが保険からはずされると、地域医療が成り立たなくなる」と中川さんは指摘します。

問題その1
経済的負担が一気に増加
国民皆保険制度にも穴が

 具体的に、どのような問題が起こるのか。第一に、患者の経済負担が膨れ上がり、治療の壁となることです。
 頭痛や生理痛、歯痛などでおなじみの解熱鎮痛剤ロキソプロフェンナトリウム(成分名。以下、ロキソプロフェン)。医療機関で処方されるロキソニン60mg錠は、1錠あたり10・4円です。ところが同量のロキソプロフェンを含むロキソニンS(薬局での市販名)は、12錠入りで税込767・8円(10月7日現在、薬局A)。1錠あたり64円で、処方薬の約6倍です。
 こんなに高額になるのは、自由価格だからです。広告料も上乗せされます。OTC類似薬の保険はずしは「10割負担」よりもさらに高額になります。
 胃炎の患者にはファモチジン(胃酸分泌抑制剤)を処方されることも。このファモチジン10mg錠の薬価は1錠10・4円。しかし同量のファモチジンを含むガスター10(市販名)は、12錠入りで税込1738円(同、薬局B)。1錠あたり144・8円で、価格比は13・9倍です。
 「当法人(メディカプラン京都)の薬局でも、痛み止めとともに、その副作用である胃腸障害の予防としてファモチジンを処方されている慢性疾患の患者がいる」と中川さん。「ファモチジン10mg錠は、30日処方(毎日2錠ずつ)で624円。負担割合3割だと、自己負担額は187円です。かたや薬局で買うガスター10は30日分に換算すると8690円で、その差は単純計算で8503円にもなる」
 これはファモチジンだけの額。OTC類似薬が保険からはずされ、複数以上の医薬品を必要とする患者ほど、個人では負担できなくなります。
 保険料を払っているのに、「治療に必要な薬に保険が効かない」事態が起こり、国民皆保険制度に穴が空きます。子ども医療費無料(または少額負担)が実現している自治体に住んでいても、「小児科を受診した後に高額なかぜ薬、解熱鎮痛剤、塗り薬などを買いに行く」ことに。月ごとの自己負担上限が認められている難病患者や、高額療養費制度を利用する患者にも深刻な影響をもたらします。

問題その2
危ぶまれる安全性
副作用も自己責任に

 第二に、安全性の問題です。政府は、セルフメディケーション(軽度の体調不良や病気・けがは自分で対処する)を理由に、OTC類似薬の保険はずしを推進します。しかし「OTC類似薬を自己判断で服用するのはリスクがある」と中川さんは言います。
 表2は、民医連加盟の医療機関・薬局から寄せられた、OTC類似薬の副作用モニターの報告数。ロキソプロフェン14件、アセトアミノフェン(カロナールなどに含有)11件の重篤な副作用が報告されています(2020年4月からの5年間)。ロキソプロフェンでは急性腎不全やアナフィラキシーショック、アセトアミノフェンでは肝障害や呼吸困難も。
 これらの報告は、氷山の一角。もし保険からはずされれば、これらの副作用も、医療機関や保険薬局の知らないところでひろがることになります。「副作用モニターの事例も、民医連の医療機関や薬局に来ていた患者だからわかった。発見が1日でも遅れていたら、いのちにかかわっていたかもしれない例もありました」と中川さん。
 健康に関する情報が氾濫している今日、国民のへルスリテラシー(健康について情報・知識を正しく分析・理解し、活用する能力)も課題です。日本医師会の宮川政昭常任理事は、日本が、ヘルスリテラシーに関して国際的にも低い位置にあることを指摘した上で、「そのような状況下で医師の診断なしに市販薬を選ぶことは、誤った薬の使用や相互作用による健康被害の拡大につながる」と警鐘を鳴らしています(今年2月13日の記者会見)。
 さらに若年層を中心に、医薬品の過剰摂取(オーバードーズ)の拡大が社会問題となっている今日、OTC類似薬の保険はずしは、オーバードーズによる健康被害を拡大することにもつながります。

