相談室日誌 連載592 チームで考え寄り添う患者が望む転院支援(香川)
Aさんは40代男性。仕事で香川に来ました。半月後に脳出血を発症し急性期病院で治療後、リハビリ目的で当院へ転院しました。右片麻痺と失語症が残り、入院当初は意思疎通を図ることが困難でした。Aさんは東北地方のB県出身で独身、発症後生活保護を利用しています。地元には生活保護利用中の両親、キーパーソンの兄がいます。香川に頼れる人はなく、兄は電話での連絡は可能ですが、金銭面や身元保証などの責任は負えないと支援に消極的でした。
カンファレンスでは、B県の回復期病棟へ転院し、リハビリを継続しながら退院支援を行うことがAさんにとって良いのではないかと意見が出ました。Aさんは転院の意味が理解できず、B県へ帰りたいのか、香川に残りたいのか、意思が確認できませんでした。また両親は要介護状態、兄は仕事が忙しく休みがないため、かかわりは現状と変わらないとの返事でした。
Aさんの退院先の選定に、チームや相談室内でも何度も話しあい、一番良い選択肢を考え続けました。幸いAさんのリハビリは順調にすすみ、身体機能や理解力が向上しB県に帰ることになりました。また兄にAさんの状況を伝えたところ、できる範囲で協力すると返事がありました。転院先は民医連C病院へ相談し、転院が決定しました。
しかし新たな問題が出現。生活福祉課から移送費は支給できないと言われました。理由は遠方に転院し治療を受ける必要性が低いと判断し、家族が身元保証になれないことも理由にあげられました。SW、看護師、事務と県や市の生活福祉課へ何度も交渉。3回目の交渉でAさんの地元へ帰りたい気持ち、兄はできる範囲で協力していく姿勢であることを伝えました。医師の意見書も提出し、ようやく移送費支給が決定しました。SW、看護師が付き添い、新幹線を乗り継ぎ、香川から約950km離れたC病院へ転院できました。B県へ帰った時のAさんの笑顔が忘れられません。
今回のケースでは、チーム一丸となってAさんの思いに寄り添いました。Aさんの今後の生活のため、どうしたらいいのかあきらめずチームで考え続け、思いを伝える大切さを学びました。
(民医連新聞 第1839号 2025年10月20日号)