問題その3
医薬品の流通に
影響の可能性

 第三に、OTC類似薬の保険はずしが、医薬品の適切な流通を妨げる可能性です。コロナ禍の2020年、大阪の吉村洋文府知事が会見で「新型コロナウイルス感染症にうがい薬のイソジンが効果的」と発言。各地の薬局でうがい薬を買い求める人が殺到し、即日完売となった出来事が。
 「これと同じようなことが、他の薬剤で起こりかねない。OTC類似薬がすべてOTC医薬品に切り替わったら、必要な薬でも手に入らない事態がひろがる可能性がある」と中川さん。
 しかも現在、医薬品が不足。背景には2020年末以降、ジェネリック医薬品(特許がきれた医薬品を安く製造・販売)メーカーの相次ぐ不祥事やエネルギー価格高騰など、さまざまな要因が。2010年代後半、政府が生活保護利用者の原則ジェネリック使用の強制など、ジェネリック医薬品の普及を拙速にすすめ、毎年の薬価改定で実質的に切り下げたことも、メーカーの負荷に。最初の不正発覚から約5年がたった現在も医療用医薬品の約20%が限定出荷、製造中止の事態です。
 「この現状でOTC類似薬を保険からはずして薬局で市販されることになれば、たとえば『咳止め剤がどこにもない』事態が起こりうる。うがい薬のときはドラッグストアにうがい薬がなくても、病院や保険薬局にはいくらか在庫があった。この教訓からも、OTC類似薬の保険はずしは問題ではないか」と中川さんは指摘します。

さらにねらわれる医療制度の改悪

 ほかにも、「医療現場では、保険が効く薬と効かない薬を同時に処方、調剤するのか?」「通院患者の服薬管理はどうなるのか」「往診患者は、寝たきりでもOTC薬を自分で買いに行くのか」など、未解決の課題は多数あります。
 OTC類似薬の保険はずしを先導しているのは、日本維新の会です。国政選挙で少数与党となった自民党・公明党に対し、8兆円を超える防衛費をもり込んだ2025年度予算成立に協力する見返りとして、「医療費年間4兆円削減」を合意させました。この4兆円削減の手段のひとつが、OTC類似薬の保険はずしです。
 日本維新の会が今年6月にまとめた「社会保険料を下げる改革提言」では、平均で年間6万2500円の社会保険料引き下げを掲げています。この6万2500円は、協会けんぽ、組合健保、共済組合の被保険者数で4兆円を割ったもの。1カ月に直せば約5200円。現役世代の労働者の場合は労使折半のため、軽減額は月約2600円です。しかしOTC類似薬が保険からはずされて市販薬を購入することになれば、たいへん高額な医薬品を購入することとなり、軽減額は、ちょっとした病気・けがで吹き飛んでしまいます。
 さらに、OTC類似薬をすべて除外しても最大で1兆円にすぎません。日本維新の会は、11万床の病床削減、金融所得の窓口負担への反映、民間保険の活用、「低価値医療の保険適用の見直し」、高齢者の窓口負担3割化、外来診療の診療報酬を出来高払いから包括支払いを含む他の方式にすることなどを提言。自民党も、今年大問題になった高額療養費の上限額引き上げをあきらめていません。

学び、調べ、考えて現場の声をあげよう

 日本医師会、日本薬剤師会、全国保険医団体連合会などが、反対の声をあげています。
 NPOアトピー協会は、保険適用除外が検討されているOTC類似薬のなかに、「アトピー患者さんが治療に欠かすことのできないステロイド外用薬や保湿剤ヒルドイド(ヘパリン類似物質製剤)も含まれて」おり、「保険適用外となれば、長期治療が必要な患者さんの経済的負担が大幅に増え、治療が継続できない事態が発生することは明らか」だと訴えています。
 中川さんは「OTC類似薬の保険はずしを許してはいけません。私たちの事業所に来ている患者さんに、どのような影響を与えるのか、自分たちの業務にどんな影響が出るのか、学び、調べ、考えて、現場の声をあげてほしい」と強調しました。

(民医連新聞 第1839号 2025年10月20日号)

  • 記事関連ワード